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ネットのモラルをリアルの場に近づけないと、ネットは成長できない〜NewsPicksの規約変更に思う

境治コピーライター/メディアコンサルタント
そろそろ羽化しましょう、というメッセージを込めたつもりの画像(写真:アフロ)

どんな場でも「批判」はありだが、「侮辱」は許されない

この5月21日にNewsPicksというサービスが規約を変更した。

→NewsPicks代表・梅田氏のアナウンス

小さなことのようで、ネットでのコミュニティのあり方、プラットフォームとメディアの今後について意外に大きな出来事だと受けとめたので、これについて論考しておきたい。実は、私が先週あえて引き起こした抗議と議論も関わる話だから、というのもある。

その私が巻き起こした議論を、この話題に初めて接する方にすべて理解してもらうには、関連記事を5つくらい読んでもらって小一時間かけてもらうことになる。それは大変なので、ここでは流れを知らない人にもわかる書き方をしようと思う。(いちおう最後に参考URLは記しておくので詳細を知りたい方はそちらをどうぞ)

概要を箇条書きにしてみる。

1:NewsPicksは、経済を中心に記事をピックアップしてユーザーがコメントしあうサービスである

2:誰でも自由にコメントが書けるため、時に誹謗中傷コメントが並ぶこともある

3:私は、自分の記事に対するひとりのユーザーの度を超えたコメントをとりあげ、彼の侮辱とNewsPicksに対して抗議した

4:そこに多様な人が賛否両論の意見をブログなどに書いた

5:NewsPicksが規約変更を発表した。その中には「誹謗中傷にあたるコメントに対し通報があれば削除を行う」旨が入っていた

6:私はNewsPicksの素早い対処と理念ある対応に深謝し、抗議を取り下げた

ポイントは、抗議したらすみやかに規約変更で対処してくれた、という点だ。私の抗議が効いた、というより、もともと規約変更を準備していたようだが。

NewsPicksは非常に不思議なサービスで、熱いファンもいるが、少し使って離れてしまう人もいる。そのポイントがコメントにある。積極的にコメントしていると、他のコメントを読む楽しさも含めてハマるようだ。一方、そんなにコメントを自分ではしないし、荒れたコメントに接してしまった人は引いてしまう。

私もアカウントを持っているが、時々のぞくと、独特のコメント文化に腰が引けていた。とくに自分の記事が知らない間にピックされて言いたい放題に言われたり間違った論評で逆に盛り上がっていることが何度もあり、不愉快になりあまり使わなくなった。コメントに対して返信ができない仕組みで、反論できず、言われっぱなしになってしまう。今回抗議に至ったのも、久しぶりに開いたら度を超えた侮辱コメントがあったからだ。

こう書くと、「文章を公開したら、批判は受け入れるべきだ」と反論する人も多いが、私も「批判」なら受けとめる。だが「批判」と「侮辱」はまったく違うのに、そのことをあまり認識していない人が多いように思う。違いは明確で、「侮辱」とは元の文意を離れて個人に対し、公然といわれのない暴言を吐くことだ。そして「侮辱」は犯罪にもなりうる。親告してもし検察官が認めたら刑事罰を受ける。もちろん、ひと言ふた言では認めてもらえないだろうが。

「侮辱」の典型的な事例が、熊本地震の際タレントたちに起こった「不謹慎狩り」だ。被災した女優のブログに悲劇自慢などと書く行為は、卑劣であり許されるはずはない。そういうことを簡単に書くのも、侮辱の重大さが認識されていない結果ではないか。

ネットが自由な言論の場なのはまちがいないし他者を批判したっていいわけだが、侮辱はしてはならない。それがわかっていないとまともな議論はできない。

NewsPicksという場は誹謗中傷や侮辱を受けても対抗しようがなかったのを、運営側として「削除もある」ように規約を変更した。それは、誹謗中傷や侮辱はやめましょう、という運営側のメッセージでもあるのだろう。

「ネットで」を強調した言い方に感じた奇妙さ

私の抗議に端を発した様々な意見の中に、ブログ界のパイオニア・徳力基彦氏がYahoo!に書いたものもあった。

ネットで批判されるのが嫌ならネットで情報発信なんかやめた方が良い?

