<ウクライナ東部>「住民を必ず救う」ミサイル攻撃下で救助続けるポクロウシク警察医療隊(1)写真13枚
ウクライナ東部ドネツク州ポクロウシク(ポクロフスク)。ロシア軍が迫る町は、連日、ミサイル攻撃にさらされていた。この町で、住民の救助活動を続ける警察医療隊に密着した。取材は今年2月下旬。 (取材:玉本英子・アジアプレス)
◆「負傷住民を置き去りにはしない」
ポクロウシクに入ったのは、雪の舞う2月下旬。35キロ先の激戦地、アウディイウカはロシア軍の猛攻で陥落し、その後方の要衝の位置するポクロウシクには、ウクライナ軍の部隊が集結し、張り詰めた空気が漂う。街角には軍用車両が行き交い、兵士の姿が目立つ。
ポクロウシクはロシア軍の絶え間ない攻撃にさらされていた。ここではS-300やイスカンデルMなどのミサイルが多く、軍事施設や行政機関だけでなく、住宅地にも撃ち込まれる。
住民の犠牲があとを絶たず、救出に駆け付ける消防隊や警官も負傷している。ロシア軍は同じ場所に時間差を置いて、攻撃する手法を多用しているため、消防レスキュー隊は安全を確認してからでないと現場に入れない。だが、国家警察が編成した特別医療隊は、危険を顧みず駆け付け、救護活動にあたる。
ポクロウシクで警察医療隊を率いるのは、オレクサンドル・サヴェンコ隊長(36)だ。侵攻前はマリウポリの警察署にいたが、ロシア軍に制圧され、家族とともに脱出。ポクロウシクに転任した。
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ボディカメラで撮影された映像を、隊長が見せてくれた。
ミサイルの爆発で立ち上る黒煙、パトカーの割れたフロントガラス、苦痛に唸り声をあげながらハンドルを握る血まみれの手…。現場に入った隊員は負傷しながらも、住民の救出にあたる。
隊長は言う。
「ミサイル攻撃があると、その着弾現場にまず最初に駆け付ける。我々も危険にさらされるが、住民を置き去りにはしない。隊員全員がその思いを共有している」
◆幼い子どもが犠牲に
ミサイル攻撃や砲撃では、子どもも犠牲になっている。ルスラン・フバノフ隊員(32歳)は、昨年11月に起きた病院へのミサイル攻撃で、真っ先に現場に入り、瓦礫の下敷きになった生後6か月の女児を救い出した。
「罪のない子どもがどれだけ犠牲になっているか。そしてその命を救えなかったときの無念さは耐え難い」
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警察医療隊のパトカーには、子ども用の小さなボディアーマー(防弾ベスト)とヘルメットが積んであった。危険地域から子どもを避難誘導するのに使われる。アーマーは防弾防爆素材でできていて、オレンジ色になっている。子どもを避難させるときに見失わないようにするためだ。
「自分にも、幼い娘がいる。負傷する子どもを目にすると、自分の娘に重なります。幼い命を何としても守りたい」
フバノフ隊員は、子ども用ボディアーマーを手に、そう話した。
◆占領地域出身の警官も
警官の出動任務中の犠牲や負傷もあいついだため、医療隊は若い警官に医療講習の時間を設けている。
「出血時はまず止血。ひとつひとつの動作が生死を分けるから気を抜くな」
オレクサンドル・チヴェンコフ隊員(34)が、止血帯を見せながら厳しい口調で説明する。これまで警官が死傷した現場をいくつも見てきたからだ。昨年には、彼自身もミサイル攻撃で負傷した。
真剣な表情で講習を受ける若い警官たちのなかには、ロシア軍に制圧された町の出身者も少なくなかった。まだ占領地域に親族が残ったままという警官もいた。
警官になって3年目のマリア巡査は、マリウポリ出身だ。侵攻後、家族は国外に避難したが、自身は東部にとどまり警官の職務を続けることを選択した。
「この戦争は、心も体も打ちのめすほどの重い試練となった。危険は覚悟している。それでも住民のためになりたい、命を救いたいという思いは、以前よりも増している」
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警官たちは勝利を願いつつも、戦況悪化のなかで日に日に過酷さを増していることも実感していた。
ロシア軍はいま、ポクロウシク近郊3キロまで迫り、住民のほとんどが脱出した。進撃の速度は増しつつあり、いずれ市内で攻防戦となれば、バフムト、アウディイウカに続き、双方に多大な犠牲が出るうえ、町全体が深刻な破壊にさらされることになる。