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「もうやめて新商品」バイトの女子大生が見たファストフード店の裏側

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

東洋大学経済学部2〜4年生109名に、「世界と日本の食品ロス」について講義した。講義中にはアンケート調査を行ない、講義後には感想文を出してもらった。その後、2週間以内に、受講した学生のうち、40名から「食品ロスを減らすためにできる」具体的な策について、課題を提出してもらった。

その中で、最優秀賞に選ばれたのが、ファストフード店でアルバイトする学生の意見だ。

新商品を出さないことが食品ロス削減につながる

新商品を出さないことが、食品ロス削減につながると思います。特に女性などは、“新商品”、“期間限定”という言葉に魅力を感じることが多くありませんか?

出典:最優秀賞を受賞した学生の課題文より引用

課題文の開口一番、「新商品を出さないことが食品ロス削減につながる」と明言している。大胆、斬新に見えるが、一理ある。新商品は、1,000出して、ヒットするのは3つと言う意味で「千三つ(せんみつ)」などと言われるからだ。

小売側の言い分「売れない新商品なら出すな」

常に「新商品」を打ち出しているファストフード店や食品メーカーで働く人からは「無理無理そんなの」という声が聞こえてきそうだ。ただ、筆者がスーパーマーケットに取材すると、少なからず、こういう声が聞こえてくる。

「売れない新商品なら出さないで欲しい」と。

こんなの、誰が見ても売れないでしょう、出す前からわかるでしょう、と。困るのは売る方なんだから、変な新商品を乱発しないで欲しいと彼らは語る。

ファストフード店でのバイト実体験に基づく女子大生の提言

冒頭の学生が最優秀賞に選ばれたのは、机上の空論や、インターネットの情報の受け売り、ただの理想論などではなく、彼女自身の実体験に基づく具体的な提言だったからだ。

以下、引用する。

私はファストフード店でアルバイトをしており、今、新商品を販売しているのですが、発売初日は売れ筋が想像以上であったために予想セールスよりも多く材料を発注したところ、次の日には売れ筋が伸びず、約5000円近い食品を捨てる結果となりました。

このことは、店舗にとって不利益で、次回の発注量も予測が難しい状態にあります。

実際、新商品の売上で店舗の経営が成立しているわけではないので、私は新商品発売が食品ロスを促しているのではないかと思いました。

出典:最優秀賞受賞作品より引用。筆者が固有名詞の箇所を一般名詞に変えた

新商品発売初日の「一番売れた瞬間」に合わせて、再度、材料を発注したら、翌日には初日ほど売れなくて、余って捨ててしまった、と。店舗側より、アルバイトの女子大生の方が、よほど事態を冷静に分析しているように見える。組織は、上に立つ者が必ずしも能力があるとは限らない。

売り上げは、曜日やチラシ、その日の天候や近隣のイベントなど、複数の要素が影響するが、一般的には新商品の発売初日より翌日以降に売りが落ちるのは当然の流れではないだろうか。新商品そのものが悪いというより、店の責任者が需要予測を誤ったための廃棄のように見える。新商品に過度に依存してしまった「新商品頼み」は否めないだろう。

雇用ジャーナリストの海老原嗣生(えびはら・つぐお)さんは、全国紙のインタビューで

「社畜」は「会社の畜」ではなく、「社会の畜」だと思います。食品が典型ですが、日本のメーカーは新商品をたくさん出すのがその一例です。商品開発も営業も宣伝も忙しく働いているのに、実際の売り上げはほとんど伸びない。それは、消費者や卸、小売店が求めるので、新商品を出さざるをえないからです。社会の意識を変えない限り、問題は解決しません。

出典:2018年4月12日付朝日新聞朝刊13面で「完璧求める意識変えては」

と語っている。

なるほど。と思いつつ、前述の「消費者や卸、小売店が求める」というのが「積極的に求める」という意味なのか「受け身で求める」意味なのかはわからないが、仮に前者であれば、食品メーカーで14年5ヶ月働いた筆者は、当時の体験から、少し違う意見を持っている。

消費者や小売店は、積極的な姿勢で新商品を求めていると言うより、池のコイみたいに、口を開けて受け身でエサ(新商品)を待っているのではないだろうか。待っていたって、黙っていたって、毎日、山のように新商品は湧き出てくるのだから。

メーカー側も、「新」商品と銘打たないと、小売店の本部商談でバイヤーに採用してもらいづらい面がある。消費者も、とりあえず新しいのが出たら一度は食い付くから、メーカーとしても売り上げを立てるために出すのではないかと思っている。

