「走行距離課税」の真の狙い―今のままだと2050年代には、ピカピカの電動車がデコボコの道を走ることに
最近、にわかに「走行距離課税」が話題となっている。
その契機となったのは、政府税制調査会(内閣総理大臣の諮問機関)の第20回総会(2022年10月26日開催)における出席した委員からの意見だった。
その第20回総会に提出された資料の中に、下の図が示された。
今の自動車関連諸税は、ガソリン車を前提として設計されている。だから、ガソリンの使用が減るような燃費効率の改善が進めば、税収は減る。上の図にもあるように、この15年間で税収は合計して約1.7兆円減った。そして、今後自動車の電動化などの脱炭素化によって、自動車関連諸税はますます減ることが予想される。
他方、自動車は、電動化しても、道路を損傷する。そして、(料金を徴収する有料道路を除く)道路の大半は国や地方自治体が所有しており、その維持費用の大半は税金で賄われる(一時的に建設国債で賄われても、その返済費用は税金)。
2050年には、わが国ではカーボンニュートラルの実現を目指している。その頃には、道路を走る車はほぼ電動車となっているだろう。今の税制のままだと、ガソリン車がなくなれば、自動車関連諸税の税収はほぼゼロになる。このままでは、2050年代には、道路を走る電動車はピカピカだが、それが走る道路はデコボコという事態になりかねない。
もちろん、その道路の維持管理の費用を、自動車関連諸税だけで賄わなければならない、というわけではない。所得税や消費税で賄っても支障はない。
しかし、道路の損傷は主に自動車によって引き起こされているのに、自動車を使わない人まで、所得税や消費税で道路の維持管理費用を払わされるのでは、便益に応じた負担からはかけ離れる。
応益負担(利用者負担)の原則に則せば、道路の維持管理の費用は、主として道路を損傷した自動車の利用者に負担してもらうべきだろう。ここでは、当然ながら、自動車を持っていない人でも、バスやトラックなどによって間接的に道路を利用すれば、運賃や料金などによって間接的に費用負担が求められるということも考慮に入れている。
応益負担の原則に基づけば、道路を利用した度合いに応じて課税することが基本と考えられる。つまり、走行距離に応じた課税ということで、「走行距離課税」という議論が出てきたのである。
走行距離課税という案は、税制の専門家の議論では既に以前からあったが、巷間では新しい話として急浮上したようだ。今の課税をそのままにして新たな税が追加されるというのは、体のいい増税と聞こえたのだろう。
しかし、今の課税をそのままにして上乗せするために走行距離課税と言い出しているわけではない。むしろ逆で、今の税制のままだと電動車に置き換わって税負担は軽くなってゆくから、その代わりとして走行距離課税という話である。
では、走行距離課税は実現可能なのか。これを実現可能にするには、自動車の走行距離を正確に測れなければならない。確かに、GPSが使えれば、相当正確に走行距離を測ることができるだろう。しかし、GPSは、誰がいつどこに自動車で行ったかという個人情報まで含んでおり、フランスでも議論されたが強い反対に直面したことがある。
走行距離課税を実施するのに、距離だけ測れればよいのだから、誰がいつどこに自動車で行ったかという個人情報は必要ない。つまり、GPSがなくても代わりの方法があれば実現可能である。
では、走行距離課税は、いつどのようにして実現できるだろうか。それは、自動車の
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