クオモ氏辞任 「最後の置き土産」として残していったもの
ニューヨーク州では23日、セクハラ問題を受けアンドリュー・クオモ氏が知事職を退き、副知事だったキャシー・ホークル氏が翌24日、57代知事として就任した。
ホークル新知事は同州初の女性知事として注目されており、新政権において女性2人を主要な上級職に任命したと発表した。州ではデルタ株による新型コロナウイルス感染が再拡大しており、ホークル政権にとっても、コロナ対策が就任後の大きな課題となる。
クオモ氏とは犬猿の仲と言われたニューヨーク市のデブラシオ市長は24日の午前0時01分、「世界でもっとも素晴らしい都市」と、目の上のこぶとも言える知事の退任と新たな時代の到来を祝うかのような、思わせぶりなツイートをした。
クオモ氏は事前録画した退任スピーチの最後で、「次の市長、エリック・アダムス氏が新たな希望をもたらす(新知事と新市長により心機一転を図る)」と明言しため、そのコメントへの当てつけかもしれない。
2011年から10年間にわたって遂行してきた知事職を退いたクオモ氏だが、在職最終日に、殺人罪などで有罪判決を受けた受刑者など6人に恩赦を与えたことがツイッターで明かされ、米ヤフー!ニュースや地元紙ニューヨークポストなどでも報じられた。
その中には、3人の死者を出したブリンクス(セキュリティ企業)現金輸送車強盗事件に関与した76歳の男性受刑囚の出所手続きも含まれる。
「6人に恩赦を与える。これらの人々は反省し、更生し、地域社会に貢献している」と在任最終日のツイート。
デビッド・ギルバート(David Gilbert)受刑囚(76歳):
左翼過激派のテロ組織、ウェザー・アンダーグラウンド(ウェザーメン)のメンバーだった同受刑囚は36歳だった1981年、ナイアック警察の巡査部長、巡査、ブリンクの警備員の3人を殺害し、3件の第2級殺人罪、4件の第1級強盗罪有罪判決を言い渡され、2056年まで仮釈放の可能性がない75年以上の終身刑に服していた。同受刑囚の息子であるサンフランシスコ地方検事、チェサ・ブーディン(Chesa Boudin)氏は、同受刑囚の釈放をクオモ氏に働きかけていたという。
クオモ氏は同受刑囚について、「服役中にエイズ予防教育への多大な貢献や、家庭教師、法律図書館の事務員、パラリーガルのアシスタント、教師の補助員などさまざまな業務の実績が称賛に値」が恩赦の理由だとした。
恩赦を受けた同受刑囚は、すぐには釈放されず、今後ニューヨーク州仮釈放委員会に出頭する予定だ。
グレッグ・ミンゴ(Greg Mingo)受刑囚(68歳):
1980年、当時27歳だったミンゴ受刑囚は、クイーンズ区の夫婦強盗殺人事件の犯人で、1983年から50年の終身刑で服役していた。家族は、同受刑囚の有罪判決について不十分な弁護活動によるものだと、長年無実を主張していた。クオモ氏は、同受刑囚について「服役中にGED(高校卒業同等と認定)およびパラリーガルの資格を取得し、献身的で尊敬に値するピアカウンセラー(として更生した)」と評価した。
ロバート・エーレンバーグ(Robert Ehrenberg)受刑囚(62歳):
1992年、当時33歳だったエーレンバーグ受刑囚は、強盗および男性を射殺し、50年の終身刑で服役中だった。クオモ氏は同受刑囚について、服役中に大学を卒業し、慈善事業のボランティア活動を行ったことを評価した。
ユリシーズ・ボイド(Ulysses Boyd)受刑囚(66歳):
1986年、当時31歳だったボイド受刑囚は、ハーレムの麻薬密売所で起きた殺人事件に関連し、第2級殺人罪で有罪判決を受け服役中だった。
ポール・クラーク(Paul Clark)受刑囚(59歳):
1980年、当時18歳だったクラーク受刑囚は、ブルックリン区のブロックパーティーで17歳の少年を射殺し、第2級殺人、殺人未遂、武器所持の罪で有罪判決を受けた。同受刑囚は同年、タクシー運転手の殺人と強盗未遂でも有罪判決を受け服役中だった。
ローレンス・ペンIII(Lawrence Penn III):
投資家から900万ドル(約9億円)以上を盗んだ罪を2015年に認め、2年間服役したプライベート・エクイティ企業、Camelot Acquisitionsの創業者。クオモ氏はペン氏にも恩赦を与えた。
クオモ氏はこれらに加え、先週も10人の重罪犯(うち3人は殺人犯)にも恩赦を与えていた。クオモ氏は10年間の在任期間中、合計で41件の恩赦要求を認めたことになる。支持者らは、ホークル新知事にも同等以上のペースで恩赦を与えることを求めている。
もちろん反論もある。ニコール・マリオタキス(Nicole Malliotakis)議員は「クオモ氏はニューヨーカーにさらなる餞別を残した...さらに5人の殺人者を街中に放った」とツイートし、クオモ氏の減刑措置を非難した。
そもそも極悪犯に、恩赦はなぜ必要なのかということだが、法務省のウェブサイトにはこのように書かれている。
これらの記事にも詳しく書かれている。
元特捜部主任検事、前田恒彦さんのヤフーニュース個人の記事「恩赦と懲戒免除 なぜあるのか」
「退任直前のオバマが、駆け込み「恩赦」を急ぐ理由」(ニューズウィーク 山田敏弘氏)
「トランプ米大統領、側近29人に恩赦や減刑 マナフォート元選対本部長ら」(BBCニュース翻訳記事)
ご多分に漏れず、アメリカの伝統である置き土産(恩赦)を残してオフィスを去って行ったクオモ氏。右腕だったメリッサ・デローザ氏が23日に発表した声明によると、退任後は娘3人を含む家族との時間や、在任中はあまりできなかったであろう釣りに行くのを楽しみにしているという。特に昨年以降は新型コロナ対策のため休みなく州民のために尽力してくれていたから、しばらくゆっくりしながら今後のことについて考えるようだが、いずれにせよ自分のオフィス(政権)を持つことについては懲りたのか、「興味がない」と答えている。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止