選挙演説まがいの国連演説につくづく米国は情けない
フーテン老人世直し録(326)
長月某日
トランプ大統領の初の国連総会演説はまるで支持者を前にした選挙演説のようだった。国連加盟国である北朝鮮、イラン、シリア、ベネズエラ、キューバを「ならず者国家」と名指し、中でも北朝鮮を「完全に壊滅させる」と威勢良いところを見せた。
しかし支持者を前に本当のことを言う政治家などフーテンは見たことがない。支持者を前にすれば喜ばすために嘘を言うのが政治家の本性である。従って選挙演説を信じて一票を入れる国民は大体がバカを見ることになる。
問題は無知な大衆を前にした選挙演説と世界193か国が加盟する国連総会演説とでは意味が異なる。トランプが支持者の前でどんな嘘をつこうが米国民が選んだ大統領だからお好きにやればと思うが、国連総会の演説でお好きに嘘を言われたのでは世界各国は迷惑だ。トランプの演説を聞いてフーテンは臆病で情けなくなった米国の姿を感じた。
1991年に旧ソ連が崩壊し冷戦が終わった時、米国議会情報を日本に紹介する仕事をしていたフーテンにとって米国の一挙手一投足はすべてが新鮮で驚きだった。ワシントンは新たな時代を迎える緊張感に満ち議会でまず議論されたのはCIAの見直しだった。
CIAは冷戦で生み出され対ソ諜報を担う組織だから廃止を前提に見直すというのである。冷戦によって作られた組織や仕事をすべて見直すという米国の徹底ぶりに驚き、それならソ連を仮想敵とした日米安保体制も見直す必要があるとフーテンは思った。
そうした議論の中で米国が最も懸念したのはソ連の核技術流出である。にわかに中東と北朝鮮の核疑惑に目が向けられた。北朝鮮は旧ソ連の技術で原子力発電を行っていたが、旧ソ連は平和利用以外認めず、北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)を締結しIAEA(国際原子力機関)の監視下に置かれていた。
ところが93年に北朝鮮はNPTを脱退する。クリントン政権は94年に北朝鮮の核施設空爆を決断するが、韓国に甚大な被害が及ぶことから爆撃は直前に停止された。米朝交渉によって一時的に危機は回避され北朝鮮もNPTに復帰した。
北朝鮮が再びNPTを脱退するのは02年にイラク、イランと並びブッシュ(子)大統領によって「悪の枢軸」と名指しされた後である。しかも米国は03年に国連に対し「イラクに大量破壊兵器がある」と嘘の報告を行い、先制攻撃によってサダム・フセイン大統領を捕らえて死刑にした。
それを見せつけられ金正日は05年に核保有を公式に宣言、06年にはミサイル発射と一回目の核実験を行う。核を持たなければサダム・フセインの二の舞になるというのが理由である。つまり北朝鮮を核武装させたのは他ならぬ米国なのだ。一方でその頃から米国と北朝鮮の間には水面下の交渉パイプが出来た。
ブッシュ(子)大統領のイラク戦争は中東にISを誕生させ、アフガン戦争も米国をベトナム戦争以上の泥沼に陥れた。そのためオバマ大統領は中東からの軍撤退に全力を注ぐことになる。軍事的にも財政的にも「世界の警察官」を務めることは無理となり、北朝鮮との二正面作戦などできない話だった。
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