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「クオモ知事は特権を乱用し、セクハラ・パワハラを常習化した」被害女性が赤裸々告白。市長も眉ひそめる

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
22日、ニューヨーク市ブルックリン区のワクチン接種会場を視察するクオモ州知事。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が窮地に立たされている。

パンデミック以降のこの1年間、クオモ知事のリーダーシップは特に目を見張るものがあった。感染状況を抑えるために、州民のために最大限に尽力してくれたとは思う。

なのに、ここに来てさまざまなスキャンダルが浮上している。

一つ目は、州政府の組織ぐるみによる、介護施設の死者数隠蔽の疑惑。

二つ目は、クオモ知事による、州議会議員への脅迫疑惑。

騒動はこれだけで収まらなかった。

ここにきて、なんとセクハラ疑惑まで浮上しているのだ。しかも長期にわたって、クオモ知事の周りでは「常習的」に行われてきたことのようだ。

クオモ知事のセクハラ疑惑とは?

事の発端は、マンハッタン区長に立候補しているリンジー・ボイラン(Lindsey Boylan)氏が、昨年12月に発信したツイートだ。彼女は2018年まで、クオモ知事の補佐官として州の経済開発局で働いていた。

ボイラン氏は高校時代、母親が職場で上司からセクハラを受けたことで、世の中にセクハラ問題が蔓延していることを知った。なかなか解決できない複雑な問題だが、加害者に対して屈することなく、闘うことを決めたと言う。

その上でこのようにツイートで告白した。

クオモ知事 @NYGovCuomo は私に対して、数年にわたりセクハラをしてきた。たくさんの人がそれを見た。自分の身や仕事が、一体どうなってしまうのかわからなかった。

これまで世代を超えて数え切れないほどの女性が犠牲になってきた。 ほとんどが声を上げられなかった。私は一部の @NYGovCuomo のような権力を乱用する男が嫌い。

州のトップによる人物からの性的嫌がらせが長期にわたって続いたことで、自身の職務にどう影響を及ぼすか不安だったであろう、当時の辛い胸の内を語った。

しかもセクハラを受けたのは、ボイラン氏だけではなかったようだ。このツイート後、ボイラン氏のもとに2人の女性から連絡が入り、同様にクオモ知事からパワハラ、セクハラまがいのことを受けたと告白されたという。

この時、クオモ知事は記者会見で「事実ではない」とボイラン氏の告白を一掃したため、当時メディアも大きくは取り上げなかった。

しかし今回、クオモ知事のさまざまなスキャンダルが浮上する中、再びボイラン氏が声を上げたことを、ニューヨークタイムズなど米主要メディアは見逃さなかった。ボイラン氏が24日、オンラインメディアMediumで発表した手記には、クオモ知事によるセクハラ&パワハラ疑惑の詳細が書かれている。

在職中にボイラン氏はクオモ知事から、上司を介して気持ちを告げられたり、州専用機内で膝が触れ合うほどの距離に座り「ストリップポーカーをしよう」と誘われたりと、州でもっとも権力のある異性からの「居心地の悪い言動」を受け、それはしばらく続いたという。

そして知事からの手招きだろうか、ボイラン氏は18年、経済開発副長官および知事特別顧問に昇進し、より知事と近い距離で任務にあたるようになった。

ある日、マンハッタンのオフィスでクオモ氏と2人きりで会議となり、終了後に会議室から出ようとしたところ、クオモ氏から承諾なしに突然口にキスをされたという。ボイラン氏はその場をすぐに離れたが、その日から通勤するのが苦になったという。彼女は同年9月に辞職をした。

2015〜18年、クオモ政権で働いていたボイラン氏(右、2017年)。彼女は既婚者だが「16年、クオモ知事と初めて会ったとき、上司から『知事が君に惚れたよ』と告げられた」という。
2015〜18年、クオモ政権で働いていたボイラン氏(右、2017年)。彼女は既婚者だが「16年、クオモ知事と初めて会ったとき、上司から『知事が君に惚れたよ』と告げられた」という。写真:Shutterstock/アフロ

ほかにも手記には、「知事から好意を寄せられた女性は(不快にさせぬよう)正しい対応を求められた」「無言の脅迫のようなものを知事は駆使し、女性を恐れさせて口を開かせないようにした」「知事特権を乱用し、セクハラを常習化した」「被害を受けても、多くの人は恐くて発言できない」「知事はセクハラやいじめ文化(パワハラ)を政権内に蔓延させ、それらの悪習が容認されるだけでなく期待されるような文化を生み出した」と、ショッキングな証言が書かれている。

また先日クオモ氏に脅迫をされたとするロン・キム州議会議員について、「守ってあげなければ、彼は仕事を奪われるだろう。それが(クオモ)政権のやり方だ。その中で働いていたのでわかる」と警告した。

手記を発表した理由について、「知事を尊敬してきた。仕返しをしたい訳ではない」と言う。容姿の言及を含むクオモ氏の不適切な言動や性的嫌がらせは、ほかの同僚や過去に関係のあった女性にも及んでいたようだが、ボイラン氏は現職の女性に迷惑をかけたくないとし、あくまでも「自分の体験記」であることを強調した。

「虐待的な行動をやめてほしいだけだ。怖くて声を上げられなかった人もいる。私の経験を些細なこととして受け流す人もいるだろう。でも私は、陰で悪行をする権力者をいくらでも知っているし、それについて黙っていられない」

自分の体験記です。クオモ政権時代の経験を明かす予定はなかったが、ほかの人も自分の真実を話しやすくなることを願い、体験記を共有することにした。

この疑惑について、ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は、再び眉をひそめている。

25日の定例会見で、記者にクオモ知事のセクハラ疑惑について問われた市長は、「到底許されるものではない」として、州政府が関わらない独立した調査団による徹底的な調査の必要性を強調した。

(ボイラン氏は)これだけ詳細な内容を訴えており、本当に気がかりだ。このような(セクハラの)行いは、断固として受け入れられない。我々はこの問題に真剣に向き合わなければならない。真実を追求するために、「独立した」調査が徹底的になされるべきだ。(24:23あたりから)

市長は数日前も、キム氏の脅迫疑惑について「(知事による)パワハラまがいのいじめは今に始まったことではない」「自分は訴えた側を信じる」と、キム氏を支持する姿勢を見せていた。

女優で#MeToo運動の活動家、ローズ・マッゴーワン、さらにセクハラ撲滅運動の支援基金「タイムズ・アップ」を通してアシュレイ・ジャッドやエヴァ・ロンゴリアらも、セクハラ疑惑についてクオモ知事の調査を呼びかけた。

一連の騒動により辞任を求める声が上がっているが、クオモ政権の報道官はボイラン氏の発言を事実無根と否定し、専用機内での会話を否定した4人の補佐官の共同声明も発表した。一方でニューヨークタイムズ紙の取材では、セクハラの事実があったとする証言が匿名で出ている。肝心のクオモ氏からはコメントがない。

ニューヨークは、新型コロナの感染拡大、ワクチン配布の遅れ、経済低迷、高い失業率、治安悪化など、解決せねばならない最優先課題が山積みだ。州のトップによる死者数隠蔽、脅迫疑惑に加えセクハラ&パワハラ疑惑まで浮上したことで、州民にとって頭痛の種がまた1つ増えた。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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