イノベーティブと点心が融合した料理に驚きの連続! あの美食ホテルで異色のコラボが生まれたワケ
東京で最も多くの星を獲得してきたホテル
マンダリン オリエンタル 東京は2007年にミシュランガイドが刊行されてから、東京で最も多くの星を獲得してきたホテルです。これまで、フレンチファインダイニング「シグネチャー」、モラキュラー料理の「タパス モラキュラーバー」、広東料理「センス」で星を獲得しており、「ピッツァバー on 38th」はビブグルマンに輝きました。
ミシュランガイド東京2022で一つ星に輝いた「タパス モラキュラーバー」は、料理長である牛窪健人氏による「五感と想像力を刺激するアートギャラリー」というコンセプトによって、わずか8席というカウンターのゲストを魅了し、予約が難しいレストランになっています。
ただでさえ人気のカウンターガストロノミーですが、つい先日、4日間限定の特別メニューが提供されて、さらに話題となりました。
4日間のコラボレーション
その特別メニューとは、6月16日から19日にかけて行われた、広東料理「センス」点心長である林秀晃氏とのコラボレーション(19,800円、税込・サ別)。「センス」もミシュランガイドの掲載常連店であり、香港の伝統技法を守りながら、日本の新鮮な素材を大胆に用いた料理で、高い評価を得ています。
・名門店で“2人の料理長”が紡ぎ出す広東料理と“あるお酒”のペアリングとは?(東龍)/Yahoo!ニュース
イノベーティブと点心が融合したコースであり、メニューのネーミングも非常にユニーク。全く予想ができないものばかりで、ゲストに感銘を与えました。
ペアリングも充実しており、アルコールペアリング(13,200円、税込・サ別)とノンアルコールペアリング(8,800円、税込・サ別)を用意。シェフソムリエの野坂昭彦氏やシニアバーテンダーの長谷川和乃氏、中国茶エキスパートの坪井彩氏など、ビバレッジに関する様々なプロフェッショナルによって考案されました。
どのようなメニューが提供されたのか、詳しく紹介していきましょう。
ドーナツ(タパス モラキュラーバー)
キャビア / マスカルポーネ
「タパス モラキュラーバー」のシグネチャーのひとつです。サステナブルなイタリア産キャビアをふんだんに挟み、いぶりがっこをアクセントに加えた、小さなドーナツ。キャビアの塩味がシャンパーニュの酸味とよく合います。
棒棒鶏(2人のシェフによる創作料理)
アワビ / キュウリ / 白ごま
液体窒素でかためた胡麻ダレのパウダーを仕上げにふりかけるという、革新的な棒棒鶏です。アワビの身と醤油漬けしたアワビの肝、キュウリと様々なテクスチャ。
一口TKG(2人のシェフによる創作料理)
米 / 卵 / 醤油
一口で食べる卵かけご飯で、イノベーティブな中華リゾットです。棒状に固めたアヒルの卵の塩漬けを最後にスライスするのも、目を引く演出。花わさびの醤油漬けは、和風のアクセントです。
ワンタン(広東料理「センス」点心)
鶏肉 / 生姜 / 椎茸
牛窪氏のスープに、林氏のワンタンを合わせた意欲作。スープはオマール海老、アサリ、鶏肉などがフレンチの技法によってつくられており、ワンタンの餡はそれに合わせて、エビではなく、鶏肉と干しシイタケがつかわれました。鶏肉と魚介類の旨味が凝縮したスープが出色です。
遅れたクリスマスディナー(タパス モラキュラーバー)
手羽先 / グレイビー / クランベリー
牛窪氏によって考案されたものの、クリスマス期限には間に合わず、遅れたクリスマスディナーとして登場。日本ではクリスマスにはチキンということで、手羽先が主役になっています。中の肉は取り出してソースにし、代わりにグレイビーソースは中に入れるという、通常のチキン料理とは反対の創造的な構成。クリスマスチキンらしくクランベリーも添えました。中のソースがたっぷりなので、一口で食べるのがオススメです。
芋角(2人のシェフによる創作料理)
