<ウクライナ南部>ミコライウ最前線、すぐ先にロシア軍 次々と砲弾、破壊の村(写真13枚)
◆激しい砲撃で住民脱出
8月、私はウクライナ南部・ミコライウに入った。近郊にはロシア軍が迫り、連日、砲撃やミサイル攻撃にさらされている都市だ。ウクライナ軍・偵察小隊に同行し、ミコライウとヘルソンにまたがる農村地帯でロシア軍と対峙する最前線地帯を取材した。(取材:玉本英子・アジアプレス)
<ウクライナ南部>吹き飛んだ壁 響く悲鳴 アパートにロシア軍ミサイル(写真10枚)
ウクライナ軍のライトバンで前線地帯に向かう。防弾ベストとヘルメットがずっしりと重い。平原に伸びる舗装道をはずれ、荒れた農道を進む。偵察小隊がいる村は、ロシア軍陣地から4キロの地点にあった。すぐ先は、制圧されたヘルソンに通じる地域だ。
◆「砲撃で農村や町、住民を疲弊させ、制圧するのが狙いだ」
激しい砲撃で村の住民はすでに脱出していた。
「ここにいた人たちが、長年かけて建てた家だ。それが次々と壊されていく」
オレグ隊長(50)が言う。
「ロシア軍は民家だけでなく、牛しかいない平地にも見境なく砲弾を撃ち込む。農村や町、そして住民を疲弊させ、制圧するのが狙いだ」
小隊の任務は、小型のドローン(無人機)を飛ばして、前方のロシア軍の部隊配置、戦車、塹壕の位置を確認し、後方の砲兵隊に伝えることだ。
情報送信には、アメリカの実業家、イーロン・マスク氏がウクライナ支援で提供した衛星インターネットシステム「スターリンク」が使われていた。
◆呼吸が止まったかのような村
兵士のセルゲイさん(53)は、地元ミコライウの出身。いったん退役していたものの、2月の侵攻で再び軍に戻った。故郷を守りたいとの思いからだ。
一軒家が立ち並ぶ小さな農村を、セルゲイさんと歩いた。ブロックを積み上げた家屋、花柄模様が刻まれた壁。住民がいなくなった静かな村は、まるで呼吸が止まったかのようだった。
1週間前に砲弾が直撃した、という家は、屋根も壁も崩れ、焼け落ちていた。村を去らねばならなかった住民は、どれほどつらかったことか。
◆熾烈な砲撃戦
突然、ドーンと、重い音が響いた。
「砲撃だ!」
セルゲイさんが声を荒らげ、退避壕に駆け込む。農家の地下の納屋を補強して作ったものだ。再び大きな音が響いた。今度は、ウクライナ軍側の砲兵部隊の反撃だ。
この前線の砲兵部隊が使うのは、M777・155ミリ榴弾砲。アメリカから供与されたものだが、オレグ隊長は厳しい顔つきだった。
「ロシア軍はふんだんに砲弾があって、1日400発撃ち込んでくる。こちらは砲弾も足りず、40発も撃てない。限られた目標を狙うしかない」
偵察ドローンが撮影したロシア軍陣地の画像を、軍用タブレットで見せてもらった。戦車や自走ロケット砲がいくつも配置され、コンクリートのトーチカから長い塹壕が掘り進んであった。
欧米メディアでは、「ロシア軍の損失は甚大で、兵員不足で士気も低い」とも報じられる。だが、ウクライナ兵は、ロシア軍を決して侮ってはいなかった。
◆不条理な戦争と国際社会
「今、銃を持ったやつらが私たちの家に押し入って、家族を殺し始めたのに、『これで何とかして』と周囲の人たちが差し出したのは木の棒だ」
隊長は語気を強めた。
「各国が外交ゲームを繰り返し、市民と兵士が犠牲になってきた」
この戦いでは、双方の兵士に多数の犠牲が出ている。すぐ向こうの塹壕で身を潜めるロシア兵たち。ウクライナでの「作戦」を、どう自分に納得させ、戦っているのか。
21世紀のヨーロッパで起きた不条理な戦争。それを止めることができなかった国際社会。
兵士たちがふるまってくれたコーヒーが、苦く感じられた。無人になった村に、双方の砲撃の音だけが響き渡っていた。
戦火のウクライナ脱出 シリア青年、故郷の惨状重なる(写真8枚・地図)
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2022年9月27日付記事に加筆したものです)