連続在職記録歴代1位の日に健康不安説を高める真意を読む
フーテン老人世直し録(531)
葉月某日
総理の連続在職日数が歴代1位となった8月24日の朝、安倍総理は先週に続いて再び慶応大学病院で「検査」を受けた。官邸に戻った時のぶら下がりでは「体調管理に万全を期して、これから仕事に頑張りたい」と述べるだけで、自身の体調について何も語ることはなかった。
そのためメディアには様々な憶測が流れ、安倍総理が「臨時代理」に後事を託して入院する説。病気を理由に退陣する説。このまま続投する説などが取りざたされている。そして誰がポスト安倍なのかを巡って一通りの解説が行われる。
しかしフーテンは前のブログにも書いたが、政治家の病気については眉に唾して見る癖がある。今回の「検査」についても素直に受け止めることが出来ない。余りにも白昼堂々とした「検査」のやり方だからだ。
政治家にとって健康問題は最大の機密事項である。政治家には必ず政敵がいる。その敵に健康状態を知られることがあってはならない。知られればそれは政治的死を意味する。従って「検査」を受けることも機密事項であるはずだ。
堂々と病院に行かなくとも「検査」を受けることは可能である。「治療」だって秘かにやれる方法はある。健康に異常がないと周囲に思わせないと、政治家はその力を失うので、よほどひどくない限り常に健康を装うのが政治家の仕事だ。
従って政治家が病院に行く時は、相当に悪い状態であるか、あるいは知られても構わない程度の軽いかのどちらかだ。そしてもう一つ「仮病」もある。政局が煮詰まった時にキーマンが「仮病」を使って入院することがある。病気と思わせて周囲の反応を見る。誰が敵で誰が味方かをチェックするのが目的だ。
そうした政治の世界を見てきた経験からすると、今回の「検査」は堂々とし過ぎている。事前にメディアに情報が流され、待ち受けるメディアの前で安倍総理は病院に行き、「体調管理のため」とだけ言って詳細を語らず、様々な憶測が生まれるように仕向けている。
勿論、総理の健康不安は総理の求心力を失わせるが、それ以上に総理を痛撃する事態が起ころうとしている時、健康不安を国民に認識させておけば、第一次政権の時のように退陣を余儀なくされても「ぶざまな退陣」と言われずに済む。また希望的観測だが同情論が巻き起こり、下がり続ける支持率に歯止めがかかる可能性もある。
そんなことを考えてしまうのは、8月25日から12月18日まで55回にわたり河井夫妻の公職選挙法違反事件の裁判が行われるからだ。これは安倍政権と検察との熾烈な戦いになることが予想される。
2日に1度の割で行われる裁判で、検察は河井夫妻からカネを受け取った地元議員100人を証人に呼ぶ。その証言次第では安倍総理の秘書が河井案里候補の選挙に関与していた実態が法廷で明らかにされる可能性がある。自民党本部からの1億5千万円の資金供与について安倍総理との関係がちらつくかもしれない。
また8月26日からはIR汚職事件で秋元司衆議院議員に贈賄した「500ドットコム」関係者の裁判が始まる。こちらの事件では贈賄側の被告に裁判で嘘の証言をするよう買収を持ちかけたとして秋元被告が再逮捕され、それに協力した支援者らも逮捕された。逮捕された支援者は「桜を見る会」に招待され、安倍昭恵夫人と一緒に写真に写っている。
さらに今月中に警視庁は詐欺容疑で「ジャパンライフ」会長の山口隆祥会長らを立件するという。山口会長は「桜を見る会」に招待されたことを宣伝に使い、全国の7千人を騙して約2千億円を集めた。この事件摘発は「桜を見る会」を浮上させる。
そして「桜を見る会」の前夜に開かれた「夕食会」を巡り、元裁判官や弁護士、法学者ら662人が今年5月に公職選挙法と政治資金規正法違反で安倍総理と後援会幹部の計3人を刑事告発した。こうした状況を見ると、安倍総理にとって今後はストレスフルな毎日になる。そうした中で白昼堂々の「検査」通院が行われたのだ。
健康問題で相談できるのは側近中の側近しかいない。安倍総理が今回の「検査」を相談した相手は、今井尚哉総理秘書官兼補佐官と麻生太郎副総理兼財務大臣、それに甘利明税調会長の3人だけだと言われている。この3人は安倍総理の健康不安で同情が生まれるように役割分担を行った。
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