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つれない北朝鮮、粘る韓国…凍り付く南北関係、改善のカギは「名分」

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
2018年9月、北朝鮮・白頭山天池で手を取り合う南北首脳。合同取材団撮影。

地球温暖化で永久凍土も溶ける中、南北関係は凍り付いたままの状態が続いている。度重なる韓国側のアプローチにも、北朝鮮は頑なな態度を崩さずにいる。反転の可能性はあるのか。情勢をまとめた。

●苦悩する統一部長官

「私たちは開けた海を航海するのではなく、分厚い氷を割って航路を開いていく砕氷船のような態度と姿勢で進まなければなりません」

「南北が今できることを中心に変化を作り出せるならば、回復した信頼を土台に、より大きな対話と交渉の場を開きます」

今月7日、統一部が主催した「2020韓半島(朝鮮半島)国際平和フォーラム」の冒頭で、李仁栄(イ・イニョン)統一部長官が行ったスピーチの一部だ。

この内容は、現在の南北関係を過不足なく表現している。

一つ目の文章にある「砕氷船」という言葉からは、凍り付いた朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)と韓国の関係が透けて見える。

二つ目の文章の「回復した信頼」からは、基本的な信頼関係が壊れている点が浮かび上がると同時に、「今できること」の目的が「交渉の場を開くこと」であるのが分かる。

では韓国は、何をしているのか?

●物々交換、個別観光...相次ぐ提案

6月16日、北朝鮮は同国内の開城(ケソン)市に位置する「南北共同連絡事務所」を爆破した。

市民団体による北朝鮮に向けたビラ散布を制止せず、米国との協調姿勢を崩さない韓国に対し、連日のように北朝鮮が非難を繰り返す中での出来事だった。この実力行使を受け、南北関係をつかさどる統一部の金錬鉄(キム・ヨンチョル)長官は辞任した。

そして7月27日に与党重鎮の一人・李仁栄議員が後任に就いた。李長官は「変化を待ってばかりいる態度では、南北関係の未来を開くことはできない」という信念の下、「決裁できるものはすべて決裁する」という姿勢を維持し続けてきた。

いくつか見てみよう。韓国産の砂糖と、北朝鮮産の酒を交換する「物々交換」のアイデアが出た。これは、まとまった現金のやり取りを禁止する国連安保理による北朝鮮への経済制裁を迂回するやり方として注目された。

だが、北朝鮮側の候補企業が制裁リストに挙がっている企業であることが分かり、李長官は国会で厳しく追及された。同氏は「知っていたからこそ決裁しなかった」と弁明した。

次に「個別観光」のアイデアがあった。これは南北関係の膠着が明らかになっていた昨年の下半期からずっと提案されてきたが、新型コロナウイルスの拡散という伏兵に遭い、立ち消えとなった。北朝鮮は1月後半から国境をすべて閉じている。

「人道支援」も動かない。統一部は昨年6月にWFP(世界食糧計画)を通じ、北朝鮮のコメ5万トンを支援することを決め、その準備金としてWFPに約1177万ドル(約11億8000万円)を送金してある状態だ。

だが当時、米韓軍事訓練を理由に北朝鮮側は支援の申し出を拒否し、今なおその姿勢を崩していない。統一部は最近、「年内に支援できるようにWFPを通じ協議を続けるよう努力している」とし、うまくいかない場合には準備金を回収する旨を明かした。

●「北朝鮮は非常事態」

一方、南北関係改善における「伝家の宝刀」、つまり最もハードルの低い事業である南北離散家族再会事業も暗礁に乗り上げている。

これに関しては、新型コロナウイルス拡散を避けるためオンラインでの再会事業が準備されていた。

韓国メディアによると、韓国内の施設の改修は既に終わっており、今年4月にはモニターやビデオカメラなど北朝鮮側に送る機材に対し、制裁から除外するための承認も受けた状態だという。

だが、北朝鮮側はこれに呼応せず、機材は今も北朝鮮への玄関口である韓国の都羅山物流センターに保管されたままだという。韓国側の関係者によると「北朝鮮側が受け入れる場合、6週間でオンライン再会事業ができる」とのことだ。

なぜ、北朝鮮側はこのような頑なな態度を取り続けているのか。

11月初頭に控えた米国大統領選挙を睨んでいるという分析が一般的であるが、「北朝鮮には受け入れる余裕がない」と主張する専門家もいる。

朝鮮半島情勢に詳しい、韓国の国策シンクタンク『統一研究院』の趙漢凡(チョ・ハンボム)選任研究員は10日、筆者の電話インタビューに対し「北朝鮮はコロナと水害で非常事態だ。自尊心から韓国の支援を受け入れないのではなく、厳しい現実の中でそれを受け入れる余裕がない」と見立てた。

趙研究員はまた、「北朝鮮内部ではたくさんの人命被害が出ているという情報がある。水害復旧のために平壌から党員12000人を(東部の)咸鏡南道に派遣すること自体が、政府が動員できる人員が限られている厳しい事情を表している。動員されるべき軍はどこにいったのか」と指摘した。

●関係を維持しながら適切な「名分」を

このように、韓国の専門家の間では北朝鮮の現状を「国連経済制裁、コロナ、水害の三重苦」と見なす向きが強い。

前出の趙研究員はこう続ける。「このままいく場合、10月10日の党創建75周年の際にも意味のある総括ができないだろう。既に『年末までに100%被害を復旧させろ』と金正恩氏が強調したように、来年1月の党大会に焦点を合わせている」。

そして、「だからこそ、やり方が重要だ」と主張した。「今のように開けっぴろげに北朝鮮に提案するのではなく、水面下で接触しながら適切な名分を北朝鮮側に提供すべきだ」という意見だ。

つまり、完全に途絶えている南北の「表のチャンネル」を復元しようと支援を呼びかけるのではなく、「実を取れ」というアドバイスだ。

以前の記事で触れたように韓国では今、朴智元(パク・チウォン)国家情報院長、徐薫(ソ・フン)国家安保室長という、北朝鮮との長い交渉キャリアと幅広い人脈を持つベテラン勢が北朝鮮政策の前面に立っている。

来週には『平壌共同宣言』から2周年を迎えるが、南北関係の膠着が長引く中、韓国の世論は金正恩氏に対し圧倒的に否定的となり、文在寅政権が掲げてきた「包容政策」にも冷ややかな視線を投げかける市民が増えている。

だからこそ、韓国政府には「情勢の管理」が強く求められる次第だ。この点から、度重なるラブコールにも意味はある。我慢の時間は続く。

【参考記事】

「北朝鮮との関係改善に特化」…韓国で重要3ポストが刷新

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20200730-00190818/

約75%が「金正恩政権に反感」、文政権の北朝鮮政策への反対も50%超…韓国最新統一世論調査

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20200817-00193710/

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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