ロブスター / タロイモ / アメリケーヌ
広東料理ではポピュラーな蜂の巣揚げを、牛窪氏と林氏が再解釈。通常、中に包まれているのは、豚挽肉とシイタケですが、今回はフレンチの技法で調理されたオマール海老、ショウガ、胡麻油、オイスターソース。下にはオマール海老のアメリケーヌソースがかけられています。オマール海老の旨味と衣のサクサクとした軽快さに、木の芽がアクセント。牛窪氏いわく「点心長の技術がないと完成しなかったコラボレーション料理」という揚げ点心です。
カルボナーラ?(2人のシェフによる創作料理)
卵 / 南瓜 / 黒コショウ
煮込んだパンチェッタとXO醤をワンタン生地で包み込んだ棒状のラビオリ。ツルンとして心地よい喉越しです。周りにはクルトンやカリカリのタマネギにパルメザンチーズと卵黄のムース。ワンタンを小さめにカットし、崩したゆで卵を合わせて食べるとおいしいです。途中でパルメザンチーズをかけてもらえるので、味変の楽しみも。
そして最後に、ある驚きの説明があり、メニューに「?」と付いている謎も氷解します。
鴨オールイン(2人のシェフによる創作料理)
皮 / 胸 / フォアグラ
鴨の皮に見立てた湯葉、胸肉、フォアグラを割包で包んだ北京ダックで、鴨肉の佳美を存分に堪能できます。胸肉は低温調理してリンゴのチップで瞬間スモークし、香りを豊かに。北京ダックのガラを煮詰めてつくった甘味噌のオリジナルソースに、メネギと花キュウリを合わせて、テクスチャと彩りが鮮やかになっています。
焼売(広東料理「センス」点心)
岩手プラチナポーク / 天使海老 / 干し貝柱
「センス」が自信をもつ広東焼売を、独自の鍋で蒸し上げました。脂がのった豚肩ロースとプリプリのエビは大きめにカットされているので、ダイナミックでジューシー。XO醤によってコクが深まっており、水ではなくジャスミン茶で蒸しているので、上品な香気をまとっています。
カナディアンステーキハウス(タパス モラキュラーバー)
和牛サーロイン / 根セロリ / ウイスキー
黒毛和牛のサーロインにディルシード、黒胡椒でマリネして、スポイトでウイスキーを加え、黒くなるまでしっかりと焼きました。仕上げにヨーロッパのサマートリュフを惜しみもなくスライス。和牛の妙妙たる味わいと深みのある和牛香が印象的です。
幼少よりカナダで育った牛窪氏は「カナディアンステーキハウスの思い出は、木の香りがしたことです」と懐かしみます。実際にこの料理を食す際にヒノキの香りが感じられますが……、サービススタッフによって、ヒノキのアロマが店内にスプレーされていたというお茶目な演出。
ビキニ〆(タパス モラキュラーバー)
チーズ×3 / イベリコハム / トリュフバター
〆の食事は、牛窪氏がこれまでの人生で最もおいしかったサンドイッチのひとつだというスペインの「ビキニ」をオマージュしたスナック。パルメザンチーズ、ブリー・ド・モー、21ヶ月熟成コンテチーズという3種のチーズ、トリュフバターがつかわれており、とても香り高いです。生地の表面はサクサクなので、満腹でも軽やかに食べ進められる食感。
絶滅危惧種(タパス モラキュラーバー)
キウイ / キーウィ / キウイ
その昔、中国原産のキウイがニュージーランドに持ち込まれ、現在では絶滅危惧種となっている国鳥のキーウィにちなんで、キウイフルーツと命名されました。このエピソードから、キウイフルーツとキーウィをかけ合わせて「絶滅危惧種」というメニュー名に。
キウイは果肉だけではなく皮と種も加えられ、液体窒素で凍らせたソルベに仕上げられています。薄口醤油が隠し味となった、キウイの味わいが凝縮されたプレデセールです。
旅行中に忘れたスーツケース(2人のシェフによる創作料理)
ココナッツ / 砂 / パイナップル
牛窪氏いわく、最悪な出来事の「旅行中にスーツケースを置き忘れること」を表現したデザート。2日間もかけてつくられたサクサクの生地の中には、異国情緒感のあるパイナップルの白餡。ココナッツリキュールのマリブとレモングラスのムースがアクセントになっています。
