「一度相談させてください」と言う部下ほど一度も相談に来ない驚きの理由
私は企業の現場に入って目標を「絶対達成」させるコンサルタントだ。20年近く、クライアント先で上司と部下とのコミュニケーションを耳にしてきた。
その際、とくに気になるのが「相談ショートコント」である。
「相談ショートコント」とは、「相談」というキーワードを使った、上司と部下との関係を円滑にするための決まり文句だ。しらじらしいやり取りが、まるでショートコントを見ているようなので「相談ショートコント」と名付けた。
「相談ショートコント」の代表的な言い回しは、以下の2つ。
●部下側 「一度相談させてください」
●上司側 「いつでも相談に来るように」
このフレーズだけを記しても意味がわからないだろう。前後関係がわかる例文を書いてみた。以下の会話文を読んでもらいたい。
上司:「先日、部長からキャンペーンの進捗状況を聞かれたよ」
部下:「申し訳ありません。今期はバタバタしていて、なかなか」
上司:「それなりにコストがかかっている。しっかり結果を出さないと」
部下:「わかりました。一度、相談させてください」
部下にこう言われると、「わかった。いつでも相談に来るように」と上司は答えるだろう。こうした空々しいやり取りが「相談ショートコント」である。
客観的に話を聞いていると、このやり取りのあと、キャンペーンに関する取り組みが進むかと思うだろう。だが、現実にはほとんどない。単なる「ショートコント」なのだ。お互い、そんな気はサラサラない。
私は現場でこうした真剣さに欠けるやり取りを耳にすると、必ず突っ込みを入れる。まず部下側に「いつごろ上司に相談するのか?」と質問する。ほとんどの部下は返答に窮する。
「いま、『相談に乗ってほしい』と上司に言いましたよね? いつ相談に行くのですか?」
このように問い掛けると、野暮なことを聞く人だな、という表情をしてから部下は苦笑する。
「そうは言っても、私もいろいろ忙しいですし」とか言って逃げようとする。もしくは「そもそもどうして私がその仕事をやる羽目になったのか」などと反論しはじめる人もいる。先ほど上司に「一度相談させてほしい」と言ったにもかかわらずだ。
上司側にも問い掛けると、
「まあ、でも、そういうことは自分で考えるべきことだし、何でもかんでも相談されても困るしな」
と、話をはぐらかそうとする。だから、
「一度相談させてほしい」
「うん、いつでも相談に来るがいい」
というやり取りは、結局のところ「ショートコント」なのだ。「寸劇」である。新婚の夫婦が親戚のおじさんのところへ挨拶に行き、
「彼女の実家が大阪ですから、今度大阪に行くときは必ず連絡します」
「そうかそうか。絶対に連絡してくれよ。うちの娘にも紹介したいからな」
と、このようなやり取りとまったく同じ。私がその間に入り、ご夫婦に「今度大阪へ行くのは具体的にいつなんですか?」と質問したらどう答えるだろうか。さすがに返事しづらいだろう。
そのおじさんにも「このご夫婦、来月に大阪へ来るそうです」と言っても「そう、急に言われても、困るな……。うちの娘も受験が近いし」と言って断るかもしれない。「必ず連絡します」「絶対に連絡してくれ」と、言い合った直後にもかかわらずだ。
もちろんこの場合、お互い「社交辞令」で言っているわけだから、このような突っ込みはナンセンス。「近くに行ったら連絡する」「必ず連絡してほしい」という掛け合いは決まり文句なのだ。
しかしビジネスの現場において、しかも上司と部下とのコミュニケーションにおいてショートコントをやっていても笑えない。
「一度相談させてほしい」
「いつでも相談に来るがいい」
だから、こうした「相談ショートコント」は禁止すべきである。
私がその場にいれば、「このセッションが終わったらすぐ2人で打ち合わせをしてください。そして決定事項を今日の18時までに私に報告してもらえませんか」と言うだろう。
飲み会やコーヒータイムでのショートコントのようなやり取りは楽しいが、会議中などにおける上司と部下との「相談ショートコント」を耳にすると痛々しい感覚を覚える。具体的な意思決定プロセスをお互いで確認する習慣を身につけたい。
<参考記事>