名門店で“2人の料理長”が紡ぎ出す広東料理と“あるお酒”のペアリングとは?
2人の料理長=シェフ
レストランにおけるシェフ=料理長といえば、レストランにおける全ての料理に責任をもつ立場。レストランでは空間やサービスも重要ですが、料理があるからこそ成り立っています。最近では料理長がレストランの顔ともなっているだけに、料理長が担う重責は非常に大きいです。
大きなレストランであれば、副料理長=スーシェフや部門料理長=シェフ・ド・パルティがいることもあります。シェフの上に総料理長=エグゼクティブシェフが置かれていることも少なくありません。
ただ、いずれの場合であったとしても、シェフと呼ばれて返事をするのは、あくまでも頂点に立つ料理人一人だけです。
こういった状況の中で、マンダリン オリエンタル 東京の広東料理「センス」には、2人の料理長が存在します。
料理長は鈴木豪氏と中間利幸氏
マンダリン オリエンタル 東京は2007年にミシュランガイドが刊行されてから、東京で最も多くの星を獲得してきたホテル。広東料理「センス」はミシュランガイドの掲載常連店であり、香港の伝統技法を守りながら、日本の新鮮な素材を大胆に用いた料理で、ゲストを魅了してきました。
この広東料理の名店で料理長を務めるのは、鈴木豪氏と中間利幸氏。
鈴木氏はホテルの名門中国料理店で8年間勤務し、本格的な広東料理の腕を磨きました。六本木のレストランで料理長を務めた後に、2005年の開業時から「センス」に加わります。最も得意とするのは、食材の状態にあわせ、自らの経験をもとに調理をする焼物です。
中間氏は都内の数々のレストランで研鑽を積むと共に、本場の料理の空気を大切にするという考えのもと、香港やマカオへ年に何度も足を運び、本場の味を習得。レシピや調理法に隠された広東語の意味や文化に精通し、鈴木氏と同じく2005年に「センス」にジョインしました。
冷静沈着で論理的な鈴木氏とクリエイティブで話し上手な中間氏は、「センス」の前から共に働いていたことがあり、20年以上もの付き合いです。
お互いに何を考えているのかをよく理解し合っており、息はぴったり。どちらかの料理長が必ず店にいるので、「センス」の料理はより高いクオリティで、ますます安定してきました。
ウイスキーのペアリングディナー
2人の才能溢れる料理長がいる「センス」では、他の広東料理レストランでは体験できないディナーが行われています。
それは、2022年6月3日から8月28日にかけて行われている「オリジナルウイスキーとの特別ペアリングディナー」(ハーフペアリング 35,200円、フルペアリング 40,700円、サ別)です。
広東料理とのペアリングであれば、通常は紹興酒やワインとなります。それが今回のコースでは、「マンダリン オリエンタル 東京 オリジナルウイスキー イチローズモルト プライベートカスク」と、ブドウの栽培から瓶詰めまでを行うドメーヌ型ワイナリーの中国ワインで、ペアリングを行っているのです。
シェフソムリエの野坂昭彦氏とヘッドバーテンダーの小田健吾氏という実力派の2人が料理に最適なお酒を考えた、珠玉のマリアージュとなっています。
「センス」で行われている広東料理とウイスキーペアリングのディナーを詳しく紹介していきましょう。
山形和牛サーロインとパプリカの春巻きとピーカンナッツの飴焚き
最初の一品は、山形和牛の肉質等級A4サーロインがぎっしりと詰まった春巻。生姜のアクセントが利いており、パプリカと合わせてチンジャオロースをイメージしました。プレートも春巻も熱々で、最高の状態。
合わせるのはシャンパーニュの「シャルル エドシック ブリュット レゼルヴ」。きめ細やかでクリーミーな泡が油をさらっと流してくれます。
香港焼き物盛り合わせ
炭火仕上げの叉焼・皮付き豚バラ肉の焼肉・仔豚の釜焼き
毎日専用の釜で焼き上げる焼物。香港での調理法と同じ仕込みが行われています。開業から改良を重ねてきた岩手県の白金豚肩ロースの叉焼は、オーダーが入ってから火入れし、燻香が素晴らしいです。メキシコ産の皮付きバラ肉は1日乾かしたものを焼き、サクサク感が楽しめます。スペイン産3ヶ月の仔豚は開業からのスペシャリテで、仕込みに丸2日もかけており、旨味がたっぷり。
「マンダリン オリエンタル 東京 オリジナルウイスキー イチローズモルト プライベートカスク」のストレートをペアリングしました。ウイスキーの芳醇な香りが、焼物の香ばしさをより引き出します。
アオリイカの馬来盞炒め
海老ミソの発酵調味料「馬来盞(マーライザン)」をつかった炒め物で、独特な旨味と香りが味わえます。「馬来盞」については、「これひとつあれば、味が深まります。オイスターソースや中国醤油と合わせました」と中間氏が紹介するほど食味が素晴らしい調味料。
長崎県のアオリイカは軽くボイルし、日本料理の技法である花切りを用いました。表面積が広がっているので、甘味が増して感じられます。
ペアリングされたのは中国の寧夏回族自治区「2020 シルバーハイツ ラスト ウォリアーホワイト ブレンド」。アオリイカの甘味と塩味に、ワインの上品な酸味と鉱物的なミネラル感が寄り添います。
