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メディアが「賞味期限切れ」を悪と報じる悪影響

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

鹿児島県志布志(しぶし)市で、ふるさと納税の返礼品に、賞味期限の切れた冷凍のめんが混在していたと報じられた。2019年12月23日に発送された冷凍の生めんで、2020年1月14日に市民から期限切れを指摘されて発覚したとのこと。市が同じ日に発送した37名中、6件で期限切れが判明し、食べてしまった人もいるが、幸い、健康被害の報告はないそうだ。

鹿児島県志布志市のふるさと納税返礼品の公式サイトを確認すると、プレミアム海鮮鍋は、現在、申し込みを停止している。ここからたどっていくと、今回、賞味期限が切れていたのは、冷凍の中華めんのようだ。

問題の本質である「ずさんな在庫管理」を見出しに据えて欲しかった

いくら冷凍だったからとはいえ、2019年3月に賞味期限が切れているものを9ヶ月後の12月に消費者へ発送するとは、この事業者の管理のずさんさが察せられる。他にも、2軒分の送付状を1軒に送るなどのミスが出ており、市が取引停止にしたのは真っ当な判断だ。

この問題の本質は、ふるさと納税返礼品の業者がずさんな在庫管理を行っていたということ。それにより起こる問題は、賞味期限を切らすことにとどまらない。

今回は、たまたま冷凍品だったからよかったものの、常温保存で品質の劣化が進みやすいものであれば、食中毒を起こしていたかもしれない。

衛生面の懸念に加えて、食品ロスも起こるだろう。

多くの人は、報道のすべてを念入りに読み込むわけではない。見出しだけで概要を判断する中、メディアが「賞味期限切れが混じった」と見出しをつけることで、読み手は「賞味期限切れ=悪いこと」という印象を少なからず受けるのではないだろうか。

もし、全国の行政にこの問題の本質を伝えたいのであれば、筆者なら「ふるさと納税返礼品の業者、ずさんな在庫管理」と見出しをつける。

食品関連業者にとって、先入れ先出し(先に作ったものを先に出す、先に納品されたものを先に出す)などの適切な在庫管理は、業務の基本だ。

一般消費者にとっても、冷蔵庫の食品を定期的に「入れたら出す」という在庫管理を行うことで、食品ロスを防ぎ、食品の衛生管理もでき、無駄な支出が減り家計も助かる。

ことさらに「賞味期限切れ」にフォーカスをあてるのではなく、問題の本質を伝える見出しであって欲しかった。

「賞味期限」は「品質期限」ではない

ずさんな在庫管理により、賞味期限が半年以上前に切れているのに気がつかない業者は論外だ。食品事業者の資格はない。

一般的な話として、「賞味期限」は美味しさの目安である。より気をつけるべきは、食品が早く劣化しやすく、おおむね5日以内の日持ちのものに表示される「消費期限」だ。

国は、賞味期限は「美味しさの目安」であり、この期限を過ぎてもすぐ食べられないわけではない旨を、10年以上前から啓発している。かつて、厚生労働省と農林水産省が制作した期限表示のポスターは、「食品表示法」として消費者庁に受け継がれ、消費者庁の公式サイトに掲載されている。

政府が「賞味期限が過ぎても食べられないわけではない」と発表している。

が、今回のような件が起こるたびに、「賞味期限切れを誤って・・・」などと、あたかも品質が切れていて飲食してはならないもののようなニュアンスで報じられる。

指摘したいのはマスメディアの不勉強

指摘したいのは、マスメディアの不勉強だ。「賞味期限切れ」をたびたび報じるが、その違いをわかっていない記事がとても多い。前述の通り、この問題の本質は、本来、適切な在庫管理を行うべき業者が、それを怠り、ずさんな管理をしていたということだ。「賞味期限切れ」だけが問題なのではない。この業者は、それ以外にも発送ラベルの不行届きを起こしているし、他にもあるかもしれない。

「賞味期限切れ」が見出しにつけられているが、誤解を招く、あるいは問題の本質とはずれていると思われている件は過去にもあった。

たとえば自然災害で配った水の賞味期限が切れていて市民がクレームしたという報道。ペットボトルの賞味期限は飲めなくなる期限ではないのだが、あたかも品質が切れたものを配ったようなニュアンスで報道された。

または新幹線が停止してしまい、車内で配ったパンの缶詰の賞味期限が切れていた、という報道もあった。

消費期限(赤)と賞味期限(黄)のイメージ(農林水産省HP)
消費期限(赤)と賞味期限(黄)のイメージ(農林水産省HP)

賞味期限と消費期限の違いは中学校で習う。だから、われわれ消費者が知っていなければならない。行政も知っている必要がある。そして影響力の大きいマスメディアは、なおさら知っておく必要があるだろう。

それをきちんと理解していれば、今回の問題の本質は、賞味期限切れより、もっと大きな問題を引き起こす「業者のずさんな在庫管理」にフォーカスを当てたであろう。最も多くの人がニュースを判断するための「見出し」の付け方も違ってくるはずだ。

参考情報

賞味期限切れの水は飲めるので台風など非常時に捨てないで!消費者・行政・メディア みな賞味期限を誤解

警視庁が「飲料水としてダメ」とした水は飲用可能  ペットボトル水の賞味期限は飲めなくなる期限ではない

「キャベツ♪!キャベツ♪!」と狂喜乱舞 南極観測隊の料理人が痛感した野菜の重要性

新幹線内で夜を明かす足止め客に賞味期限が2ヶ月過ぎたパンの缶詰を配布したJRは謝罪すべきか?その是非

知っていますか?食品の期限表示(消費者庁が管理、かつて農林水産省と厚生労働省が制作)

食品の期限表示に関する情報(消費者庁)

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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