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日本人が当たり前すぎて気づけない「一人で食事を楽しめる環境がある」という恵み

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

一人でランチに行けないおじさん

コロナ禍前までは、職場でランチの時間になると「メシ行くぞ」と言って、誰かと一緒にランチに行きたがる上司がいた。同伴者が見つかるまでランチに行かないというおじさんもいる。

そういうおじさんに逆に聞きたいのだが、「いい歳して、一人でメシも食えないの?」と。

一時期、職場でも学校でもランチを一人で食べている人に対して「一人で飯を食うなんて寂しいやつだ。友達もいないんだな。可哀想に」とディスる輩もいた。

それが嫌で、皆の目に触れないところでコソコソ食事をとるために「便所飯」などという言葉が言われたこともある。実際に、トイレで一人で飯を食べていた例がそれほどあったとは思わないが、「一人でメシを食う」ことは、いじめや侮蔑の対象となった事実はある。「孤食」などという揶揄言葉もある。

幸か不幸か、コロナ禍によって集団で食事をするという行動がはばかられ、飲み会も制限されたことで、そういった同調圧力は消えたのだが、そもそも、一人で食事をするというソロ飯割合は、コロナ以前から多い。

2019年に、ファミリーレストラン「ガスト」は、一人用ボックス席を作って話題になった。席の両側についたてを配置し、電源を備えて、まるでネットカフェのようなプライベート空間が人気となった。

ラーメン店の「一蘭」の味集中カウンターなども以前からあった。

2022年10月現在で全国で91店舗もの展開に拡大している一人焼肉をコンセプトとした「焼肉ライク」も、第一号店は2018年のことである。

独身人口が5000万人、単身世帯が4割にも達しようとしている人口や世帯構造の変化からすれば、ソロ客に対する需要が高まるのは自然な道理である。

それでも「一人でメシも食えない寂しがり屋」は、そんな世の中の流れを知ろうともしないので、いまだに「一緒にメシを食う相手もいない奴は寂しい人間だ」と言い続けている。彼らに言いたいのは以下の言葉である。

「一人でメシも食えない人間の方が、会社を退職後寂しい老後を送ることになるだろう」

写真:イメージマート

ソロ飯率の実態は?

ソロ飯はもはやマイノリティではない。

コロナ禍がまだ顕在化する前の2020年3月上旬に調査した結果から、20~50代未既婚男女における、食事のソロ飯率を見てみよう。1週間当たり何回一人で食事をするか(昼食と夕食のみ)の質問でソロ飯率を割り出したものである。

ただ、未婚と既婚と分けるだけではなく、未婚でも一人暮らしの単身者と家族と住む親元未婚、それに、同棲中のカップルもいるだろう。既婚者にしても、夫婦だけの場合や子どもと同居の場合など世帯構造によりソロ飯頻度は異なると思われる。よってそれぞれを細かく分類した上で調査分析したものである。

結果は以下の通り。

未婚男女の一人暮らしのソロ飯率は平均9割である。むしろ、ソロ飯こそが彼らの日常であると言える。親元に住む未婚は男で5割、女で4割程度であった。

一方、夫婦のみ世帯や夫婦と子世帯の既婚男女のソロ飯率がそれより圧倒的に低いのかと思いきや、実はそうでもなく、子がいる夫婦の場合のソロ飯率は、妻が20%程度なのに対し、夫は40%と親元未婚者とあまり変わらない。子のない夫婦の場合に至っては、夫より妻の方がソロ飯率が高い。むしろ、同棲中の若い未婚カップルの方が家族並みにソロ飯率は低い。

家族や子、恋人の有無によって全体のソロ飯率は変わるが、さりとて、「一人でメシを食ってる奴は…」などと言われるほどマイノリティでも異質でもないのである。でなければ、牛丼屋、ラーメン屋、立ち食いソバ屋などメイン顧客がソロ客である業態が、あれほどの店舗数で営業が成り立つわけがない。

海外がうらやむ「日本のソロ飯環境」

特に、外食において「一人で食事を楽しめる場所が豊富にある」ということは、日本にいるとあまりに当たり前すぎて利点と思わないかもしれないが、海外の人からするととてもうらやましいことであるらしい。

以前、英国のBBCの取材を受けて、「日本ではソロ外食が盛んである」という話をした記事と動画が公開された時、放送や記事を見たイギリス人から「(一人で外食できる店がたくさんあって)日本がうらやましい。誰かと一緒に食べないといけないというのは苦痛だ」というコメントが寄せられたことがある。

ハリウッド女優のクロエ・グレース・モレッツも同様のことを言っている

「東京には一人で食事できる場所がある。一人で食事を楽しめるでしょ。西洋文化では一人で何かをするってことはめったにないの。いつもパートナーや誰かと一緒に食事をしなきゃいけない。でも一人で何かをすることはとても重要だと思う」

みんなで食事をしたいというトモ飯(共にメシを食うこと)の楽しさは否定しない。コロナ禍が一段落して、今後は自粛してきた飲み会も増えるだろう。それはそれで楽しいし、大いに楽しめばよい。

写真:アフロ

しかし、反対に「一人でゆっくりとご飯を楽しみたい」という需要もあるのだ。それは決して「誰かと一緒に食べられないから、友達がいないから、不本意ながらソロ飯を余儀なくされている」のではなく「一人で食べたいから」なのである。

「集団で食べないといけない」か、「一人で食べなければならない」とかの二択の話でもない。どちらが正しいという話でもない。食わず嫌いにならずに、両方経験して損はないし、時と場合と必要に応じて、それぞれを楽しめばいい。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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