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約75%が「金正恩政権に反感」、文政権の北朝鮮政策への反対も50%超…韓国最新統一世論調査

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
2018年9月、平壌・玉流館で食事する際の南北首脳。合同取材団提供。

韓国の公営放送『KBS』が8月15日の「光復節」に合わせ、毎年恒例の統一意識調査の結果を発表した。結果は、金正恩氏への反感が露わになる一方、北朝鮮核問題の解決を難しいと感じる層は増え続けている。

●調査概要

韓国KBSは日本のNHKにあたる公営放送局だ。韓国社会の統一意識について1999年から調査を始め、2010年以降はほぼ毎年その結果を発表している。

今回、回答したのは「KBS国民パネル」と呼ばれる市民たち1000人。彼らは普段からKBSが実施する各種世論調査に参加し、謝礼として現金や番組観覧権などを受け取っている。

2020年の調査結果は8月16日のニュースで発表された。実際の設問は24に及ぶが、8月16日にKBSのホームページで公開された要約版には結果概要が示されているだけだ。例年10月頃に完全版の報告書が出るが、まずは要約版の内容から紹介する。

なお、調査は「KBS国民パネル」によるインターネットでのアンケートとなっており、昨年までの電話調査とは方法が異なる。このためKBS側は「直接的に数値変化を比較するのは多少の限界がある」としつつも、「変化の推移を推測するには依然として有用」としている。

●結果総評

何よりも目についたのは、韓国内に広がる「失望感」だった。北朝鮮の金正恩委員長に対する反感は74.5%という高水準だった。11年ぶりかつ2度の南北首脳会談と史上初の米朝首脳会談があった2018年に35.4%だったことを考えると、わずか2年で倍増したことになる。

背景には、朝鮮半島情勢の行き詰まりがある。2018年に「朝鮮半島の非核化」と「米朝平和協定」の同時ゴールで合意したものの、その後2019年2月にベトナム・ハノイで行われた第二次米朝首脳会談が決裂。その後1年半近く進展は見られない。

また、今年6月にはやはり18年4月の南北首脳会談で採択された『板門店宣言』最大の成果の一つだった「南北共同連絡事務所」(北朝鮮・開城市)を北朝鮮側が一方的に爆破した。単なる膠着状態にはとどまらない、実力行使にまで及んだ情勢悪化の影響が強く出ているものと考えられる。

これに伴い「平和共存・共同繁栄」を掲げ、北朝鮮との対話を重視してきた文在寅大統領の北朝鮮政策への支持も厳しいものとなった。2018年には賛成が76.6%だったが、今年は48.5%と半数を割った。

一方で、統一意識については国策シンクタンク『統一研究院』などと似たような傾向が見て取れた。ひと言で「関心はあるが、韓国側が大きな負担をしてまで無理に進めることはない」というものだ。

統一への課題は「核問題」がトップに出る一方、「20年以内に統一する」とした回答者は38.2%と、2019年の55.9%より大幅に減少した。また、「統一の助けになる国」についても「なし」が59.0%と、米国29.8%を遙かに上回った。ここからも手詰まり感を読み取れる。「日本」と答えたのは0.7%に過ぎなかった。

開城工業団地、金剛山観光、食糧支援など、北朝鮮との交流拡大については「条件付き」という慎重な立場がいずれも半数を超えた。「北朝鮮核問題と南北経済協力を連携すべきではない」という回答も42.2%にのぼった。

さらに、北朝鮮の非核化と平和定着に向かう上で「北朝鮮制裁」と「南北協力」のどちらが必要かという質問への答は半々に割れた。

文在寅政権にとっては、北朝鮮と無条件に交流を再開する前に、国内を説得する作業が必要になるという現実を突きつけられた形だ。

また、興味深い動きとして、南北首脳が史上はじめて会談を行った2000年6月の「6・15南北首脳会談」について、「成果がなかった」と見る回答が60.1%にのぼった点がある。こうした見解は現在の韓国社会がいかに北朝鮮との対話の意義を見出せていないかの現れといえる。

付言すると、このような北朝鮮への不信感は、統一意識の薄れと共に、今後の韓国の統一政策における変化をうながしていくだろう。

下記記事にあるように「同じ民族だから統一しよう」という意識が薄れる中、「統一を前提とした共存」ではなく、「リスク管理と南北の違いを認めた隣国としての関係」にシフトする可能性が高い。

[参考記事]

かすむ民族主義、北朝鮮は「信用ならない共存対象」…韓国市民のリアルな統一観

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20200629-00185704/

●KBSによる調査結果(要約版)一覧

KBS調査「2020年国民統一意識調査」(要約版)

(1)北朝鮮の金正恩政権と集権勢力について、どう考えますか?

