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新型コロナでNYから「文化」が消えた日 ブロードウェイ全公演が今日から休止

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
いつもは賑わっている夕方の劇場街。今日は人もまばら。(c) Kasumi Abe

トランプ大統領が国家非常事態を宣言

アメリカ国内のCOVID-19(新型コロナウイルス)感染者数は13日の時点で1875, 2110人、死者41, 48人となった。

ニューヨークタイムズ紙による、現在の症例数がわかるアメリカおよび世界のマップ(アップデート中)

トランプ大統領は同日、COVID-19(新型コロナウイルス)対策として、国家非常事態を宣言した。これにより支援金として、連邦資金から最大500億ドル(約5兆4200万億円)の予算を確保できるという。

また大統領は同日から、UKを除くヨーロッパ諸国からアメリカ市民以外の入国を30日間禁止するという大胆な入国禁止措置を取り、ヨーロッパから旅行や仕事でアメリカ行きを予定していた人々や帰国を予定していたアメリカ人の間で大混乱が生じている。

ニューヨーク州の感染者421人に

ニューヨーク州でも同日、感染者は328, 421人(ウエストチェスター郡148, 158人、ニューヨーク市95, 154人、ナッソー郡51人、サフォーク郡28人など)となった。(詳細

12日、ビル・デブラシオ市長もニューヨーク市の非常事態を宣言した。この宣言により、市は公共交通機関の運休や道路の閉鎖、夜間外出禁止令など人々の移動規制、必要な物資の供給などが行えるようになる。

市長は、感染者増加により混乱を招く異常事態や一般生活への打撃は半年以上続くかもしれないことを示唆した。

劇場街からすぐ近くのタイムズスクエア。相変わらず人で混んでいたが、いつもの金曜夕方の約7割の人出。(c) Kasumi Abe
劇場街からすぐ近くのタイムズスクエア。相変わらず人で混んでいたが、いつもの金曜夕方の約7割の人出。(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

ブロードウェイやメットオペラが休演

すでに非常事態を宣言している州全体では13日から、人の密度を減らす新しい施策が取られ始めた。

具体的には、収容人数が500人以上の施設で行われる州内の集会やイベント、ライブなどは禁止され、収容人数が500人以下の場合は、収容率を50%以下に削減することが開催の条件となっている。

この施策は同日の午後5時からスタートし、約1ヵ月(ブロードウェイの劇場は4月12日まで)行われる。

  • Updated April 8: 劇場閉鎖は6月7日まで延長

これにより、ニューヨーク市の人気観光スポットであるブロードウェイ・ミュージカルの41の劇場すべて、メトロポリタンオペラ、カーネギーホールはすべての公演の中止を発表した。また閉館施設には、メトロポリタン博物館も含まれる。

ニューヨークタイムズ紙によると、ブロードウェイの昨シーズンの集客は1480万人で売り上げは18億ドル(約1940億円)にも上るといい、1ヵ月もの休演は、経済的にも相当な打撃をもたらすことが予想される。

チケット窓口で質問をしている人がいた。(c) Kasumi Abe
チケット窓口で質問をしている人がいた。(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
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チケット料金の返金方法などが書かれた張り紙。(c) Kasumi Abe
チケット料金の返金方法などが書かれた張り紙。(c) Kasumi Abe

新型コロナウイルスの影響により失業、アパートの立ち退き、事業閉鎖、食糧不足になる可能性が懸念されている。クオモ知事は13日、このような緊急事態において新型コロナの影響で失業した場合、失業保険の7日間の待機期間の廃止や、光熱費を払えなくなった場合でも電気やガスなどを止めることがないよう担当機関へ要請した。

ニューヨーク市は1970年代の財政危機を引き金に犯罪数が激増し治安が悪くなった暗黒の歴史がある。失業や社会不安などにより人々や街の雰囲気が荒んでくると、治安の悪化も十分ありえるので、注意が必要だ。

自粛傾向は公立図書館、学校から一般の生活まで

13日午前中の段階で規制の対象外だったのは学校、図書館、病院、養護施設、公共交通機関だったが、同日午後になって、92の全図書館や学校の一部もクローズされると発表があった。筆者の友人が教師として勤務するブルックリンの公立小学校はまだ休校になっていない。友人曰く「休校になってしまうと貴重なバケーション日数が削られてしまうから、休校になってほしくない」と呟いているが、休校も時間の問題かもしれない。

さらに小規模のイベントでも少しずつ「自粛」傾向にあり、12日には私もよく利用する図書館でのイベントが4月末まで中止になることが告げられた。また、13日夜に予定していた久しぶりに会う別の友人とのディナーも「further noticeまで」、つまり政府から事態回復の発表があるまで、取りやめようということになってしまった。

17日には、ニューヨーク市の春の風物詩であるアイルランド発祥の大イベント「セントパトリックス・デー・パレード」が予定されていたが、これも取りやめに。この日は通常なら衣装から髪やヒゲ、ビールの色まであらゆるものが緑色に染まり、三つ葉が散りばめられる。これは、アイルランド系のみならず多くのニューヨーカーが長かった冬の終わりとこれから始まるもっとも美しい季節の到来を喜ぶ日なのだ。しかし258年の歴史で初めて中止が発表された。楽しみにしていた人々にもたらした失望は相当なものだ。

全米規模では、NBA、NHL、MLSなどのメジャースポーツもシーズンを中断、MLBではシーズンの開始の遅延も発表された。

情報が輻輳する中、この日もMTA(市営地下鉄)の運休や道路封鎖、はたまた国外の大統領の感染まで、さまざまな「フェイクニュース」が飛び交い、人々を混乱させた。人はパニックになり、一部のスーパーでは朝から長蛇の列ができ、買い占めによる在庫不足も起こっている。

人気スーパー、トレーダージョーズの様子。

デブラシオ市長は、これまで連邦政府が、市がウイルス検査を迅速に行うための能力に制限をもたらしたとして、12日の記者会見で不満をあらわにし、このように語った。「我々は十分な弾薬なしで戦争をしているようなものだ」。

芸術やスポーツなど文化的なものがなくなってしまうと、人々の心も荒んでくる。市民の頭の中は連日の報道やソーシャルメディアの情報などですでに「コロナ疲れ」気味だが、この騒動(戦い)は信じられないことに、当地ではまだ始まったばかりなのだ。

(Text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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