<ウクライナ>アニメ少女が見た戦争 戦死した父「心強く」の言葉胸に(写真16枚)
◆「鬼滅の刃」コスプレ少女、ダーシャの思い
ウクライナで「鬼滅の刃」のコスプレをする17歳のダーシャさん。アニメ・漫画の大ファンの彼女の父は、ウクライナ軍中佐だった。前線での任務中にロシア軍のミサイル攻撃で戦死。父への思いを胸に、ダーシャは心強くあろうとする。オデーサで取材したアニメ少女の第2弾。(玉本英子・アジアプレス)
<ウクライナ>「死の町」 脱出の少女 日本の漫画アニメが心の支え(写真13枚)
◆「日本のアニメは人生の意味も教えてくれる」
人気アニメ「鬼滅の刃」のキャラクター、竈門禰豆子に扮したコスプレ姿を、動画サイトに投稿するウクライナの少女がいる。
学生のダーシャ・ボンダレエバさん(17)は、日本のアニメ、漫画の大ファンで、「鬼滅の刃」のほか、「文豪ストレイドッグス」「未来日記」がお気に入りだ。
「日本のアニメは刺激的で、ストーリーが奥深い。人生の意味も教えてくれる」と話す。
ウクライナでは、日本のアニメと漫画が人気だ。南部の都市、オデーサにあるアニメショップ、「ヨロコビ」は、日本語の「喜び」が由来になっている。店内に並ぶアニメのグッズや漫画の翻訳本の数に圧倒される。
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ロシア軍の侵攻は、アニメファンにも暗い影を落とす。コスプレ姿で来店していた学生は、自宅アパート近くにミサイルが炸裂し、その爆発音がいまも耳から離れないという。
ウクライナでは、誰もが家族が負傷したり、友人が兵士として戦っていたりと、戦争の現実がのしかかる。
「ヨロコビ」の店員は言う。
「お客さんが店に入ると、それまで悲しい顔だったのに、アニメと漫画を見て、幸せそうな表情に変わります。希望を感じてくれるのです」
◆ウクライナ軍将校の父、ミサイル攻撃で戦死
ダーシャさんの父、ヴィターリーさんは、ウクライナ陸軍・第28独立機械化旅団の中佐だった。7月末、戦闘が続く南部ミコライウでの任務中、ロシア軍ミサイルの直撃を受け、部隊司令官らとともに戦死した。
ロシア軍の侵攻が始まったとき、父はこうつぶやいた。
「この戦争は、過酷なものになるだろう……」
戦闘が激化し、家に戻ることはなくなったものの、家族を気遣う携帯メールをよく送ってくれた。
「元気でいるよ」
それが父からの最後のメッセージとなった。亡くなる3時間前のことだった。
母のイリーナさんはヴィターリーさんの死を受け入れられず、洗面所の歯ブラシや下駄箱の靴もそのままにしていた。
◆「敵の人たちにも、この戦争を経験してほしくない」
ダーシャさんの机には、軍服姿の父の遺影と名誉勲章が飾られていた。そのわきに、お水の入ったコップと一切れのパン、そして父が好きだったキャンディーが供えてあった。
彼女は言った。
「これ以上、愛する人びとが失われないようにして。たとえ敵の人たちでさえも、この戦争を経験してほしくない」
<ウクライナ現地>吹き飛んだ壁 響く悲鳴 アパートにロシア軍ミサイル(写真10枚)
◆殉職兵士の墓の前で
オデーサ郊外の墓地に父は眠る。
私はダーシャさんと母のイリーナさんと墓地に向かった。広大な敷地に、殉職軍人を埋葬した一角があった。真新しい墓が並ぶ。2人は父の墓碑に赤い花束を手向け、添えられた写真にそっとキスをした。
「ウクライナは負けません。夜明けが来ると信じています」
そう言って私を抱きしめたイリーナさんの体は、ずっと震えていた。
夏の日差しが照りつける静かな墓地。墓碑の横に掲げられた、青と黄のウクライナ国旗が風に揺れ、はためいていた。
帰り際、墓地の出口に差し掛かると、兵士たちが整列し、弔銃を構える練習をしていた。また新たな戦死者が運ばれてくるのだ。
毎日、絶えぬ双方の犠牲。ウクライナだけでなく、ロシアの兵士にも、ひとりひとりに家族があり、悲しみに暮れているはずだ。
◆「私は泣かない」
ダーシャさんは、私の前で涙を見せなかった。
「お父さんは、どんな時でも強い心でいなさいと言っていました。私は泣きません。お母さんをもっと悲しませてしまうから」
ロシア軍の侵攻後は、ウクライナの伝統衣装、ヴィシヴァンカをまとった姿での動画投稿が増えた。「ウクライナ国民は屈しない」との思いからだ。
普通の日常を取り戻すため、友人にとっても自分にとっても元気を与えてくれるコスプレを続けるつもりだ。そして、いつか日本に行くのが夢という。
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【ダーシャさんの動画を含む映像報告 毎日放送(MBS)】「日本のマンガ・アニメ」を心の支えにして戦時下を生きるウクライナの少女たち
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2022年11月15日付記事に加筆したものです)