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晩婚化などは存在しない/少子化担当大臣ができてから20代の初婚だけが激減している現実

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

晩婚化という大嘘

「出生率低下の原因として未婚化と晩婚化がある」などと言う人がいる。

メディアでも決まり言葉のようによく使用されるし、何なら少子化の専門家や人口動態の専門家という肩書の人間までもが使っている。だからこそ、少子化をテーマとしたネット記事でもそういう風に書かれたりもする。

だから「そうなんだろう」と多くが思うかもしれない。

しかし、全くの間違いである。

正しくは、「未婚化」は起きているが「晩婚化」は今は起きていない

当連載上でも何度もその事実をお伝えしているが、まだまだ認知が広がっていないので、改めてファクトを提示したい。

未婚化に関しては言うまでもなく事実その通りである。未婚率が上昇している点について、ほぼ多くの人たちの認識は正しく共有されているだろう。

問題は晩婚化である。前述した通り、「晩婚化は今は起きていない」が正しい。「今は」と書いたのは、かつて「晩婚化」はあった。しかし、いつまでも晩婚化という現象が続いているのではないのだ。

1990年から2007年まで

ご存じの通り、1980年代までは皆婚時代と呼ばれている。これは、1985年の国勢調査まで、生涯未婚率(50歳時点の未婚率)が男女とも5%未満で推移してきたからである。ちなみに、最新の2020年では、男28.3%、女17.8%まで上昇した。

1990年から、男女年齢別の人口千対初婚率(初婚同士の結婚)の推移を見ると、2007年頃までは、確かに「晩婚化」の傾向があった。これは間違いない。

男女ともボリュームゾーンである25-29歳の初婚率が減少。特に、女性は20-24歳初婚率が大きく減少した。そのかわり、男性は35歳以上、女性も30歳以上の初婚率が増えた。それまで初婚していた年齢から男女とも5-10歳後ろ倒しになったということである。まさしくこの期間は「晩婚化」であった。

しかし、晩婚化というからには、たとえ初婚年齢が後ろ倒しになったとしても、最終的には結婚していたからこそ言えることである。

1990-2007年の初婚数(相手は再婚者含む)自体を比較しても総数はそれほど変わっていない。男は62.5万組から58.4万組へと減少したが、その減少率は▲6.5%、女は63.7万組から60.1万組へと、こちらは▲5.8%である(減少率計算は実数にて)。どちらにせよ、減少しているじゃないかと思うかもしれないが、17年間かけてこの減少率に収まっていたわけで、単年単位ではほぼ初婚総数は変わっていない。

一方で、直近の2022-2023年の初婚数減少率は、たった1年で男▲5.9%、女▲6.0%である。1990-2007年の17年分の減少をたった1年で達成しているようなものだ。

まさしく、日本の晩婚化は2007年でストップした。

2007年以降は、「初婚総数は変わらないが、後ろ倒しになった晩婚化」ではなく、20代時点での初婚率の減少がそのまま最終初婚率の減少となった「20代で初婚しなかった層の結果的非婚化」なのである。

晩婚化がストップした2007年以降

2007年から2023年の年齢別初婚率をみていただこう。

男女ともに、2007年までのように、30歳以上で初婚率が上昇という傾向はみられず、35歳以上での初婚率はほぼ変わっていないのである。

加えて、20代での減少は相変わらず続いている。というより、単純に20代での初婚だけが減って、それが決して30代以上での晩婚になっているのではないことがわかる。

誤解のないように、これは初婚数実数ではなく、人口千対の初婚率である。

2007年と2023年の初婚数を比べれば、男女とも約20万組の減少、減少率▲33%だ。いいかえれば、この期間の33%もの初婚の減少はほぼ20代の初婚の減少ということになる。

繰り返すが、2007年以降「晩婚化」などという現象はない。ただひたすら20代の初婚が減ったというだけである。

2007年以降何をしてきたのか?

そして、この2007年とは、政府が少子化担当大臣を設置した年でもある。

その後、いろいろな対策を講じてきたと言うが、結果として起きたのは、婚姻減とそれに伴う出生減でしかない。初婚数は20万組減、出生数は2007年の108.9万人から 2023年72.7万人へとちょうど▲33%減。初婚の減少分だけ、厳密にいえば、20代の初婚が減った分だけ出生数が減っているのだ。

厳しい言い方をすれば、少子化担当大臣設置してから、予算だけは増やし、金を使い続けたものの、若者の婚姻を減らし続け、婚姻減に比例して出生数の減少という結果を招いただけに過ぎない。よもや少子化担当大臣とは「少子化促進担当大臣」だったわけでもなかろうが、これほどまでに逆の効果を生み出したことも驚きである。何のための予算だったのだろう?

一事が万事、事実をベースに、何が本質的な課題なのかを明らかにして、そこに適切な処置をしていかないと、無意味どころか逆効果になる。本質的な問題とは、「かつて結婚できていた20代の若者が20代で結婚できなくなった」ことに尽きる(政府も官僚もわかっていると思うが、わかっていながら徹底的に無視している)。

「晩婚化」などと2007年にとっくに終わった話をいつまでも語っているようでは話にならないのである。

ちなみに、新首相となった石破茂氏は、私が2018年に作った言葉である「少母化」という言葉を使用し、「少子化ではなく、少母化であり、婚姻数の減少が問題である」とおっしゃっているが、その正しい課題認識を基に的外れではない政策の実行を期待したい。

参照→「少子化ではなく少母化」婚姻減が生み出す少子化加速の負のスパイラル

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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