映画興行の明暗 日本は好調、前年超えほぼ確実 深刻不振の韓国は9月で前年比52%【2/2】
東京国際映画祭と釜山国際映画祭を比較すると、映画好きの若い世代が活発に動く韓国のほうが動員は多い。一方、今年の映画興行では、日本は好調だが、韓国は深刻な不振に苦しむ対照的な結果になっている。
(「アジア最大は東京国際映画祭か釜山国際映画祭か」より続く)
映画興行がコロナから順調に回復する日本では、年間興収が2019年の2611億円(歴代最高)から2022年で2131億円(100億円超え4本)と8割ほどまで回復。今年は上半期で100億円超えが3本生まれ、9〜10月が停滞気味ではあるものの、年間興収で前年超えはほぼ間違いなく、2019年の歴代最高にどこまで迫るか、もしくは超えることができるのか、11〜12月の興行に注目が集まっている。
一方、韓国は2019年の総興収に対して2022年は68%ほどまでしか回復しておらず、今年は8月までが前年同月比65%、秋の連休がある9月が同52%という深刻な不振に陥っている。
2010年代の好況期には、毎年のように動員1000万人を超える作品が5本前後は生まれていたが、コロナ禍は4年間でわずか3本(『犯罪都市』シリーズ3作)のみ。今年の韓国でのヒットは、『THE FIRST SLAM DUNK』『すずめの戸締まり』といった日本アニメのタイトルが挙がる状況。『犯罪都市』シリーズ以外の韓国映画のヒットが生まれていない。
韓国映像コンテンツといえば、映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のほか、ドラマ『愛の不時着』(2019年)『梨泰院クラス』(2020年)『イカゲーム』(2021年)が世界を席巻するグローバルヒットとなり、韓国クリエイティブが一躍注目された。
しかし、その後に続く世界規模のヒットが生まれていない。これに対してKOFIC(韓国映画振興委員会)のパク・キヨン委員長は「Netflixドラマ『グローリー』と『D.P. シーズン2』が世界的にヒットしています」とする。
ただ、日本において両作は、韓国ドラマファンのなかのヒットではあるが、一般層へのブレイクスルーには至っていないように思われる。映画に至っては、話題になるようなヒットが出なくなって久しい。
「たしかに映画では『パラサイト』に続くヒットが生まれていません。ポン・ジュノ監督のようなグローバルヒットを創出する才能のある映画人を韓国映画界はもっと必要としており、次のポン・ジュノを育てることがKOFICとKAFA(韓国映画アカデミー)の課題です」(パク・キヨン委員長)
映画祭はフェスとして盛り上がる韓国だが、足元の通常興行がコロナから回復せず、深刻な不振に陥っている。その背景のひとつには、コロナによって公開できなかった100本近い作品の制作費(6000億ウォンほど)が回収できず、メジャー映画会社の新作数が激減(製作費30億ウォン以上の作品は昨年37本から今年11本)していることがある。
そして、より大きな問題としてあるのが、コロナを経たライフスタイルの変化による若年層の映画館離れだ。配信サービスでのネット視聴が一般的になり、さらにコロナ禍の映画チケットの値上げも、ネガティブに作用した。
これは日本でも同様の状況だが、日本ではコロナを経て映画館での鑑賞が旅行や趣味のイベントなどと同じく、体験を楽しむコト消費として位置づけられ、大作アニメをはじめとしたイベントムービーが興行を支えている側面がある。
もともと映画好きが多い韓国だけに、マンネリ化を言われる自国映画に、次の流行を生み出すような新しく質の高いコンテンツが戻れば、映画館での鑑賞に回帰する流れができてくることも期待できるだろう。
特別なイベントである映画祭には、すでに観客が戻っている。世界的ヒット創出のポテンシャルがある韓国映画界の次のクリエイティブを楽しみに待ちたい。
※韓国興行数値はKOFIC・パク委員長取材およびKOFIC「Korean Cinema by the Numbers」より
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