・とても好感を覚える:0.5%

・だいたい好感を覚える方だ:3.6%

・まあまあだ(普通だ):21.4%

・だいたい反感を覚える方だ:38.4%

・とても反感を覚える方だ:36.2%

北朝鮮政権についての好感度。青系の色が好感で、橙系が反感だ。KBS資料よりキャプチャ。
北朝鮮政権についての好感度。青系の色が好感で、橙系が反感だ。KBS資料よりキャプチャ。

好感を覚えると答えた回答者はわずか4.1%なのに対し、反感を覚える回答者は74.5%にのぼった。なお、2019年には好感11.9%、反感51.6%であり、南北対話と米朝対話が進んだ2018年には好感20.6%、反感35.4%だった。金正恩氏への反感が年々高まっているのが分かる。

(2)北朝鮮は韓国にとってどんな相手だと考えますか?

・支援対象だ:6.0%

・協力対象だ:19.4%

・競争対象だ:1.6%

・警戒対象だ:43.7%

・敵対対象だ:29.3%

支援対象と協力対象を合わせると25.4%なのに対し、警戒対象と敵対対象を合わせると73.0%にのぼる。警戒対象は2018年には33.7%だったが、19年(34.1%)20年(43.7%)と増加を続けている。さらに敵対対象と見る回答者も2018年の11.3%から大きく増えた。

(3)わが国(ウリナラ)の統一問題にどの程度関心がありますか?

・とても関心がある:17.1%

・だいたい関心がある方だ:52.3%

・別に関心がない方だ:不明

・まったく関心がない:不明

KBSが16日に発表した資料では、「関心がある」とした回答者の数値しか明かされていない。2018年は75.9%、2019年は73.0%、2020年は69.4%というように統一問題への関心は下降を続けている。

(4)統一に対しどう考えますか?

・必ず統一されるべきだ:15.4%

・大きな負担さえなければ統一される方がよい:44.2%

・相当期間は今の共存状態を維持すべきだ:24.3%

・統一しない方がよい:16.2%

統一に対する考え方。左から「必ず」「負担がなければ」「相当期間現状維持」「統一しない方がよい」の順。KBS資料よりキャプチャ。
統一に対する考え方。左から「必ず」「負担がなければ」「相当期間現状維持」「統一しない方がよい」の順。KBS資料よりキャプチャ。

やはり年々統一に肯定的評価をする回答者が減っている。2018年は66.0%、2019年は63.5%、2020年は59.6%だった。

(5)統一がいつ実現されると見ますか?

・5年以内:2.9%

・6〜10年以内:11.5%

・11〜20年以内:23.7%

・21〜30年以内:19.9%

・30年以降:19.1%

・不可能だ:22.8%

KBSによると「20年以内に統一する」とした回答者の割合が38.2%と、2019年の55.9%より減少した。

(6)統一の過程でもっとも憂慮される点は何だと考えますか?

・失業と犯罪増加など社会的混乱:不明

・北朝鮮住民の大量の韓国への移住:不明

・韓国住民の莫大な統一費用の負担:50.8%

・政治、軍事的な混乱:21.9%

・国際関係の混線:不明

上位2つの項目以外の正確な数値が公開されていないが、KBSでは過去3年間の調査で、「韓国住民の莫大な統一費用の負担」を挙げた回答者が常に最も多かったとした。2018年は47.9%、2020年は50.8%だった。

(7)統一のために韓国で優先的に推進すべきことは何だと考えますか?2つだけ選んでください。

・北朝鮮の核問題の解決:43.8%

・軍事的信頼の構築:42.1%

・南北の経済交流協力:29.6%

・文化交流および人的交流:25.3%

・離散家族の往来および故郷訪問:19.4%

・韓国の経済成長:不明

・南北首脳会談:不明

・韓国内部の国論統一:不明

やはり上位回答以外の数値は公開されていない。KBSは2019年と比較し「北朝鮮の核問題の解決(19年61.5%)」と「南北の経済交流協力(19年36.7%)」で大きな減少があったとした。一方で「文化交流および人的交流」は19年19.1%から上昇した。

(8)朝鮮半島の統一にもっとも助けになる国はどこだと考えますか?