干し貝柱 烏骨鶏 ツブ貝 鮑の蒸しスープ 佛跳牆(ファッティウチョン)
「お坊さんですら、垣根を飛び越えて飲みたいと思う」ことから名付けられた、非常に手間暇がかけられたスープ。
まず4時間かけて干し貝柱、烏骨鶏、スッポン、生のツブ貝、天白椎茸、鮑で出汁をとり、そのスープをベースにして、さらに鮑、干し貝柱、天白椎茸、乾燥山芋、クコ、龍眼、広東白菜、ツブ貝、衣笠茸、スッポンの縁側を加えて1時間蒸します。オーダーが入ると、タラバ蟹を入れて、仕上げに1時間蒸してから提供されるという、手の込みよう。
多くの素材の佳味が渾然一体となっていて、妙妙たる味わい。「佛跳牆」は開業時からのメニューで、茸を中心にしたスープや、冬虫夏草を加えるスープなど、異なる「佛跳牆」も用意されています。
文華廳伝統の舌平目のブラックビーンソース炒め “ドラゴンボート”仕立て
舌平目のブラックビーンソース炒めは、30年前にマンダリンオリエンタル 香港の広東料理「マンワー(文華)」のシェフが料理コンクールで受賞して以来、多くのゲストを魅了してきた一品。中間氏がマンダリン オリエンタルで働きたいと思ったのも、20年以上前に香港でこのメニューで食べたからです。
「センス」ではメニューを創作したシェフへの敬意を込めて、ドラゴンボートのスタイルを1名盛りで提供。揚げてカリカリにした舌平目の骨をボートに、中国野菜のカイランはオールに見立てています。舌平目はふっくらと仕上がっていて、上品な味わいとブラックビーンズソースの苦味とのコントラストがいいです。
「マンダリン オリエンタル 東京 オリジナルウイスキー イチローズモルト プライベートカスク」をロックでペアリング。ワイン樽で後熟させているので、赤ワイン由来のタンニンのコクがあり、ブラックビーンズの風味を包み込んでいます。
ジャスミン茶でスモークした鳩の香り揚げ
中国甲州産の鳩は、通常であれば熱い調味液「ローソイ」に漬けて焼きますが、「センス」では最上を極めるために、手間を惜しみません。鳩を冷たい「ローソイ」に一晩漬けて、味を入れてから乾かします。揚げる時に火入れすることによって、最適なミディアムレアに仕上げ、ジューシーな肉感に仕上げているのです。
中国の新疆ウイグル自治区「2014 テンサイ スカイライン オブ ゴビ セレクション マルスラン」は、赤ワインのエキゾチックなスパイス香が、鳩のロースト香に寄り添います。
北海道産花咲蟹の卵白炒飯 干し貝柱と脆米のアクセント
サクサクとした素揚げの干し貝柱、カリっとした揚げた米、ふわふわの卵白と、実にテクスチャが豊かです。花咲蟹の旨味や松の実のオイリーな香りも印象的。タイのジャスミンライス9割と魚沼のコシヒカリ1割を独自にブレンドしているので、パラパラ感の中にもちもち感があります。
ペアリングには「マンダリン オリエンタル 東京 オリジナルウイスキー イチローズモルト プライベートカスク」のハイボールを合わせました。爽やかな炭酸が、しっかりとした炒飯の口当たりを軽くしてくれます。
焼きパパイヤに詰めたジャスミンカスタードと黒タピオカ
見た目がユニークな「センス」オリジナルのデザートです。パパイヤを半分にカットして種を取り除き、広州産赤砂糖「紅糖」でオーブン焼きにしました。種の代わりにジャスミン茶の風味をつけたジャスミンカスタードクリームと黒タピオカを入れたのが、クリエイティブなところ。パパイヤのやさしい食味とジャスミンカスタードクリームの品のある甘味が重なり、タピオカの弾力もよい食感です。
合わせられたのは「マンダリン オリエンタル 東京 オリジナルウイスキー イチローズモルト プライベートカスク」のストレート。ラズベリーやブルーベリーのニュアンスがデザートの甘味を引き立てています。
開催された背景
これだけ素晴らしい広東料理とウイスキーのペアリングはなかなかありませんが、どのようにして開催されることになったのでしょうか。
「マンダリン オリエンタル 東京のオリジナルウイスキー イチローズモルト プライベートカスク」は、五大産地であるアイルランド、スコットランド、アメリカ、カナダ、日本の原酒をブレンドして、2022年1月7日から287本限定のボトルキープ専用で販売されました。
非常に好評であったことから、ボトルキープだけではなく、より多くのゲストが気軽に体験できるようにと、今回のペアリングコースが企画されたのです。
本来はもっと早く開催する予定でしたが、コロナ禍のために叶いませんでした。半年近くかけてじっくりと企画を練り、満を持して開始されることになったといえます。
4人の叡智が結集したコース
今回のコースでは、マンダリン オリエンタル 東京のオリジナルウイスキーはもちろん、「センス」のシグネチャーディッシュである、焼物の盛り合わせや佛跳牆を味わえるのも嬉しいところです。
料理長の鈴木氏と中間氏、シェフソムリエの野坂氏、ヘッドバーテンダーの小田氏と、マンダリン オリエンタル 東京が誇る4人の叡智が結集した、広東料理とウイスキーのペアリングは、この夏に最も体験したいコースであることに間違いありません。