プロ野球ドラフト会議の傾向と対策:2015年版――上位指名の7割弱は投手、ホームランは天賦の才?
粒ぞろいの今年のドラフト
いよいよあした10月22日、プロ野球ドラフト会議が迫ってきました。今年は、「超大物」と呼べるほどの選手はいないものの、高校生を中心に粒ぞろいで全体的には豊作のドラフトだと言えるでしょう。
なかでも目玉は、やはり県岐阜商の高橋純平(投手)、そして夏の甲子園を制した東海大相模の小笠原慎之介(投手)です。今年は、このふたりをどの球団が引き当てるかが、最大のポイントでしょう。大学・社会人でも、明治大学の高山俊(外野手)や駒大の今永昇太(投手)は抽選になる可能性があります。他にも、明治大学の上原健太(投手)、仙台育英の平沢大河(内野手)、そして大人気のオコエ瑠偉(関東第一/外野手)などにも注目が集まっています。なんとも楽しみです。
そんなこんなで胸が高まりますが、幾年か経てばシビアだったり意外だったりする未来がやってきます。有力選手を獲得したからと言って、プロで大活躍するとは限らず、逆に下位指名にもかかわらずプロで大活躍する選手もいます。近いところでは2010年の「早稲田三羽ガラス」と呼ばれた投手をすぐに思い起こします。6球団競合の大石達也、4球団競合のハンカチ王子の斎藤佑樹、そして大石の外れ1位で広島カープに入団した福井優也です。このなかで、現在もっとも活躍しているのは、今季9勝をあげた福井でした。
本人の素質だけでなく、監督やコーチとの出会い、チームの方針、そして運――選手は、さまざまな影響を受け、成長したりしなかったりするのです。選手の未来は、なかなか読めない……と考えがちですが、果たして本当にそうなのでしょうか? ドラフト会議はどのような戦略をとればいいのか? 大学・社会人選手と高校生選手ではどちらが活躍するのか?
過去のデータを見ながらそうしたことについて考えてみたいと思います。
上位指名の7割弱は投手
まず確認しておきたいのは、過去にプロ入りした選手の人数など基本的なデータです。ここでは1995年から2014年までの過去20年間を参照します。過去20年間、プロ入りした選手の総数は1712名で、年平均で85.6人、1チーム平均では7.1人になります。2005年からは育成ドラフトも始まり、入団選手は増える傾向にあります(※1)。
さて、その入団した1712人をポジション別に見ていくと、下のグラフのようになります。
見てのとおり、圧倒的に多いのは投手ですが、その割合は支配下登録選手のそれに概ね比例します。チームにもよりますが、支配下登録70名のうち30~40人が投手です。
それでは次に、選手の入団世代とポジションの8通りの区分でその実数を見たいと思います。それがこのグラフです。
やはり圧倒的に多いのは大学・社会人の投手で、高校生の投手はその半分ほど。一方、野手のポジションを見ると、大学・社会人と高校生であまり大きな差は見られません。唯一外野手では、高校生よりも社会人のほうが多いというデータになっています。
次に、ドラフトの指名順位における傾向を見ていきましょう。そこでは指名順位を上位・中位・下位に区分し(※2)、さらに世代とポジション別で比較してみます。
すると、とても興味深いことが見えてきます。上位・中位・下位で明確にドラフト指名の傾向があるのです。たとえば上位指名選手では投手が68.9%を占めますが、中位では53.1%、下位では48.6%と下がっていきます。逆に、野手は下位になるほど割合が増します。
入団する世代の割合は、全体で見ると大学・社会人が6割、高校生が4割ほど。それは、指名順位でも大きな差はありません。大社:高の割合は、上位指名は59.3:40.7%、中位は59.8:40.2%、下位は62.0:38.0%です。しかし、野手では指名順位によって少し差が見て取れます。上位指名の野手は高校生のほうが多く、下位になると大学・社会人の割合が増えます。極めて優れた内野手は、高校生のうちに獲得して、育成しようという狙いなのかもしれません。今年であれば仙台育英の平沢大河はこのタイプでしょう。
ホームランは天賦の才?