・米国:29.8%

・中国:8.3%

・日本:0.7%

・ロシア:1.5%

・なし:59.0%

・その他(   ):0.7%

「なし」と答えた回答者は2019年の38.4%から大きく増加した。一方で「米国」と答えた回答者も2019年の49.0%から2020年には29.8%と大幅下落した。「南北関係が膠着状態に陥る中、米国に対する認識が低下した」とKBSは見立てている。

(9)もし南北統一にかかる費用を賄うために税金形式で負担するとする場合、年間所得のどの程度が適当だと考えますか?

・年間所得の1%未満:26.5%

・年間所得の1〜5%未満:29.3%

・年間所得の5〜10%未満:不明

・年間所得の10%以上:不明

・個人負担はできない:37.0%

やはり不明な部分があった。それでも1%までなら負担するという層が半数を超える(55.8%)ということが分かる。2019年は73.8%がいずれかの金額で負担する意志を見せたにもかかわらず、2020年は63.0%と減少した。

(10)2008年以降、金剛山観光が中断されている。金剛山観光事業はどうすべきだと考えますか?

・即時再開すべき:13.5%

・条件付きで再開すべき:60.6%

・継続して中断すべき:25.9%

(11)2016年2月、開城工業団地が閉鎖された。今後、開城工団事業はどうすべきだと考えますか?

・全面的に再開するべき:19.5%

・条件付きで再開するべき:51.0%

・現在の平和状態を維持するべき:29.5%

(12)北朝鮮に対する食糧支援は長い間中断されてきた。今後、北朝鮮への食糧支援をどうすべきだと考えますか?

・大幅に拡大すべき:5.6%

・条件付きで拡大すべき:52.5%

・以前のように中断すべき:41.9%

(13)天安艦事件(2010年3月26日)以降、韓国政府は南北交流協力に関連する人的・物的交流を中断する5.24措置を採った。今後、5.24措置をどうすべきだと考えますか?

・5.24措置を維持すべき:52.7%

・5.24措置を緩和すべき:38.1%

・5.24措置を解除すべき:9.3%

(10)から(12)までを見る場合、個別の案件においては北朝鮮との経済協力や人道支援を拡大する方向で考える回答者が多かった。とはいえ「条件付きで再開(拡大)」と答えた層は年々減少している。

一方で、韓国政府は5.24措置の実施から10年を迎えた今年5月に「実効性をはなはだしく喪失した。南北交流協力を推進する上でこれ以上障害にならないと見ている」と明かしている。事実上の破棄だ。

しかし同措置を「維持すべき」という回答が2018年には37.7%、2019年には41.6%だったが、2020年には52.7%と大きく増加している。(10)から(12)の回答と矛盾している部分があるが、これは北朝鮮側が天安艦沈没事件を認めず、遺憾表明や謝罪を行っていない点などを含め、北朝鮮への全体的な不信感が高まっている表れと読める。

(14)2018年6月の初めての米朝首脳会談以降、2019年2月にベトナム・ハノイで第二次米朝首脳会談が決裂し、同じ年の6月には板門店で米朝首脳の会合がありました。今後、北朝鮮核問題はどうなると考えますか?

・円満に解決するだろう:2.0%

・簡単ではないが解決するだろう:29.0%

・当分解決が難しいだろう:65.4%

・武力で解決されるだろう:3.7%

解決が難しいと考える層が多いことが分かる。「当分解決が難しい」「武力で解決されるだろう」を選んだ否定的な展望を持つ回答者は69.1%にのぼり、2018年の44.7%、2019年の60.3%から増加を続けている。

(15)北朝鮮核問題の正しい解決方法は何だと考えますか?

・6者会談を通じ交渉で解決すべき:不明

・中国が主導的に解決すべき:不明

・米朝対話で解決すべき:不明

・南北対話で解決すべき:30.0%

・北朝鮮の核施設に対する武力行使で解決すべき:不明

・国際社会の制裁を通じ解決すべき:29.2%

他の数値が公開されていないので簡単に判断できないが、「南北対話で解決すべき」は2018年の29.9%。2019年の27.6%から横ばいとなっている。「国際社会の制裁を通じ解決すべき」という回答は2018年の19.7%、2019年の24.7%よりも増えている。

(16)今後、北朝鮮核問題と南北経済協力を連係すべきだと考えますか?

