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撃墜したキンジャールの不発弾頭を回収、昨年5月の撃墜時に回収した弾頭と形状が一致した単弾頭型

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭:2024年1月2日迎撃戦の落下物

 1月6日、ウクライナ非常事態庁がキーウのシェフチェンキウスキー地区でロシア軍の発射したキンジャール空中発射弾道ミサイルの不発弾頭を回収したと発表(写真)しました。1月2日の迎撃戦(関連記事)でウクライナ軍が撃墜したキンジャール10発のうちの1つという報告です。

参考:回収されたキンジャールの不発弾頭は赤線の位置

参考:ロシア軍よりKh-47M2キンジャール。弾頭の推定位置を筆者が赤線で追記
参考:ロシア軍よりKh-47M2キンジャール。弾頭の推定位置を筆者が赤線で追記

 キンジャールの推定全備重量は4トン弱、推定弾頭重量は500kg。

キンジャール不発弾頭:2024年1月2日迎撃戦の落下物

ウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭:2024年1月2日迎撃戦の落下物
ウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭:2024年1月2日迎撃戦の落下物

 この2024年1月2日迎撃戦の落下物は、昨年の2023年5月4日迎撃戦(関連記事)の落下物と同型の単弾頭型です。キーウ法医学科学研究所(KNDISE)のオレクサンドル・ルビン所長が2023年5月8日に発表(写真)した弾頭と形状が一致しています。

2023年5月4日迎撃戦と2024年1月2日迎撃戦の回収物

キーウ法医学科学研究所とウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭
キーウ法医学科学研究所とウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭
  • 左:2023年5月4日迎撃戦:キンジャール弾頭
  • 右:2024年1月2日迎撃戦:キンジャール弾頭

2024年1月2日迎撃戦の回収物

ウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭:2024年1月2日迎撃戦の落下物
ウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭:2024年1月2日迎撃戦の落下物

 回収されたキンジャールの不発弾頭は柔らかい砂混じりの土の地面に着弾したので、かなり深く掘り進んでいます。なお回収の為にショベルカーで周囲の土を掘り進めているので、この穴の全体が着弾の結果というわけではありません。

 弾頭が破壊されずに高速で突入してきたということは、迎撃しきれず完全破壊ができなかったのか、あるいは影響の無い野外に着弾するコースだったのでそもそも迎撃しなかったのか。はたして1月2日にキンジャールが10発飛来して全弾撃墜とは本当だったのでしょうか。いずれにせよ、この着弾穴から回収されたキンジャールの弾頭はウクライナ側に何も打撃を与えていません。

不発弾頭の底部と二つの穴

ウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭:2024年1月2日迎撃戦の落下物
ウクライナ非常事態庁よりキンジャールの不発弾頭:2024年1月2日迎撃戦の落下物

 2024年1月2日迎撃戦の回収物では弾頭の底が確認できます、二つの穴は信管を装着する箇所でしょうか? 不発弾頭の回収なので信管を外した後なのかもしれません。なお2023年5月4日迎撃戦の回収物では弾頭の先端付近に迎撃ミサイルが命中し貫通した痕があり、そのまま後方に進んだのか底が抜けていました。

航空機用貫通爆弾「BETAB-500」説の否定

参考:BETAB-500ShP貫通爆弾。上部の2個の突起が懸吊するためのラグ(環)。撮影者Vitaly V. Kuzmin
参考:BETAB-500ShP貫通爆弾。上部の2個の突起が懸吊するためのラグ(環)。撮影者Vitaly V. Kuzmin

ラグ(懸吊環、suspension lug)が付いていない

 なお回収されたキンジャール空中発射弾道ミサイルの不発弾頭について、航空機用の貫通爆弾BETAB-500ないしBETAB-500ShPだという説が一部から出ていますが、回収された不発弾頭には航空機に装着するためのラグ(懸吊環、suspension lug)の部品が何処にも見当たらないので否定できます。このことは2023年5月4日迎撃戦の回収物の時にも検証されています。

 しかしその数カ月後に、トーチカU弾道ミサイルの中からFAB-500T航空爆弾が発見されるという困惑する事件が発覚します。そもそもロシア軍では弾道ミサイルの弾頭として航空爆弾を流用することは珍しくないようです。

 2023年8月11日に回収されたトーチカU弾道ミサイルには弾頭としてFAB-500T航空爆弾が尾部の安定翼を外した状態で入っていました。一方で航空機に装着するためのラグは付いたままでした。

 NATO側にもGLSDBという、地対地ロケット弾の弾頭として航空機用の滑空爆弾を搭載した兵器がありウクライナに供与される予定なので、空対地攻撃なのか地対地攻撃なのか弾頭の残骸だけでは判別が付き難いケースは今後増えそうです。

 ただし2023年5月4日迎撃戦と2024年1月2日迎撃戦の結果として回収されたキンジャールの不発弾頭については、ラグが付いていなかった以上は航空機に装着することが不可能なので、航空爆弾として使用されていないと分析できます。

 そして次の項目で説明しますが、弾頭の先端の形状が異なっている点から、キンジャールの弾頭は航空爆弾の流用ではなく弾道ミサイル専用設計(おそらくイスカンデルMと共通)である可能性が高いと考えられます。

弾頭の先端の形状の設計の違い

キーウ法医学科学研究所よりキンジャールの不発弾頭、2023年5月4日迎撃戦後に回収した物
キーウ法医学科学研究所よりキンジャールの不発弾頭、2023年5月4日迎撃戦後に回収した物

 キンジャールの弾頭は先端付近が浅い角度で、次に深い角度の円錐が続いて、円筒に繋がる構造となっています。これは先端が鋭すぎて細いと硬い物に当たると砕けてしまうので、先端の形状を「二段階に角度が変化する円錐(Bi-conic)」にして工夫してあります。

先端の形状を比較:キンジャール弾頭とBETAB-500貫通爆弾

比較:2023年5月4日キンジャール、2024年1月2日キンジャール、BETAB-500、BETAB-500ShP
比較:2023年5月4日キンジャール、2024年1月2日キンジャール、BETAB-500、BETAB-500ShP
  • 2023年5月4日迎撃戦:キンジャール弾頭:先端が二段円錐
  • 2024年1月2日迎撃戦:キンジャール弾頭:先端が二段円錐
  • BETAB-500貫通爆弾:先端が鋭い
  • BETAB-500ShP貫通爆弾:先端が真っ平

 開発年代の順序は、先端が鋭い→先端が真っ平→先端が二段円錐、という流れになります。実はこのように弾頭の先端の設計が3種類で全て異なっています。この違いからキンジャールの弾頭と報告された物に対して、BETAB-500説は否定されます。

英語名称とロシア語名称

  • BETAB-500 : БЕТАБ-500
  • BETAB-500ShP : БЕТАБ-500ШП
  • Kh-47M2 Kinzhal : Х-47М2 Кинжал
軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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