さて、ここからは既にプロで活躍している選手の出自を見ていきたいと思います。ここで参照するのは、2006~2015年の過去10年分のデータです。レギュラー選手は、ドラフトのときはどのような評価をされていたのでしょうか。
まず打者から見ていきましょう。過去10年で規定打席に到達した打者は185人います。ちなみに、過去10年すべての年で規定打席入りしていた唯一の選手は阪神の鳥谷敬で、9回が広島の新井貴浩でした。
この185人のうち日本のドラフト会議で指名されたのは、142人でした。他の43人は外国人選手ですが、台湾人の陽岱鋼(日本ハム)のように日本の高校を卒業してドラフトにかかった選手もいます。
さて、この規定打席到達者の142人全員と、さらに3割以上の打率を残したことのある76選手について、そのドラフト順位の割合を見てみましょう。
結果として見えてきたのは、規定打席到達と3割達成打者の割合に大きな違いはないということです。どちらとも、上位から中位、そして下位指名になるにつれて割合が減ります。しかし、ともに大きく減るわけでもありません。下位指名選手の人数が多いとは言え、20%以上を占めるのは、ちょっとした驚きです。
また上位と中位指名選手にもあまり差がありません。そのなかでやや目立つのは、3割達成者の中位指名・高校生が22.4%と高い数字を示していることです。これは大学・社会人選手と同じ17人で、上位指名の高校生よりも少し多いのです。打率にかんして言えば、高校生打者はドラフト3・4位のレベルでも十分に伸びしろがあることを意味しています。たとえばここに含まれるのが、今季セ・リーグの首位打者である川端慎吾(ヤクルト)や、すでに引退した前田智徳(広島)などです。
では、長打力という点ではどうなのでしょうか? そこで同様にホームランを年に20本以上打ったことのある打者75人中、ドラフト会議にかかった44人で見てみましょう。それが以下です。
これは規定打席到達や3割打者と比べると、はっきりと差が出ています。本塁打を多く打つ選手は、明らかにドラフト上位指名に多いのです。なかでも目立つのが上位指名された高校生です。今季のホームラン王である中村剛也(西武)と山田哲人(ヤクルト)をはじめ、筒香嘉智(DeNA)や中田翔(日本ハム)も含まれます。
逆に、ドラフト5位の高卒ながらも今年の打点王である畠山和洋(ヤクルト)や、ドラフト6位の大卒で過去にホームラン王になった新井貴浩(広島)は、かなりのレアケースです。3割打者は育成できても、長打力を向上させるのは難しいのかもしれません。よって、ホームランバッターを欲しいチームは、高校生でも上位で指名する傾向にあります。ホームランは天賦の才――しばしば解説者が述べるその意見も、あながち間違ってはいないようです。
先発投手は上位指名ばかり
さて、ここからは投手を見ていきましょう。打者と同様に、まずは規定投球回数を超えた経験のある投手に絞ってみたいと思います。ただ、ここではそれが先発投手に限られることは留意しておく必要があります。
過去10年に規定投球回数を超えたのは118選手おり、外国人25選手を抜くと93人になります。ちなみに、もっとも規定投球回に達した年が多かったのは、石川雅規(ヤクルト)と内海哲也(巨人)の9回で、10年続けて達成している選手はいませんでした。それに杉内俊哉(巨人)と涌井秀章(ロッテ)が8回と続きます。
さらに、そのなかから防御率が2点台以下を経験した投手53人を抽出し、ドラフト順位の割合を見てみましょう。
見えてきたのは、ドラフトで上位指名された投手が安定した力を発揮していることです。冒頭で触れたように、ドラフト上位の7割弱が投手なので、この結果もさほど不可思議ではありません。特筆すべきは、こうしたなかで下位指名にもかかわらず成長した高校生投手です。成瀬善久(ヤクルト)、岩隈久志(メジャー)、三浦大輔(DeNA)などがそうです。
また、投手で大切なのは中継ぎや抑えの選手です。先発のようなイニングイーターではなくとも、連日登板をするタフな仕事です。過去10年における各リーグ登板上位20人(計40人)から、外国人選手と防御率が4点台以上の投手を除いた149選手を見ると、先発投手とは異なった傾向が見えてきます。
先発と比べると、中継ぎ・抑え投手は上位指名選手が減り、その分中位と下位指名の選手が増えます。さらに細かく見ると大学・社会人出身の投手が多いことにも気付かされます。やはり登板回数の多さは肩に負担をかけるので、将来性のある高卒選手では避けられる傾向にあります。なお、過去10年で登板数上位20位以内に入った回数が多い投手は、岩瀬仁紀(中日)と山口鉄也(巨人)の8回でした。全般的に4年以上継続して中継ぎを続ける投手は稀有で、先発よりも故障の可能性が高いことがうかがえます。
オコエ上位指名は冒険?
このように、ドラフト指名選手の傾向をさまざまな方向から見ると、いくつかの特徴が導きだされます。
・上位指名の投手は先発で活躍する傾向
・打者は中位・下位の選手でも成長する可能性が高い
・ホームランバッターは、上位指名選手以外は育ちにくい
・中継ぎや抑えの投手は、大学・社会人が中心
各チーム事情や年による選手の質の違いもありますが、こうしたことを踏まえて効率的にドラフトを続けるならば、以下のようになるでしょうか。
- 上位指名:大社の投手、高校の有力投手、打者ならば長打力のある高校生
- 中位指名:大社の中継ぎ候補、大社の巧打者タイプ、高校生の巧打者タイプ
- 下位指名:大社の中継ぎ候補、素材型の高校生投手、素材型の高校生打者
人気のあるオコエ瑠偉も、もしかしたらドラフト1位にはならないのではないか、と見られています。高校生外野手の上位指名は、これまでのドラフトの傾向を見るかぎり、かなりの冒険だと言えるからです。
手堅く行くならば、ドラフト1位で大社の投手を獲り、2位でもうひとり大社の投手か長打力のある高校生。3・4位は大社の中継ぎ投手と巧打者、下位は素材型の高校生を投手と打者でひとりずつ、といったところでしょうか。もちろん、こんなに都合良くはいかないのでしょうが。
ドラフト会議、今年はどのような結果となるか楽しみです。
※1……なお、ドラフトで指名されたものの入団を拒否したケースは、過去20年で13人・14回あります。そのうち8人は後にプロ入りし、残りの5人はプロにはなりませんでした。なお入団拒否し、後年別球団に入団した主な選手は、福留孝介(1995年・現阪神)、新垣渚(1998年・現ヤクルト)、内海哲也(2000年・現巨人)、福井優也(2005年・現広島)、長野久義2回(2006、08年・現巨人)、菅野智之(2011年・現巨人)などです。
※2……上位指名は1・2位、中位指名は3・4位、下位指名は5位以下のとしてまとめます。なお、2006年までの逆指名・希望入団枠は上位指名とし、2005~07年にかけての分離ドラフトにおいては、高校生ドラフトの2・3位を中位指名にまとめています。
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