自治体の観光集客は世界の標準に合わせよう――119カ国を旅して思う各地への改善提案
筆者は旅行が趣味で世界119カ国のほか全国各地を旅してきた。その経験に照らし、僭越(せんえつ)ながら特にインバウンド誘客を念頭において国内各地の観光地に対して7つの改善提案をしたい。
(1)美術館や名所旧跡の共通入場券は2日間有効にすべし
美術館やお城など名所をいくつか巡ると入場料が割安になる共通割引券を出している自治体があるが、たいてい1日券である。しかし原則、2日間有効な券を出すべきだ。
海外の都市では最低でも2日間有効のものが多い。宿泊してもらいたい、午後に着いたら2日にまたがるなど、合理的な理由からだ。また、共通券が2日間使えるとなると、観光客はあちらこちらに足を延ばしやすくなる。共通入場券は料金割引による来場促進だけでなく、総滞在時間を延ばし、ひいては食事や買い物、宿泊の需要を喚起する効果がある。
日本で各地が当日限りとする理由について、「翌日に他人に譲渡して使われるリスクがあるから」などという役所風の反論に接することがあるが賢くない。万が一そういう不届き者がいたとしても、美術館や名所旧跡は見せて減るものでもないのだから、メリット(外部経済効果)に比べれば他人への譲渡による不正入場のリスクなど看過してよい。そもそも旅人が見ず知らずのほかの旅人に譲渡する可能性は低い。トータルの滞在時間が増えるなら、ぜひやるべきだ。
(2)イラスト地図の配布はやめる
多くの自治体が観光エリアの漫画風のイラスト地図を印刷して配っているが日本独特の慣習だ。散策用にどうぞという配慮はありがたいが、あまり使い物にならない。縮尺(距離)が正確でなかったり細い通りが省略してあったりして、信じて歩くと迷う。上が北でない場合もあって使いにくい。いまどき地図はGoogleマップ(現在地が分かるし道順も出る)などで十分だ。どうしても紙の地図を配るなら、必ず順路のモデルコース(早回り、1時間コースなど)と季節の花の情報、食べ物情報を目立たせて、トイレやコンビニの場所も記載するべきだ。要はスマートフォンの地図ではわからない情報を載せるのである。
(3)無料で旧市街を案内するツアー
アゼルバイジャンの首都バクーでは毎日、旧市街の観光案内所で1日に数回決まった時間に無料で予約不要のガイドツアーをやっていた。もちろん英語のツアーもあった。案内所に立ち寄った人が気の向くままに参加すればいい。
日本でも各地に自治体やNPO(非営利団体)が主催する安価なガイドツアーがある。しかし数日前の予約が必要だったり、先着順だったり、手軽さに欠ける。中には観光案内そっちのけで若いころの話を語る高齢者ガイドもいる。若者に聞くと「ガイドツアーはおじいさんの話が長いからパス」という辛辣な意見もあった。ボランティアだから自由にやってもらえばいいというものではなく、きちんとした監修と管理が必要だろう。
(4)観光情報の発信には旅行客のSNSの情報を使う
私たちが物を買うときに頼りにするのは、店の宣伝よりも顧客のコメントだ。たとえば価格比較サイトや宿泊サイト、グルメサイトなどに載っている“先輩客”の評価やコメントを信用する。ところが各地の観光協会のサイトにある情報は、地元が発信するお国自慢やありきたりの名所案内ばかりだ。むしろインスタグラムやX(旧ツイッター)などのSNS(交流サイト)に上がっている観光客の体験記などから、特にビジュアル的にイケているものを借り受けてきて転載すべきだろう。
(5)市町村を超えた観光Webサイト
多くの自治体は、市町村単位で、しかも市町村名を冠した観光協会のサイトで情報を発信する。しかし、顧客目線に立つと、見どころは市町村域を超えることが多い。場合によっては、よく知られた観光地名と市町村名が一致しない。あるいは青森県の奥入瀬渓谷と十和田湖はセットで回るといいのだが、各種案内は分かれていて、行ってはじめて一緒に廻るべきだったとか、実は近所だったと気づく人がいる。
そこで隣接市町村が合同で運営する観光案内サイトを提案したい。例えば山梨県では富士河口湖地方の5市町村を中心に「http://www.mt-fuji.gr.jp/etc/kyogikai/富士五湖ぐるっとつながるガイド」を運営している(運営主体は一般社団法人の富士五湖観光連盟)。
(6)タクシー運転手に声がけを頼む
観光タクシーの仕組みは各地にあり、観光ガイドができる運転手も増えた。しかし大半の運転手は、客に名所を聞かれても自信がなさそうだ。これについては米国ミネソタ州ミネアポリス市に見習いたい。同市では多くのタクシー運転手が空港から乗った旅行客に「うちの町の美術館は最高だよ、ぜひ行くべき」と声がけをする。それだけ充実した内容の美術館なのだが、日ごろから美術館がタクシー会社に展覧会の案内を流したり、気を使ったりしているそうだ。
富裕層を中心に、現地の事情通としてタクシー運転手に旅の情報を求める旅行者は多い。なかでも空港から市内に向かう客は上客である。彼らに接する運転手は観光地の営業マンである。最新のイベント情報を提供しよう。また、展覧会などにも招待すべきだ。いまどきの観光客は公式の観光情報に頼らない。ガイドブックや雑誌の記事、さらにはSNSの情報すら疑っている。むしろ運転手や地元民の本音の情報を求めている。自治体は展覧会やイベントなど旬の情報を彼らに提供するべきだ。
(7)空港連絡鉄道やバスにフライトナンバーを付ける
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