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庵野秀明『シン・ゴジラ』と山崎貴『ゴジラ-1.0』の決定的な違い

武井保之ライター, 編集者
『ゴジラ-1.0』(C)2023 TOHO CO., LTD.

『シン・ゴジラ』(脚本、総監督:庵野秀明)以来7年ぶりの国産実写ゴジラ作品であり、ゴジラ生誕70周年記念作品となる『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』(11月3日公開)が東京国際映画祭のクロージング作品として上映された。

 本作の脚本、監督、VFXを手がけたのは山崎貴監督。前作は庵野カラーが全面に出た“革新”の『ゴジラ』だったが、今作は王道に帰しながらも山崎貴監督のメッセージ性が強く表れた“希望を託す”『ゴジラ』というべき作品になっていると感じた。

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今作も製作委員会を設けない東宝単独出資

 ゴジラは東宝が世界に誇るIP。同社内にはゴジラの国内外のIP戦略を司る専門部署および各セクションの精鋭が集うゴジラ戦略会議が設けられ、ゴジラ関連事業を統括する執行役員の大田圭二氏はチーフ・ゴジラ・オフィサー(CGO)の肩書を持つ。

 そんなIPを活用する最大事業のひとつとなる国内版映画は、前作もそうだが今作でも製作委員会を設けず、東宝単独出資。社運を賭けた大作といっても過言ではなく、そのメガホンは山崎貴監督に託された。

 今作の舞台は、終戦直後の焦土と化した日本。戦地での激しい戦いや苛烈な大空襲をなんとか生き延びた日本人が、戦後の混乱のなかから復興に向けて立ち上がろうとするときにゴジラが現れる。苦しみから抜け出そうとするなか、再び絶望を目の当たりにする人々。敗戦を経た当時の日本人の思いと未来への希望が力強く描かれる。

戦争への日本人の心のわだかまりを払拭する戦い

 山崎貴監督と言えば、代表作のひとつである『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)や『永遠の0』(2013年)で終戦後の昭和の街と家族や、第二次世界大戦時の特攻隊員の家族をこれまでにも描いてきている。

 今作でもその舞台と登場人物には共通項がある。山崎貴監督にとって日本が経てきた戦争は特別な思いのあるテーマなのかもしれない。

 戦後の日本人には、今作で描かれる終戦間近のアメリカとの戦闘に対して、軍人にも民間人にもそれぞれ心の底にひっかかっている心の傷やわだかまりのようなものがあったことだろう。たとえば、戦場から自分だけ生き残ったことや、空襲で家族を助けられなかったことへの悔恨、国のために命を懸けることへの疑問、国と軍の統治に対するいいようのない怒りや悲しみ、戦争への言葉にできない悔しさなど。劇中にはそうした思いの数々がにじむ。

 そんななか、ゴジラという新たに現れた敵に対して、国や軍に統治、強制された戦争ではなく、市井の人々それぞれが考えて道を探して力を合わせ、大いなる脅威に対して納得して立ち向かうことで乗り越える。それは、戦後の日本人が、戦争で残した心のつかえを取り除き、心の傷を癒やすための戦いになる。

 当時の人々が戦争に対して心のなかでこうあってほしいと願った戦いを再びやり直す。それによって安寧を得てほしい。今作のゴジラと人間との戦いには、そんな山崎貴監督の願いが込められているように感じた。

山崎貴監督にのしかかる『シン・ゴジラ』プレッシャー

 近年の『ゴジラ』作品は、2000年代に入って興収が伸び悩んでいた。しかし、その流れを前作『シン・ゴジラ』(82.5億円)が大きく変える。従来のゴジラの枠組みを超える解釈による、革新的だった作品性への驚きと評価は大きかった。今作の脚本、監督を務めた山崎貴監督への重圧はとてつもなく大きかったことだろう。どうしても前作との比較の声は生まれ、前作超えを期待される。

 しかし、先に述べたように、同じキャラクターを扱うシリーズでありながら、それぞれの監督のカラーがあまりにも強く全面に押し出された両作は、比較のしようがない。どちらがおもしろいかは個人の好み次第になるだろう。ただ、イベントムービー的なスペクタクル感のある大迫力映像の作品が好まれる昨今の若い世代には、今作のほうが合っているかもしれない。

 個人的な感覚として言えば、前作超えの興収は難しいかもしれない。しかし、すでに北米では従来の日本映画とは異なる規模の公開が決まっており、ヨーロッパや南米などゴジラファンが多い地域でのセールスも進んでいるようだ。日本が誇る世界的IPである国産版ゴジラ最新作の躍進に期待がかかる。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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