・小規模な経済協力も連係させるべき:37.4%

・大規模な経済協力だけ連係させるべき:20.4%

・北朝鮮核問題と連係させてはいけない:42.2%

「北朝鮮核問題と連係させてはいけない」という回答が最も多かった。同様の回答は2018年に29.7%、2019年には39.2%と年々増えている。南北経済協力は北朝鮮核問題とできるだけ分ける考えが強いことが分かる。

(17)今年は6・15南北首脳会談から20周年となる年です。あなたはその間6・15南北首脳会談の成果がどの程度だと考えますか?

・とても成果があった:3.9%

・ある程度成果があった:35.9%

・別に成果がなかった:41.0%

・まったく成果がなかった:19.1%

2018年には「別に成果がなかった」「まったく成果がなかった」との回答が合わせて46.6%に過ぎなかったが、2019年の55.8%を経て2020年には60.1%まで上昇した。

だが同会談の評価は揺るがない。南北首脳が分断から55年目で初めて同じテーブルに着いたもので、南北対話路線を決定付けたその歴史的成果は大きい。否定的な見方の広がりはやはり、2018年以降、朝鮮半島の平和醸成プロセスが停止している点が影響していると考えられる。

(18)2000年から2018年まで5度の南北首脳会談が開催されました。今後、北朝鮮核問題と南北協力などの懸案解決のために南北首脳会談が開催される必要があると考えますか?

・かならず開催されるべきだ:26.3%

・ある程度開催される必要がある:45.4%

・別に開催される必要がない:不明

・まったく開催される必要がない:不明

「かならず開催されるべきだ」「ある程度開催される必要がある」を合わせた数値は、2019年86.1%、2019年78.7%、2020年71.7%と年々下降している。

(19)コロナ19(新型コロナウイルス感染症)以降、国際情勢の変化が韓半島(朝鮮半島)の平和に影響を与えると見ますか?

・肯定的な影響を与えるだろう:27.0%

・否定的な影響を与えるだろう:32.5%

・影響がないだろう:40.5%

(20)現在まで北朝鮮は6度の核実験を行い、国連安全保障理事会は北朝鮮に対する強力な制裁を施行中です。北朝鮮の非核化と平和定着のために次のうちどちらがより必要だと見ますか?

・国連安保理など国際共調を通じた北朝鮮制裁:52.7%

・南北協力を通じた北朝鮮核問題解決環境の醸成:47.3%

二つの見方が拮抗していることが分かる。

(21)南北関係改善のための民間の次元での交流・協力が重要だという立場についてどう考えますか?

・とても共感する:15.3%

・だいたい共感する:41.5%

・別に共感しない:28.9%

・まったく共感しない:14.3%

「共感する」とした回答が56.8%と、かろうじて半数を超えた。

(22)文在寅政府の北朝鮮政策に対してどう考えますか?

・積極的に賛成する:10.9%

・だいたい賛成する:37.6%

・だいたい反対する:28.4%

・積極的に反対する:23.1%

文在寅政権の北朝鮮政策へのスタンス。青色系が「賛成」で、橙系が「反対」だ。KBS資料よりキャプチャ。
文在寅政権の北朝鮮政策へのスタンス。青色系が「賛成」で、橙系が「反対」だ。KBS資料よりキャプチャ。

表を見ると分かるように、「積極的に賛成する」(濃紺)とした回答者が2018年から減少を続けている。同時に「だいたい反対する」(薄い橙)、「積極的に反対する」(濃い橙)回答者は増加を続けている。

これは「平和共存」を掲げ、南北対話、米朝対話を盛んに推進した文在寅政権の北朝鮮政策が、2019年になって以降、これといった成果を上げられていないことが影響していると考えられる。

(23)あなたは現在の安全保障状況をどう感じますか?

・とても不安だ:17.3%

・若干不安だ:46.8%

・別に不安ではない:不明

・まったく不安ではない:不明

詳しい数値は公開されていないが、不安に思う層が64.1%と多数を占めていることが分かった。中国、ロシア、日本、米国という「4強」国と接し、核兵器を完成させた北朝鮮と直接的な利害関係にある環境にストレスを感じている様子が分かる。

(24)あなたの親戚・姻戚の中に離散家族や北朝鮮出身の方がいますか?

・いる:不明

・いない:不明

(了)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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