手厳しい内容だが、徳力氏はお友達でもあるので、あえて苦言を呈する友情なのだと受けとめている。それに「NewsPicksはいま見直し中なんだから見守ってやんなさいよ」と諭したいのだろう。徳力氏はこれまでも様々な議論を仲裁者としておさめてきたネット界の名奉行だ。その手腕と人徳はいつも感心している。徳力氏の意図は、重々承りたい。

だが一方で、上述の通り私は「批判が嫌」とは言ってなくて「侮辱に抗議する」と言っていた点はあらためてはっきりしておきたい。それなのに「批判」という言葉でざっくり括られちゃうと話がズレちゃうんだけどなー。と、いうことは、次に会った時にでも言っておこう。

だがそれとは別に、奇妙に感じたことがある。

徳力氏は”ネットでの情報発信とはこういうものだ”、と「ネットでは」と説いている。ネットとはそんなに特別な場だろうか。私の感覚は、NewsPicksがネットだからうんぬんではなく、ネットであれリアルな場であれ言っていいことと悪いことがある、というものだ。リアルではダメだがネットならいい、ということも、その逆もないのではないか。だが徳力氏は「ネットで」をタイトルの中で二回も使って強調している。いやゴメン、レトリックで二回使っているんだよね。でも、強調しているのはまちがいないように思える。

これに近いことは、この議論に対する反応としてあちこちで見受けられた。「ネットがわかってないおっさんだ」「ネットはそういうものなのに」そうなの?ネットって特別なの?

ネットが次のステップに進むには・・・

NewsPicksは規約変更で、コメント削除の要請ができるようになった。これは、運営側が次のステップに進もうと意志を明確にした、とも言えると思う。ユーザーがどんな発言をするかは自由にしておくべきだというこれまでの考えを、ユーザー数がこれだけ増えて見直すべきだとの判断だ。コミュニティ運営は、運営側がルールを明示してそれに従うよう促す必要がある。そのためには、コメントの削除もありうる。そう考え方をシフトしたのだ。

「ネットは自由だから」「ネットは何でもありだから」そう言い続けてネットは使われてきたのかもしれない。ことさらにそう言うことで、ネットでの活発な言論が発展してきたのだろうと思う。だがその段階からそろそろ次に進むべきではないだろうか。

これまでのWEBの常識感覚では、まっとうな言論の場にならないのではないか。あるいは大きなお金がコンテンツやメディアに払われず行き詰まるのではないか。私はそう感じている。

そこを脱するためには、むしろネットを現実の側に近づけなければならないと私は考える。現実のモラル、現実の経済感覚、現実の言論空間。ネットはそれらに近づくべきなのだ。そうしないと、いつまでも現実の一段下の世界から抜け出せない。Netflixのように旧メディアと同等かそれ以上の予算とクオリティでドラマを作るような、大胆で大きく動く世界観を築かねばならない。

「クソとかクズとかすぐ言う文化」も考え直しては?

私はネットでの言論活動の場に、やや遅れて参加したほうだ。そして実は、ネットでの独特の言葉の使い方にはずっと慣れないままでいた。遊びとしての乱暴な言葉遣いや、芸風としての攻撃的なものの言い方があるのはわかる。攻撃的な芸風をうまく確立した人の発言を楽しんでもいる。

だが、やたらと「クソ」とか「クズ」とかことあるごとに平気で言うのは、正直言ってかなり奇妙だと思う。立派な企業の立派な立場の人物が「それはクソだね」とか「クズコンテンツはいらない」とかTwitterで書いているのを見ると、どうなんだろうと思う。うっかり「こいつクソだわ!」とTwitterで書いた相手に、リアルな場でしかも仕事絡みで会っちゃった時、「ああ、あなたクソでしたね」って言うの?

ポイントは、リアルでやってること、言ってることにネットでの振る舞いを近づけることではないか。リアルで使わない言い方は、ネットでもやめたほうがいいと私は思う。いまや、ごくごく普通の人びとが、つまりいわゆるレイトマジョリティが、ネットに参加してきている。いきなりクソだクズだのの洪水に遭遇したら、「ああこれがあの炎上とか言う恐ろしい空間なのね」と腰が引けるかもしれない。それはその分だけ、文化的経済的価値が高まらないということだ。そろそろ考え直すべきだと私は思うのだがどうだろうか。

ところで、この議論の件で、今晩(5月24日夜)19時から、東京FMの『タイムライン』という番組に呼ばれて20分ほど出演することになった。キャスターは古谷経衡氏。彼もこのYahoo!ニュースをはじめあちこちで言論活動をしているので、興味を持ってもらえたのかもしれない。この番組は放送内容を音声アーカイブ化するので、放送後でも聞いてもらうといいと思う。

※以下は参考URL

私の一連のブログ

http://sakaiosamu.com/2016/0520113020/

http://sakaiosamu.com/2016/0520113020/

http://sakaiosamu.com/2016/0522101816/

私が抗議した相手のブログ

http://mikamika8375.hatenablog.com/entry/2016/05/18/093652

http://mikamika8375.hatenablog.com/entry/2016/05/21/051636

Yahoo!ニュース上の常見陽平氏と徳力基彦氏の記事

http://bylines.news.yahoo.co.jp/tsunemiyohei/20160518-00057792/

http://bylines.news.yahoo.co.jp/tokurikimotohiko/20160519-00057837/

その他、検索するといろいろ出てくると思う

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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