『オペラ座の怪人』や『KPOP』相次ぐ終演。コロナ後のNYブロードウェイの「今」
35年続いた『オペラ座の怪人』が終演
ニューヨークで先月16日、ロングランのブロードウェイ・ミュージカル『オペラ座の怪人』が、長い歴史に幕を閉じた。
同演目は当地で1988年に始まり、ブロードウェイ史上最長の35年の歴史を誇った。米フォーブスやNPRによると、これまで開いた公演数は1万3,981回にも上り、累計2000万人以上の観客を魅了してきた。
(ロングランとしては、2位に『シカゴ』、3位に『ライオンキング』が続く)
『オペラ座の怪人』は、プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュ氏の発言として「パンデミック以前から赤字だった」と伝えられた。
この規模のミュージカルは1回の公演ごとに、キャスト、バンドやオーケストラだけでなく、舞台裏のスタッフも含め100人以上によって支えられている。人数は芝居の規模によって異なるが、『オペラ座の怪人』は演者と裏方合わせて125人規模で行われていた。
それら人件費に加え、大掛かりな舞台セットを毎回解体せずに固定させておく会場の維持費も相当なものだ。
AP通信は、「このミュージカルは同時多発テロやリーマンショックなどニューヨークのさまざまな困難や局面を共に乗り越えてきたが、新型コロナウィルスのパンデミックが最後の災難となった」と伝えた。
- 『オペラ座の怪人』の終演についてのオーサーコメント
パンデミックから復活するも...
ニューヨークのブロードウェイ・ミュージカル・シーン(劇場街、芝居業界)の売り上げと入場した観客数は、2018年から19年にかけてのシーズンがもっとも活気があった。しかし近年は困難に見舞われた。パンデミックにより、20年3月に全劇場が一時閉鎖し休演となった。当初は1ヵ月の予定が3ヵ月に伸び、さらにまた延長を繰り返し、結局業界全体で1年半にわたる休演を余儀なくされた。
しかもこれはパンデミックに始まったことではないが、ブロードウェイ・ミュージカル・シーンは、エンタメ業界の中でも非常にシビアな世界だ。いくら一部のコアファンの心を掴もうとも、黒字が見込めない作品はすぐに打ち切りとなってしまう。
韓国のBTSの成功で、世界中で大人気のKポップにあやかって、Kポップを題材にしたブロードウェイ・ミュージカル『KPOP』が、昨年秋に再演*となっていた。世界中のKポップファンが劇場に押し寄せ、当初は今年春まで上演予定でリスタートしたはずだった。
- *初演は2017年のオフ・ブロードウェイ公演
しかし音楽の人気とは裏腹に、ブロードウェイでの状況は異なった。連日の満員御礼とはならず、空席が出る芝居の上演を続けていくのは困難と判断された。本公演がスタートして約1ヵ月足らずでの発表だった。最終公演は昨年12月11日で、そのあまりにも早い決断と展開に、ファンは驚きを隠せなかった。
カナダを含む北米全体のブロードウェイ業界団体、ザ・ブロードウェイ・リーグ
(The Broadway League)は、1984-85年シーズン以降のブロードウェイ公演の売り上げや入場者数を発表している。
このデータによると、コロナ前の2018-19年シーズンがもっとも活況で、業界全体の売り上げが18億ドル(当時の為替で約1,940億円)を超え、来場者数も1,477万人規模を記録した。しかしパンデミックからの再演後(2021-22年シーズン)の売り上げは8億ドル規模に留まり、来場者数も673万人と伸び悩む。
地元の小学生対象に「裏方」イベント
そんな中、業界ではより多くの観客にミュージカルに足を運んでほしいと、さまざまなアプローチで文化を盛り上げ、巻き返しを図る試みが見られる。
ミュージカルの舞台裏を紹介するイベントが今月11日、地元の小学生を対象に行われた。非営利団体のインサイド・ブロードウェイ(Inside Broadway)が行っている年2回の恒例イベントで、役者や演奏者のみならず、裏方(マネージャー、照明、音響、舞台装置、技術、美術、衣裳そして経理まで)がどのようにステージに関わり、公演が実現できているかを紹介するもの。これまでも『オペラ座の怪人』『マンマ・ミーア!』『キャッツ』『レ・ミゼラブル』など、人気公演の舞台裏を市民に紹介してきた。
今回の裏方紹介イベントでは、人気ミュージカル『ムーラン・ルージュ!(Moulin Rouge!)』がフィーチャーされた。
参加した小学生の半分以上はこの日が「初のブロードウェイ体験になった」と答えた。「剣を飲み込むマジックの種明かしが面白かった」「ステージの下の見えない所に14人のバンドがいて生演奏しているなんて知らなかった」「演者の人数以上のスタッフがステージの裏で支えているとは」と感嘆の声が上がり、大盛況だった。
バスに乗って観劇『The Ride』も再復活
演劇界でもっとも権威あるトニー賞は今年は6月11日に予定されている。それを間近に控えたシーズンとあり、ミュージカルへの人々の注目度は高まっている。
パンデミックの休演から再復活したのは、専用バスでニューヨークの街中を走りながら観劇する一風変わった公演『ザ・ライド(The Ride)』もそうだ。
コロナ前は日本語版も用意されるほど、日本人観光客にも好評だった。21年に再開したものの、翌22年10月に再びクローズ。数々の困難を経て、やっと先月末に再度復活を果たした。
14年から8年間、演者の1人として同公演に出演している日本人プロダンサーの中澤利彦さんも、再復活の日を首を長くし待っていた。
「休演と再開を繰り返し、再び戻ってくることができました。ニューヨークの街も活気付いてきたので、たくさんのお客さんとの出会いを楽しみにしています!」
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(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止