食品メーカーにとって、しばらく同じものを出し続けていると売り上げが落ちてくるから、てこ入れの意味も込めて「新商品」みたいな要素を入れたもの、を出さざるをえないのではないだろうか。消費者や小売店は、全国の多数のメーカーが出してくるものを、受け身の姿勢で待ち、来たものを取捨選択する。もちろん、中には積極的にメーカーとコラボ(コラボレーション:協働)して、新商品を開発する場合もある。だが、小売店が扱うアイテム数(SKUと呼ばれる)は、全国チェーンであれば、数千に及ぶ。同じ商品カテゴリには、多数のメーカーが存在する。小売店は、選べる優位な立場におり、全国で商売を展開していればいるほど、バイイングパワーを持っている。

本腰をいれて新商品を開発することは、企業にとって投資だ。人材も必要だし、コストも年月もかかる。だから、とりあえず、「新商品」みたいに見えるように、いま流行りの成分をいれて見たり。あるいは中身は変えずにボトルのデザインを変えてみたり、フレーバー(味)の違うのを出してみたり、商品名のフォント(文字)のデザインを変えてみたり。中身は変わらないのに、今まで出していたものは「旧品(きゅうひん)」となり、自然切り替えで棚から消える。もしくは店員の手で撤去され、「現行品」である新商品に取って代わられる。そして食品ロスが生まれる。

女子大生が書いた最優秀賞の課題文は、次のような言葉で締められる。

以上より、新商品を生み出すことで今まで売れていた商品が売れ残り捨てられてしまうこと、新商品を多く生産し過ぎためにそれ自体が売れ残り捨てられてしまう可能性があります。

食品ロスを削減するには、今あるものを消費することが大切です。ですから、新商品を出さないことで食品ロスは減少していくに違いないでしょう。

出典:最優秀賞の課題文より引用

この提言のいいところは、環境配慮のキーワードである「3R(スリーアール)」の最優先である「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」に相当する具体的な策を述べているところだ。大学生の、いや、大人の多くは、「余ればリサイクルすればいい」と言う。もしくは「余れば誰かにあげればいい」とも言う。最初の案は3Rの3番目の優先順位に相当する「Recycle(リサイクル:再生活用)」で、次の案は3Rの2番目に相当する「Reuse(リユース:再利用)」だ。だがその前に、エネルギーとコストを無駄にしない「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」を考えて、その次に、段階的に次のステップに進むのが本質的だ。

2030年までに世界が果たすべき17の目標を定めたSDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより引用)
2030年までに世界が果たすべき17の目標を定めたSDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより引用)

新商品を生み出すのは命を生み出すこと、終売は殺すこと

新商品はモノであり、人間ではない。だが、開発者が本気で魂込めて作った新商品であれば、もはやモノではないだろう。人のようなものだ。人間であれば、安易に生み出し安易に殺すのは犯罪だ。一方、日本全国、山のような新商品が、毎日生み出され、しばらくすると殺される。

国連サミットで2015年9月に採択された、2030年までに世界が果たすべき17の目標を定めたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)。12番目の目標は「つくる責任 つかう責任」。製造企業は、作り過ぎず、適切な量を製造し、販売企業は、適切な量を販売する。単に売り上げや利益率だけではない、企業を判断する新たな指標となっている。

SDGsの12番目「つくる責任 つかう責任」(国連広報センターHPより)
SDGsの12番目「つくる責任 つかう責任」(国連広報センターHPより)

大学生は、こう述べる。

第二次産業、第三次産業でも同様に、私たちは新しいものを創造し、新しいものを好む傾向にあります。

機能・技術面では、生活をより豊かに、より便利で効率性を与えてくれます。

しかし、食品面に置き換えるとどうでしょうか。

消費者の購買意欲が高まり新商品の需要が増加する一方で、ある一点に需要が集中し今まであったスタンダードな商品は売れ残り捨てられてしまいます。

また、新商品の需要が期待よりも低く他企業へ顧客が逃げてしまうかもしれません。

もしそうであるならば、危険を回避するためにメジャーな商品を売り続けることが、供給者にとって有利な戦略であると考えます。

一方で、新商品が出ないからといって国全体の需要量は変わりません。

というのは、人間は食べ続けないと死んでしまうため食品を買わざるを得ないからです。

したがって、新商品を作ることで想像されうるデメリットは多く、その中に食品ロス問題が含まれています。

出典:最優秀賞受賞作品より引用

「メジャーな商品を売り続けることが、供給者にとって有利な戦略である」とは、ロングセラー商品やベストセラー商品などの「強みに集中しよう」ということだろう。

ファストフード店だけでなく、食品業界には、示唆に富むこの提言を真摯に受け止めて欲しいと願う。

参考記事:

大学生109名に聞いた 飲食店バイトで捨てる食べ物

スーパーマーケットで捨てる食べ物 社員291名に聞いた結果

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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