キンジャール撃墜の残骸が新たに公開、操舵翼がキンジャール/イスカンデル系と完全一致
5月4日にウクライナ軍がパトリオット防空システムを用いてロシア軍のキンジャール空中発射弾道ミサイルを撃墜していたと5月6日に公式発表していましたが、5月9日にアメリカ国防総省報道官パトリック・S・ライダー空軍准将がキンジャール撃墜の事実を肯定、そしてウクライナ当局は5月10日にキンジャール撃墜の証拠の残骸を新たに公開しました。
操舵翼はキンジャール/イスカンデル系で確定
ウクライナで取材中の独ビルト紙のパウル・ロンツハイマー記者によってキンジャールとされる残骸を撮影した動画がTwitterに投稿されています。写っている操舵翼の部品はキンジャール/イスカンデル系の物と完全に一致しています。
参考比較:イスカンデルの操舵翼(2008年の南オセチア紛争)
キンジャールは極超音速兵器を名乗っていますが実際にはイスカンデル短距離弾道ミサイルの空中発射型で、操舵翼の部品は共通した同一の物と分析されています。操舵翼は6本の放射状の桁が入った中心部が回転軸です。今回発表されたキンジャールとされる操舵翼の部品と、過去に発見されているイスカンデルの操舵翼の部品は、形状の特徴が細部に至るまで完全に一致しています。
筒状の部品はノーズコーンではなく弾頭?
操舵翼はキンジャール/イスカンデル系の部品と確定しましたが、それ以外の部品はキンジャールのどの部分になるのか、この動画の映像だけでは分かりませんでした。機首ノーズコーンのように見える部品は近くに置いてあるトーチカU弾道ミサイルよりも細く、形状はイスカンデル/キンジャール系の外観と一致しておらず、ミサイル内部の部品である可能性があります。もしかするとノーズコーンではなく弾頭ではないでしょうか?
実は5月8日にキーウ法医学科学研究所(KNDISE)はウクライナ軍が撃墜したミサイルの残骸を調査してキンジャールだと断定しているのですが、この際に「ミサイルの弾頭から出た爆発物の化学組成を分析する」という発表の文章と共に残骸の部品の写真を公表しています。
キーウ法医学科学研究所は写真の部品が何なのかは具体的に説明していませんが、キンジャールの弾頭である可能性があります。今後の詳細な調査の発表が待たれます。
中央にキンジャールの弾頭(推定)とキーウのクリチコ市長。写真向かって左にある緑色の大きなミサイルはトーチカU短距離弾道ミサイルで、キンジャール/イスカンデルよりも直径は細い。
なおミサイルの外側の本体直径と内蔵された弾頭直径が大きく違うのは珍しいことではありません。特に貫通弾頭は細長くなる傾向があります。
おそらく弾頭の前方にセンサーや誘導装置など電子機器が搭載されていると思われます。なお整流キャップはミサイル投下後にロケットモーター点火前に分離投棄されます。
※残骸の展示ではキンジャールだけでなく他種のミサイルの部品も一緒に展示されている様子が映っています。Х-55/Kh-55巡航ミサイルやトーチカU弾道ミサイル、地対空ミサイル、多連装ロケット弾などです。このような雑多な展示だと、場合によっては説明ボードが間違った位置に置かれているなどの可能性も有り得ますので注意してください。
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