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【ソチ2014パラリンピック】「撮らなきゃマズイ!」苦笑される日本報道陣〜メディアのモラルを考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

「日本のメディアはマナーが悪い」ロンドンパリンピックの時に各所で聞かれた感想でした。そして、ロンドンを取材する中で一部ではありますが、そう言われても仕方のないメディア関係者を目の当たりにしました。今回のソチでも聖火ランナーを務めた佐藤真海選手の取材に当たって、さっそく日本メディアの問題点が浮き彫りになるようなシーンに遭遇しました。2020年を少しでも良いものにするための切っ掛け作りの一つとして、問題提起をしたいと思います。

◆「あんなので撮れるわけないだろ!」

聖火リレー本番直前、もともと佐藤選手が聖火を受け渡すはずだったポイントが事前連絡と異なったことで佐藤選手のフィニッシュを押さえようと構えていた日本の報道陣はちょっとしたパニック状態になりました。佐藤選手を追いかけて群れになった日本の報道陣が沿道の観客を押しのけて走る姿は、他国の報道陣や観客から失笑を買ってしまいました。

現場にいたジャーナリストは「オーディエンスではなく、完全にフォトグラファー優先の雰囲気になっていました。あるフォトグラファーなど沿道の子供にぶつかってまで写真を撮ろうとしていました。“あんなので撮れるわけないだろ!”って叫んでいた人も居ましたね」と憤り、また別のフォトグラファーは「僕もやっちゃったけど、良くないよね」「一応“すみません”的なことを言っていたけど、観客にのしかかっていた人も居て、指さされて笑われていた。自分もその中に居たから、主役は僕たちじゃないと自戒します」と話してくれました。

◆そもそも人数が多い日本メディア

日本でのパラリンピックの報道を見ていると驚かれる方も多いかと思いますが、日本のメディアはおそらく開催国の次に人数が多いのではないか、というほど沢山来ています。ロンドンの時はEU全体と同じくらいの人数で、開会式と閉会式は大手メディア以外はアクレディテーションを持っていてもクジ引きでチケットをシェアしたくらいです。

ソチでも日本メディアの多さは群を抜いていて、アクレディテーションを受けているフォトグラファーのための説明会「フォトブリーフィング」はロシア語・英語・日本語の三か国の通訳で開催されました。全体的には謙虚でルールを守っているメディア関係者も沢山いるのですが、もともと数の多い中の一部にマナーの悪い人がいることで、日本のメディア全体の評判に影響している可能性もあります。

また「なんで日本のメディアは次々に同じ質問をするのか?」ということも良く聞かれましたが、確かに同じ質問は多く、佐藤選手の取材でも「同じことが言えるか分かりませんが……」と戸惑うシーンもありました。シェアする感覚のなさが、色々な意味で歪みを生じさせているような気がします。

◆自分が撮らなきゃいけない空気

どうしても撮らなければいけない雰囲気がある、とメディアに関わるフォトグラファー達は口を揃えて言います。会社から指示されたような絵が撮れないとマズイ、売れる絵を撮らなければ仕事がなくなる、という強迫観念のようなものがあるようです。日本人はよく空気を読む国民性と評されますが、国際大会の現場では、自分たちの小さなコミュニティーの空気に縛られて、全体に溶け込めていない印象があります。また「自分はまだ若手なので、パラリンピックに回されただけです」というようなモチベーションの低いジャーナリストにも問題があるように思います。「綺麗事ではなく結果がすべて」という意見もありますが、そこには偏差値教育的な歪みを感じます。パラリンピックのような場こそもっとプロセスを重視するべきなのでは、と感じます。

「出場するすべての選手たちの全力を出し切る姿が世界中の人 たちの心に届くことを願っています」と語った佐藤選手、メディアも全力で応えることで、情報の質も伝わり方も変わってくるのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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