新幹線内で夜を明かす足止め客に賞味期限が2ヶ月過ぎたパンの缶詰を配布したJRは謝罪すべきか?その是非
2018年5月18日発売の『新潮45』(新潮社、発行部数:19,067部、日本PR協会発行 広報・マスコミハンドブック PR手帳2018による)6月号のp148〜p157に、法政大学経営大学院教授、小川孔輔先生の寄稿「衣食をこんなに捨てていいの?商品廃棄の経営学」が掲載された。
実際のメールと違う文章を掲載している『新潮45』2018年6月号
小川孔輔先生は、日経MJ(日経流通新聞)の連載記事でも、何度か「食品ロス」について取り上げて下さっていた。筆者の著書である『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書、3刷)も、ゼミや他大学の講義で使って下さり、学生の感想文のうち、優れたものについて、小川先生の公式サイトで紹介して下さっている。
小川先生の寄稿は、2017年10月22日、台風の影響で乗客が車内で夜を明かすことになり、JR東海が緊急事態に対応して食品を配った、それが賞味期限切れだったことを乗客から指摘され、JR東海が公式に謝罪し、それをマスメディアが報道した件から始まっている。
記事の中で、先生からのメールに筆者が返信したとして、『新潮45』6月号のp148〜p149にかけて、次の文章が掲載されている。
実際に筆者が2017年10月24日8:37amに小川先生に返信したメールは次の通りである。
以下は、返信したメールのキャプチャ(画像)である。
小川先生によれば、文章を短くするために編集者が手を入れたもので、編集方針によるもの、編集長からの指示、とのこと。筆者は、メディアやメディアの報道を十把ひとからげにして「メディアの無知には困ったものです」などとは書いていない。本人が書いていないことを、あたかも書いたかのごとく見せるのを「編集」とは呼ばないと思う。
賞味期限が2ヶ月過ぎたパンの缶詰を新幹線内に缶詰になった乗客に配布
新潮45の記事には「乾パンを配った」とあるが、実際は乾パンではなく「パンの缶詰」である。2017年10月23日午前3時ごろ、新幹線の車内で夜を明かす乗客に、熱海駅で備蓄していた5年間保存の缶詰入りパンミドリのサバイバルパン2(実際の商品名では「2」にギリシャ数字が使われている)128食を提供した。
賞味期限は、2017年8月12日と8月15日だった。配布したのが2017年10月22日夜から23日にかけてなので、2ヶ月ほど賞味期限を過ぎていたことになる。
時間の経過とともに品質が急激に劣化するため5日以内の日持ちの食品に表示される「消費期限」と違って、「賞味期限」は「美味しさの目安」である。品質が切れる日付ではない。
確かに、JR東海の管轄であるJR熱海駅が保存していた備蓄食品は、賞味期限が切れており、管理体制の甘さは考えられる。配る時にも確認し、乗客に事情を説明すればよかったかもしれない。だが、まさか新幹線の車内で足止めを喰らい一晩過ごさなければならないとは予想していなかった乗客に対し、「美味しさの目安」の期間が2ヶ月過ぎていた缶詰を配ったからといって、お詫びのプレスリリースを出さなければならなかったのだろうか。また、マスメディアは、限られた報道枠の中で、わざわざ報じなければならなかったのか。
真の意味で「賞味期限の意味が広く浸透してきた」と言えるのか
2018年5月18日、神戸新聞は賞味期限切れ「異常なければ食べる」51%という記事を報じている。兵庫県消費者団体連絡協議会が、兵庫県民およそ1700名に聞いたアンケートで、51.9%が「賞味期限が過ぎた食品でも、外観や臭い・味などに異常がなければ食べる」と答えたとのこと。13年前の2005年度の38.6%から大幅に増加しており、兵庫県の消費生活課は「賞味期限の意味が理解されてきた」と評価しているそうだ。
確かに、自宅の冷蔵庫や商品棚にあるものなら、異常がなければ、賞味期限が過ぎていても食べるだろう。もうお金を払っているのだから。
では、非常事態に新幹線の車内でJRが配った缶詰のパンは、賞味期限が過ぎていたら許されず、企業が謝罪し、マスメディアが全国的に報道しなければならないのだろうか。缶詰は基本的に3年間の賞味期間があり、理論的には半永久的に品質が保持されることが複数の調査でわかっている。
2018年3月1日、サステナブル・ブランド国際会議の席上で、パンの缶詰を製造している株式会社パン・アキモトの、製造してから3年近く経ったパンの缶詰を試食させて頂いた。ふわふわしていてオレンジの香りがかぐわしく、オレンジケーキのようで、とても美味しかった。
パン・アキモトは、賞味期限が残り1年になった時点で、購入者のうち希望者からパンの缶詰を引き取り、被災地や戦闘地などに寄付をし、廃棄しないで活かす活動を本業の中で続けている。この「救缶鳥(キュウカンチョウ)プロジェクト」は第5回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞を受賞している。
筆者が565名に「スーパーへ買い物に行った時、賞味期限の新しいものを棚の奥から取ったことがあるか」とアンケートを取った結果によれば、88%に当たる499名が「はい(奥から取ったことがある)」と答えている。
賞味期限が美味しさの目安と理解していれば、なぜ奥から取るのか。多くの人は「同じ値段なら新しいものを取る」「安ければ賞味期限が近づいたものを取る」と答えるだろう。これで本当に、真の意味で「賞味期限の意味が理解されてきた」と言えるのだろうか。
国は「賞味期限が切れた食品がすぐに食べられなくなる訳ではない」「廃棄による社会的なコストも考慮し買い物や保存を」
平成20年に厚生労働省と農林水産省が作成した「知っていますか 食品の期限表示?」(厚生労働省・農林水産省)の資料は、現在、表示関係が消費者庁に一括で管理されているため、消費者庁の公式サイトに掲載されている。そこには次のように書いてある。
「賞味期限が切れた食品がすぐに食べられなくなる訳ではない」のであれば、台風により新幹線が非常停止した場合や、地震・津波などの自然災害が発生した場合などには、安全性や食べられるかどうかを五感で判断し、臨機応変に食べるということでよいのではないか。
参考記事: