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小泉進次郎環境大臣の「育休取得」がもたらす男性の育休連鎖

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
男性議員の育休取得について発表する立憲民主党の若手議員ら(立憲民主党HPより)

小泉進次郎環境大臣の「育休取得」がもたらす男性の育休連鎖が早くも広がりつつある。

1月24日、立憲民主党の若手男性議員らが国と地方で育休取得することを発表。

「男性議員の育休調査実践プログラム」として、議員が率先して育休を取得し、今後の政策立案に生かす。

全国の青年局所属議員に呼びかけたところ、国会議員の中谷一馬衆議院議員をはじめ、国と地方の男性議員約10名が育休を取得する予定だという。

先日の記事(下記)で、育休は「伝染」することを書いたが、早速その「効果」が生まれつつあるようだ。

関連記事:なぜ小泉進次郎環境大臣の「育休取得」が重要なのか?若者世代から集まる期待

宮崎県では1月27日から、総務省から出向している県福祉保健部の渡辺善敬部長が、部長級の幹部では初めてとなる育児休業を3週間取ることを発表した。

渡辺部長は「出向という立場で、しかも企業では育児休業が取りにくい実態もあるので葛藤はあった。ただ、育児休業の取り組みは進めていくべきであり、賛否両論あってもまずは私が率先して休みを取ることにした」

出典:県福祉保健部長が育児休業取得へ(NHK)

地方議会の男性議員育休は3%程度

立憲民主党の若手男性議員らによる「育休取得」宣言は、小泉大臣の育休宣言の後ということもあって、やや「二番煎じ」感はあるが、今回、地方議会も含めて推進しようとしている点は高く評価したい。

というのも、国会だけではなく、地方議会も育休環境が全く整備されていないからだ。

地方議員で作る「子育て議員連盟」の共同代表である永野裕子豊島区議会議員の調査によると、過去15年間に、全国の地方議員の妻が出産したケースは627件で、このうち、男性議員が出産に伴って休暇を取得したり、早退したりしたのは23件と約3.66%、また、各議会に妻の出産に伴う休暇の取得などに関する規定があるか聞いたところ、「規定がある」と回答した議会は全体の約5%にとどまる。

会見に出席した渋谷区の中田たかし区議会議員によると、渋谷区議会で育休を取得する議員は初めてだという。

渋谷区議会では制度自体がまだまだ整っていない。聞いた話によると、これまで育休・産休を取った議員が一人もいない。育休を支持者に相談したところ、議員報酬をどうするのか、議決をどうするのか、様々な意見をもらったが、今区議会を巻き込んで制度をどうするか議論しているところ。23区でもまだまだ制度が整っていないので、まずは話し合う機会を作っていきたい

出典:立憲民主党 男性議員育休プログラム 記者会見

また、将来的には国会の中に保育所を作ることも目指す。

(落合貴之衆議院議員)議員や議会で働いている人が預けられる保育所も必要ではないか。具体的にどうやって実現していくべきか、 党の部会の中で今揉んでいるところ

出典:立憲民主党 男性議員育休プログラム 記者会見

「プラス」の切磋琢磨

今回、小泉大臣の育休宣言に対して、永田町からはやや冷めた意見が多かったのに対して、野党第一党である立憲民主党の若手議員からこうしたより包括的な施策が打ち出されたのは非常に重要な動きである。

なぜなら、これまでの日本政治に欠けていたのは、まさにこうした「プラス」の切磋琢磨だったからである。

以前、報道の観点から、「減点方式」から「加点方式」へと転換すべきである、と書いたが、政治家・政党の動きについても同じ思いであるので、やや長いが引用したい。

中選挙区制から小選挙区制へと移行していく中で、求められる報道も、「政治と金」中心の報道から、「政策本位」の報道に変わった。

にもかかわらず、その変化に追いついていないのは「伝統メディア」である。

(中略)

「権力監視」ももちろん重要な役割であるが、政治家を育てることもマスコミの重要な役割である。

11月20日に日本若者協議会が主催した、「国会改革・官僚の働き方を考える」国民民主党との意見交換会にて、国民民主党の古川元久衆議院議員が「イギリスでは、逐条審査における自由討議が政治家の登竜門になっており、そこで実力が足りない議員は副大臣、大臣に上がれない評価の仕組みになっている」と紹介していたが、国会だけではなく、政治報道に関わる報道関係者が、政治家を競わせる、本当に実力のある政治家を評価する、そうした観点が決定的に欠けているのではないだろうか?

そうして、互いに切磋琢磨をさせなければ、野党の支持率も上がらないし(≒政権の支持率も下がらない)、「不祥事」ばかりで政権交代が起きても、一向に生活が改善せず、国民にとっても不幸である。

日本は至るところで減点方式が採られているが、政治報道も、「減点方式」から「加点方式」へと、転換すべきである。

そこで仮に、野党が評価を高めれば、結果的に政権の支持率は下がり、政権交代は実現するだろう。

出典:安倍政権の支持率がずっと下がらないのはなぜか?(室橋祐貴)

中選挙区制を前提にした55年体制下では、野党は(憲法改正の)「抵抗勢力」として批判が主な役割であったが、二大政党制を目指した小選挙区制に移行してからは、どちらが日本をより良くできるかという「与党候補」としての振る舞いが期待された。

しかし実際には、古い「野党像」から離れられないマスコミと既存の支持者の顔色を伺いながら、「政権打倒」に重点が置かれているのが現状である。

先日の代表質問でも、その一端を見ることができる。

関連記事:立憲民主党と国民民主党の違いが際立った代表質問

今後本当に求められるのは、一方的に「糾弾」して溜飲を下げたり、民主党時代の悪い点を引き合いに「まだマシ」と訴えるような低レベルな戦いではなく、互いに理想の社会像に向かって高め合う動きである。

(落合貴之衆議院議員)小泉進次郎さんのような影響力のある方が(育休を)取るというのは、確かに空気が変わると思います。じゃあ他の人が同じことをできるかと言うと、私も決断できなかったですし、難しいと思います。

ただ、我々は今回、国会議員も取りますが、地方議員も取ります。各自治体議員の方が多いわけで、ここの自治体はこれができた、と具体的な事例を提供することができます。空気を変えるだけではなくて、具体的に前進させる、それが我々の企画だと考えています

出典:立憲民主党 男性議員育休プログラム 記者会見

今回の動きは、その萌芽を見た思いである。

今後もこうした動きが広がるか、引き続き注目したい。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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