大戦後一度も戦争に勝てないアメリカに守ってもらおうとする不思議
フーテン老人世直し録(138)
弥生某日
クリント・イーストウッド監督のアメリカ映画「アメリカン・スナイパー」を見た。アメリカ海軍の特殊部隊ネイビー・シールズに所属した伝説の狙撃手クリス・カイルを描いた戦争映画である。彼はイラク戦争に4度従軍し160名以上の敵を射ち殺した。
映画はこれまでの戦争映画で最高の興行成績を上げ、アメリカでは保守派とリベラル派の間で論争を巻き起こしている。狙撃手を英雄扱いする事に批判的なコメントをした者に保守派から激しいバッシングが浴びせられているのである。
確かに映画は愛国的な縦糸と反戦的な横糸で織りなされており、戦争支持者も批判者もどちらもが自分の考えに沿ったメッセージを受け取ることが出来る。保守派は「戦争を支持する愛国的な傑作」と評価し、リベラル派は「戦争で壊れていく人間を描いた」と評価する。
イーストウッド自身は論争になっている事を批判し、「戦場では様々な事が起こる事を描いただけで政治的価値観は反映していない」と述べているが、フーテンはこの映画から戦争以前の問題としてアメリカ的価値観を冷ややかに見つめるイーストウッドの視線を感じる。
そしてフーテンはそのアメリカ的価値感が世界を混沌に陥れ、冷戦後の「新世界秩序」を作れなくする最大要因ではないかと考えている。イーストウッドが冷ややかに見るアメリカ的価値観とは何か。それは世界を神と悪魔の二つの領域に分け、悪魔を絶滅させる事が神の教えだとする宗教的価値観である。
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