「廃棄削減は国の仕事でセブンじゃない」1ヶ月60万円食品を捨て続けるオーナーに取材して感じる心の麻痺

2019年3月6日、コンビニ加盟店主(オーナー)で組織するコンビニ加盟店ユニオンは、セブン-イレブン・ジャパンに対し、団体交渉を申し入れた。だが、同社はこれを認めなかった。
コンビニ加盟店ユニオンが申し入れた点は弁護士ドットコムが報じた通り、4点ある。筆者は食品ロスをテーマにしているので、この4点のうち、2番目の「短縮営業であれば、デイリー商品(日持ちしづらい食品)の見切り販売を実施しなければならないのではないか」に着目したい。
なぜ見切り販売しないのか?
2009年6月に公正取引委員会から見切り(値引き)販売についての排除措置命令を受けたセブン-イレブン・ジャパン。見切り販売を禁止することはできない。
だが、なぜ全国のほとんどの加盟店が見切り販売をしないのか。それは見切りするより廃棄した方が本部の取り分が多くなるコンビニ会計があるからだ。契約時にそのことが組み込まれている。
見切り販売しているオーナーは「全国で1%」
全国で講演する中で、あるセブン-イレブンのオーナーは「廃棄を減らす上手いやり方があれば教えて欲しい」と、講演後に質問された。筆者が「見切りすればよいのでは?」と答えたら「そんなことしたらセブンは閉店だ!」と強い口調でおっしゃった。過去に見切り販売をして閉店に追い込まれたというオーナーの話もされた。
閉店せずに見切りを続けているお店もある。コンビニオーナー座談会でも、そのお話を伺った。
同じ店で、見切りしない一年間と、見切りをした一年間とで、損益計算書を11店舗、税理士に分析してもらった。その結果、年間400万円以上オーナーの取り分が増えていることがわかった。
「見切り狙いの客が来るからダメ」という人もいたが、そこだけに集中されないよう、曜日や時間や対象商品を分散させ、メリハリをつけて見切りをされているオーナーもいた。だが、そのようなオーナーは「全国で1%程度」(映画『コンビニの秘密』)に過ぎない。
社員から「廃棄を減らすのは国がやることでセブンがやることではない」と言われたオーナー
社員から「廃棄を減らすのは国の仕事。セブンがやることではない」と言われたオーナーもいた。
このオーナーは、1ヶ月あたり、平均で60万円分の食品を廃棄し続けてきた。心身に支障をきたし、医師にかかったところ、医師からは
コンビニなんて、どう考えてもおかしいから
出典:医師の言葉
と言われたそうだ。ある食品企業の経営陣も
セブンの廃棄はおかしい
出典:ある食品企業の経営陣
と話したと語った。
「365日24時間働いてオーナーが死のうが関係ない」
オーナーに伺った内容の一部を紹介する。
本部は、店なんかどうでもいい。店舗を増やせば増やすほど儲かる。新店が出ると40〜50万の売り上げ増になる。
うなぎもクリスマスケーキも万単位で買った。車のトランクいっぱいになった。
「廃棄が減るとみんな困るんだからセブンは貢献してる」と社員に言われた。
前年より多く入れないと(納品しないと)いけないという意味がわからない。唐揚げも4時間経つと捨てる。
パンは、当日期限のものを当日売ることはない。
時間管理の食品と日付管理の食品がある。時間管理のは、9時、11時、14時、15時、17時、21時、夜中の1時、夜中の3時、明け方の5時。
1日に弁当が3回来る。朝の9時過ぎ、夕方の16時30分、夜の21時30分。
夜中の1時に消費期限が切れるものはその2時間手前で棚から下げて捨てる。
社員は出世を狙っている。うなぎや恵方巻きの売り上げを競い合っている。
365日24時間働いて、オーナーが死のうが関係ない。自殺したオーナーや、うつ病のオーナーもいる。そういうのは表沙汰にならない。
中途解約すると違約金を取られる。
もう、フランチャイズの時代じゃない。
人間、心がないとダメ。
出典:あるオーナーの言葉
本部は「制限することはない」が「むやみな値下げも困る」
コンビニ本部は、当然、見切りを制限できない。が、「むやみな値下げも困る」と、筆者の取材で回答している。
「値引き(見切り)販売を容認」と言ってしまうと、”フリー” ”どうぞ”という感覚になってしまう。記事でそう書かれてしまうと、ちょっと…。我々が、加盟店に対して、値引き(見切り)販売を制限することはない。最終価格は、加盟店が決めるものだから。ただ、むやみな値下げをしてしまうのも困る。
コンビニというのは、お客さまが欲しいときに欲しいものがそろっているもの。価格に対しても信用してもらいたい。販売する上で、値下げを前提ということは良くなくて、売り切る努力をしてほしい。値下げを、積極的に勧めているわけではない。適正な売価で売るということ(が大事)。お客さまに、価格に対する不信感を持たせるのはよくない。」
稲盛和夫氏「他を利するところにビジネスの原点がある」
多くの方に尊敬され、影響を与えている、経営者の稲盛和夫氏。その著作には、利他の精神が多く登場する。
そもそも歴史を振り返っても、資本主義はキリスト教の社会、なかでも倫理的な教えの厳しいプロテスタント社会から生まれてきたものであることがわかります。
(中略)
事業活動においてはだれから見ても正しい方法で利益を追求しなければならず、また、その最終目的はあくまで社会のために役立てることにありました。
(中略)
「まことの商人は、先も立ち、われも立つことを思うなり」ーこれも梅岩(筆者注:江戸時代中期の思想家、石田梅岩:ばいがん)の言葉ですが、要するに、相手にも自分にも利のあるようにするのが商いの極意であり、すなわちそこに「自利利他」の精神が含まれていなくてはならないと述べているわけです。
出典:『生き方 人間として一番大切なこと』稲盛和夫著(サンマーク出版)
合法でも腑に落ちないことがはびこる土壌
経済評論家の鈴木貴博氏は、記事『セブンの営業時間騒動「合法だからOK」への疑問』で、
「政治家と官僚がいつまでも決めない」というところに、合法的であっても腑に落ちないことがはびこる土壌が存在し続けている
と述べている。
ここに来て、一部の政治家も動き始めている・・・かもしれない。
ことばのデザイナー、郷好文(ごう・よしふみ)氏は、拙著『賞味期限のウソ』を読み、次の言葉を語った。
見えてくる食品ロスの真の問題は「人」なのである。
知らないことは怖い。
だがもっと怖いのは
「知っていても売る」という心の麻痺である。
著者の目はそこに注がれている。
出典:郷好文氏の言葉
前述のオーナーの「人間、心がないとダメ」という言葉。
「心がない」って、もはやそれは人間じゃないのでは・・・?