イオン、食品廃棄物を2025年までに半減へ 食品ロス削減へ向けた各界の動き
国連が定めた世界食料デーの10月16日。大手流通のイオン株式会社は、食品廃棄物削減に向けた目標策定を発表した。
2016年10月、イオングループ15社の次世代経営陣研修で、各社トップや店長など65名の方々に「食品事業者における食品ロス削減のアプローチ 20の視点」について講演させて頂いた。その講演を聴いてくださった、マックスバリュ東北株式会社の代表取締役社長から、2016年12月、講演を聴いてさっそく取り組みに着手した旨のご報告と御礼をいただいた。
2017年4月、フードドライブの締結式に関する発表(2017年4月3日)があり、河北新報が報道した。家庭の余剰食料品を、店頭で集め、それを地元のフードバンクを通して、施設や個人で活用する取り組みだ。
得てして、このような取り組みは食品の安全性が問われる。ゼロリスク志向で何もしない選択肢を選ぶ企業もまだまだ多い。組織のトップが責任を取ると明言することで、余剰食品の資源活用は大きく前進していく。イオン株式会社内では、それまでも食品ロス削減に関する議論はされていたが、少しでも講演がお役に立てたと思うと、今回の動きをうれしく思う。
イオングループ29社は、食品廃棄物を堆肥にして自社農場で活用する取り組みを拡大する。また、各店舗で廃棄物の量を計量し、ロスを見える化することも検討するという。また、賞味期限表示の「年月日表示」を「年月表示」化し、月末まできちんと食品として消費できるようにすることで、ロスを削減していく。イオンでは、こうした取り組みによって、2015年時点で売上高100万円当たり、約35キロ出ていた食品廃棄物を半減させることを目指していく。
食品小売業による食品ロス削減の取り組み
今回の発表で、イオンが目標を策定し、食品ロス削減に向けて大きく舵をとったことがわかった。これまでも、規模の大小を問わず、小売業では食品ロス削減に向けての具体的な活動がなされてきている。
合同会社西友は、公式サイトの西友のサステナビリティで説明している通り、2009年から、フードバンク活動に参画している。私がかつて広報を3年間務めていたセカンドハーベスト・ジャパンに、日販品とよばれるお惣菜類も含めた寄贈を続けてきている。
食品製造業がリードする食品ロス削減の取り組み
食品事業者における食品ロス削減の取り組みは、業界全体で見ると、製造業において進んでいる。2013年時点で、ペットボトルなどの飲料業界では、年月日表示を年月化する動きが出ている。特に2リットルサイズの飲料水で先駆けて始まり、今は500mlサイズで進んでいる状況だ。
大手食品メーカーの味の素株式会社も2017年7月5日、年月日表示を年月表示化していくことをニュースリリースで発表した。日本の法律では、3ヶ月以上、日持ちする食品に関しては、賞味期限の日付表示を省略することができる。まだまだ日付が入っているものも多いが、大手がリードすることの意義は大きい。
気象データを活用することで、年間ロスが20〜30%削減でき、コストとしても1000万円単位で削減できた事例もある。
参考記事
高機能包装による食品ロス削減の取り組み
食品というと、中身の食べる部分ばかりが注目されるが、食品ロス削減においては、パッケージ(包装)の果たす役割が大きく注目される。農林水産省は、2017年4月11日、「食品ロスの削減につながる容器包装の高機能化事例集」の公表について発表した。製造方法やパッケージを改良することで、賞味期限を7ヶ月から12ヶ月まで延ばしたキユーピーのマヨネーズの事例や、ボトルを押して醤油を出す仕組みにより、酸素に触れにくく、賞味期限を延ばした事例など、幅広い事例が掲載されている。
行政による食品ロス削減の取り組み
京都市は、2017年1月から2月にかけて、スーパーで、形の悪い野菜にPOP(掲示)で「もったいないので食べてください」とつけた場合とつけない場合とを比較する実証実験をおこなった。POPをつけたほうが10%程度、無駄は減ったという。また京都新聞が声掛けで宴会食べ残し4分の1 京都市、飲食店で調査(京都新聞 2017年4月17日付)と報じている通り、宴会でも、食べ残しをしないようにと幹事が声がけした場合としない場合とで、声をかけたほうが食べ残しは少なかった。コストをかけずにロス削減できる事例といえる。
参考記事
16年でほぼ半減 京都市の530(ごみゼロ)対策は なぜすごいのか?
日本の年間の食品ロス量621万トンというのは、実は、東京都民が一年間に食べる量と同等レベルである。東京都環境局主催のシンポジウムや職員研修にはこれまで5〜6回、協力させて頂いてきた。その東京都は、「2030年までに食品ロスを半減させる」と明言しており、2017年1月31日には2030年度までに食品ロス半減を達成するための「食品ロス削減・東京方式」の確立〈2020年度〉を発表している。
外食産業における食品ロス削減
客の食べ残しのリサイクルなどが主流だが、その手前でロスを無くしたほうが、コスト的にも環境的にも負荷が少なくて済む。一日100食限定とうたい、働き方改革にもつながっている、京都市の佰食屋(ひゃくしょくや)の事例は画期的だ。
参考記事
なぜシングルマザーや障害者も働くことができるのか 一日百食限定、京都女性社長の店から働き方改革を問う
家庭における食品ロス削減
京都市は、3キリ運動を推奨している。食べキリ・使いキリ・水キリの3つである。拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』の巻末には「今日から家庭でできる10か条」の食品ロス削減の具体的な取り組み方法を紹介している。
映画を通しての食品ロス削減
2017年1月、食品ロスをテーマにした映画『0円キッチン』が公開された。オーストリア人監督のダーヴィド・グロスが、ヨーロッパ5カ国を5週間かけてまわり、各国の食品ロスを活用しながら旅していく、エンターテイメントロードムービーだ。
この映画の第二弾として、ダーヴィド監督は、日本を舞台にした『MOTTAINAIキッチン』を制作する、と発表した。毎日新聞も10月17日に報じている。
「食品ロス」というと、どうしても硬いイメージで、社会派という印象を受けるが、この映画は、明るく、ゆるやかだ。ダーヴィド監督のキャラクターも相まって、関心のない人でもとっつきやすい雰囲気になっている。
今日できるところから
2017年10月30・31日の両日、第1回食品ロス削減全国大会が長野県松本市で開催される。環境省・農林水産省・消費者庁の共同開催だ。宴会の食べ残しをなくす「3010(さんまるいちまる)」運動を始め、全国区になった長野県松本市が、第1回となる食品ロス削減の全国大会を運営している。筆者も10月29日に第1回 食品ロス削減全国大会 プレイベントに登壇する。
いま、この瞬間も、食品は捨てられている。今、できることから着手していきたい。今回、世界食料デーに食料廃棄物削減の目標策定を発表したイオン株式会社のように、方針として明言化される組織が増えていくことを願っている。