庭園(タパス モラキュラーバー)
トリュフ / ナッツ / ビターチョコ
2品目のデザートは苔のガーデンをイメージ。トリュフ入りのダークチョコレートムース、ブルーベリー、ナッツなど、相性のよい食材で庭園が紡ぎ上げられています。「タパス モラキュラーバー」でお馴染みのスコップ型のスプーンで、掘るようにすくって食べると、より楽しく、よりおいしく味わえるでしょう。
ジャスミン茶(2人のシェフによる創作料理)
最後の小菓子は「タパス モラキュラーバー」のシグネチャーを牛窪氏と林氏でアレンジ。ジャスミン茶風味のメレンゲを液体窒素でかためました。口の中に入れた後に、口を閉じて鼻で呼吸することによって、香りと煙を楽しめます。
ペアリングのドリンク
珠玉のペアリングにも触れなければなりません。
アルコールペアリングは初夏にぴったりなシャンパーニュの「アンリオ ブランド ブラン」に始まり、馥郁とした風味の「獺祭 美酔 純米大吟醸」から、しっかりとした果実味を有する新疆ウイグル自治区の「2014 テンサイ スカイラインオブゴビ」など、ヨーロッパ各地や中国のワイン、さらには日本酒までも楽しめました。
ノンアルコールペアリングでは、みかん・いちじく・ディルを合わせた軽やかな「白茶白牡丹」や、クランベリー・コーヒー・バルサミコ・メープルで構成されたクリエイティブな「紅茶 正山小種」などを提供。どれも料理に負けないくらいの個性がありながらも、ノンアルコールドリンクなので、後口は非常にクリア。
アルコールペアリングでも、ノンアルコールペアリングでも、料理に見事マリアージュしたドリンクであったといえます。
企画された背景
牛窪氏と林氏のコラボレーションは他では体験できないものでしたが、どのようにして企画されたのでしょうか。
マンダリン オリエンタル 東京には12もの素晴らしい料飲施設があり、ジャンルを超えて、料理人たちは互いにリスペクトし合い、刺激を与え合っています。
「タパス モラキュラーバー」は幅広いジャンルの料理を取り入れてイノベーティブなクリエーションを創り出しており、「センス」は本場の伝統技法をしっかりと守って高いクオリティを維持しています。方向性は異なるものの、小皿料理をつくっているという共通点もありました。
そこで、いつか2人でコラボレーションできないかと考え、2021年の始め頃から具体的に構想を練り始め、今回のコラボレーションに至ったのです。
あえて通常よりも手頃な値段に
メニューを作成するにあたって、それぞれのレストランで試食を重ねたり、仕込みから携わったり、プライベートでも時間をつくったりして、お互いの料理やアイデアへの理解を深めていきました。そして、相談と試作を繰り返して、これだけの品数を完成させたのです。
2人の技術と思いが結集した珠玉のコースなので、あえて通常の「タパス モラキュラーバー」の値段よりも約5,000円安い価格に設定し、ゲストがより気軽に体験できるようにしました。
互いの評価
ジャンルも性格も全く異なる2人ですが、互いのことをどのように思っているのでしょうか。
牛窪氏は林氏について「非常に高い技術力と広くて深い知識をもっています。飽きることなく一つのものをつくり続けて追求したり、常に落ち着いて料理と向き合ったりする姿勢も、リスペクトしています」と述べます。
林氏は牛窪氏について「新しい料理を一年にいくつも生み出す豊富なアイデア、幅広い食の知識、アーティスティックな才能に感銘を受けます。食材の組み合わせや味のバランス、常に新しい物を生み出そうとしているのも尊敬しているところです」と回答。
今回の異色のコラボレーションは大好評だったので、次回も検討されているといいます。五感を刺激するイノベーティブと伝統的な点心が融合したコースは、全く新しい食体験であるだけに、次の開催が心から待ち遠しいです。