なぜ小泉進次郎環境大臣の「育休取得」が重要なのか?若者世代から集まる期待
今月にも第一子が誕生予定の小泉進次郎環境大臣。
2019年9月に初入閣して以来、ずっと「育休取得」の有無が注目されてきたが、いよいよ決断の時が迫る。
はたして小泉大臣は育休を取得できるのか?
8割の男性新入社員が「育休取得を希望」するものの、現状は雰囲気がボトルネックに
2020年度から、男性国家公務員に「1カ月以上の育休取得」を促す仕組みを導入するなど、政府は20年までの男性の育休取得率目標13%達成に向けて取得を促進しようとしているが、その成否は小泉大臣の選択次第と言っても過言ではない。
現在、男性の育休取得率は6.16%にとどまるが、取得できていない最大の理由が、(制度よりも)「雰囲気」にあるからだ。
日本生産性本部の調査によると、2017年度の男性新入社員の79.5%が「子供が生まれたときには育児休暇を取得したい」と回答。
しかし、東京都が昨年実施した「男性の家事・育児参画状況実態調査」で男性の育休取得状況を調べると、「育休等を希望通りに取得できなかった」が79.1%に上り、「育休等を希望通り(又は希望以上)所得できた」は16.2%にとどまった。
そして、育休等を取得しなかった・希望よりも期間が短い男性にその理由を尋ねると、「職場が取得できる雰囲気ではなかったから」が最も多く43.4%。
次いで「職場に代替要員がいなかったから」が36.8%、「育休取得中の収入減が家計に影響するから」が26.4%となった。
一方、育休等を希望通り・希望以上に取得できた男性にその理由を聞くと、「職場が取得しやすい雰囲気だったから」が69.1%で最多となった。
厚生労働省が育休中の給付金引き上げを検討するなど、もちろん制度に改善の余地はあるが、現状、制度上の問題よりも職場や社会の「雰囲気」がボトルネックになっているようだ。
実際、2019年6月に発表されたユニセフの子育て支援策に関する報告書では、OECDとEUに加盟している41カ国中、日本の育児休業制度(育休の週数×給付金額で算出)は、男性で1位の評価を得ている。
育休は「伝染」する
制度は充実しているにもかかわらず、取得率は低い。こうした「現象」は日本だけではない。
今でこそ、北欧の国々では男性の育休取得率が約8割にも達するが、(1980年代まではたった3%だった)ノルウェーでの取得の広がり方を分析すると、重要なのは、最初に育休を取る「勇気あるお父さん」であったという。
ノルウェーの経済学者らによると、育休取得をした同僚、あるいは兄弟が身近にいた場合、育休取得率が11〜15%上昇し、さらに、会社の上司が育休を取得した場合は、同僚同士の影響よりも2.5倍も強いことが確認されている。
つまり、ここからわかるのは、ノルウェーも日本と同様に、「(育休を取得する)父親たちは、会社や同僚から仕事に専念していないと見られることを心配しており、職場のこれまでのやり方と違ったことをすることに対する不安を抱いている」、ということであった。
そして、身近な人の実例や上司が率先して育休を取ることで、そうした不安を払拭し、安心して取ることができた、というわけだ。
(詳細は山口慎太郎著「『家族の幸せ』の経済学」に詳しい)
こうした「育休が伝染する」事実を踏まえれば、小泉大臣が度々言及している、「環境省職員にとって育休を取りにくい環境を残したまま、(自分が)取るわけにはいかない」という発言がいかにナンセンスなものかよくわかる。
本当に省内の環境整備を進めたいのであれば、上司である自分が育休を取得することこそが最も効果的であるからだ。
実際、育休の取得経験がある鈴木英敬三重県知事の事例を見ても、非常に効果が大きい。
三重県庁では男性の育児休業の取得率が知事就任前の1.92%から36.67%に上昇し、育児休暇の取得率は平成30年度に93.33%に達したという。
少子化対策にも
また、女性の社会進出や少子化対策のためにも、男性の育休取得は欠かせない。
現状は「女性の社会進出」を謳う一方で、育児や家事は女性にばかり任せる「ワンオペ」状態にある。
結果、産後うつや自殺(産後の死因1位)など、女性への負担が過度に重くなっている。
こうした「ワンオペ」状態が続くようでは、もう1人子どもを産むハードルは非常に高い。
実際、男性の家事・育児参画時間が長い家庭ほど第2子が生まれている。
夫の休日の家事・育児時間別にみた第2子以降の出生の状況
後々後悔しても、幼少期家族で一緒に過ごす時間に戻ることはできない。
「#もっと一緒にいたかった 男性育休100%プロジェクト」では、男性の育休取得100%を宣言した企業の経営者7名が赤裸々に自分の過去の働き方と子育てを振り返り、「後悔」を語っている。
制度の充実と雰囲気作り、どちらもやれば良い
こうして見ると、小泉大臣の育休取得は「いいことずくめ」だと思うが、一方で、「国民の方が先だ」、「制度を充実させるべき」という反対意見も存在する。
もちろんそうした意見も理解できる。
しかし、そもそも政治家として半年程度全く公務をしなくなるわけではない。現実には、鈴木知事が行ったように、数ヶ月間、1日の勤務時間を減らす、週に数日休む、といった形になる可能性が高いだろう(ニュージーランド首相は6週間の育休を取り、その間は副首相が首相を代行した)。
そして、国民の育休を促進する「雰囲気作り」、「意識改革」は、発信力のある小泉大臣だからこそできる仕事だ。
誰もができる仕事ではない。
それに、制度の充実にもプラスになる。
育児と仕事の両立を自身が経験してこそ、現場を知る「当事者」として、その後の政策立案・決定の機会に生かすこともできる。
全国の地方議会でも、男性議員が妻の出産に伴い休暇などを取得したケースは3%程度にとどまっているが、国会で育休の環境整備が進めば、間違いなく、地方議会の環境整備も進む。
小泉大臣に育休取得を期待する若い世代は多い。
署名サイト「change.org」では、「現職大臣初の小泉進次郎環境大臣の育休取得を応援します!」というキャンペーンを小泉大臣の母校・関東学院の保護者である藤本麻子さんが立ち上げ、昨年末に直接小泉大臣に手渡された。
仮に今回、小泉大臣が育休取得を断念するとしたら、まさに多くの父親が思っている「本当は取りたいのに、雰囲気的に取れない」日本の現状を反映することになり、失望感が日本を覆うことになるだろう。
はたして小泉大臣は「勇気あるお父さん」になれるのか?
小泉大臣の「英断」を期待したい。