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TPP法案を先送りして選挙を有利にしようとする愚かさ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(215)

卯月某日

安倍政権は後半国会の目玉であるTPP法案を秋の臨時国会に先送りするらしい。選挙への影響を懸念したためだという。しかし先送りすれば選挙を有利にできるのか。その感覚がフーテンには理解できない。

安保法制とTPP法案は安倍政権が米国に気に入られるための必須の課題である。安保法制は国民に十分な説明もなく国内に分断と対立をもたらす形で強行可決されたが、TPP法案も何としても米国に先駆けて日本が国会で批准をしなければならないと安倍総理は考えていたはずだ。

ところがTPPの交渉を担ってきた甘利前経済再生担当大臣がスキャンダルの直撃を受けた。当初、安倍総理は甘利氏をかばおうとしたらしいが、菅官房長官から「特捜部が動く」と言われて断念したという。ここに特捜部に捜査をさせずに乗り切れると判断した安倍総理と、事件化しなければ逆に問題が大きくなると判断した菅官房長官の違いがある。

そこから官邸は甘利辞任を前提にTPP法案の国会審議とあっせん利得処罰法違反事件とをどのように調整するかのシナリオを練ったはずである。甘利氏の辞任まで1週間ほど時間を稼ぎ、スキャンダル告発者が何を握っているかを見極め、甘利氏は辞任するが説明責任を先延ばしにし、特捜部が捜査に着手すればそれを理由に説明責任を果たさない方法が考えられたとフーテンは思う。

一方、甘利氏の後任に石原伸晃氏を充てたのは、国会答弁で「秘密条項」を盾に「言えません」の一点張りを貫く、いわば「汚れ役」をやらせようとしたのである。だから本人が経済に強くなくとも、能力に疑問符の付く人間でも構わなかった。そして民進党と共産党を黒塗り資料などで挑発、審議拒否をせざるを得ない状況を作り出し、そこをおおさか維新の会などに批判させ、選挙で「民・共連合」を批判する材料にする。

そのうえで国民の目をできる限り消費増税先送りと伊勢志摩サミットに向けさせるためのメディア操作に力を入れる。そのために高市総務大臣の「電波停止発言」が飛び出したのではないかとフーテンは勘ぐっている。電波停止はテレビ局だけの話だが、日本は他国と違い、全国紙と全国ネットのテレビ局が系列になっているため新聞の論調にも影響を与えることができるのだ。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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