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「物持ってこい!」3.11後に欠品許さない企業も 食品ロスを生む1/3ルール 熊本地震から4年の今も

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:つのだよしお/アフロ)

熊本地震から4年が経つ。毎年のように自然災害が発生する日本だが、食品業界の商慣習である「3分の1ルール」の納品期限や販売期限は、一部緩和されつつも、食料不足の災害時も守られている。店員の手間も少なくはない。

2016年4月、熊本地震の後の炊き出しでおにぎりを作る人たち(越智新氏撮影)
2016年4月、熊本地震の後の炊き出しでおにぎりを作る人たち(越智新氏撮影)

全国で食品ロスを大量に生んでいるコンビニ・スーパー・百貨店の商慣習「3分の1ルール」

3分の1ルールは、法律ではなく、食品業界の商慣習である。賞味期間全体を均等に3分割し、最初の3分の1が納品期限。ここまでにメーカーは納品しなければならない。次の3分の1が販売期限。ここまでに小売は売り切る。売り切れなかったら商品棚から撤去し、メーカーに返品(小売が買い取った場合は返品しない)もしくは廃棄する。これにより、年間1,200億円以上のロスが発生していた(現在は1,000億円未満まで削減)。

3分の1ルール。今ではロス金額は年間1,000億円を下回っている(流通経済研究所の情報をもとに筆者作成)
3分の1ルール。今ではロス金額は年間1,000億円を下回っている(流通経済研究所の情報をもとに筆者作成)

2019年にも、東京都内のある百貨店の地下(デパ地下)で、店員さんが、次々、商品棚からカゴへ食料品を落としていく姿を見た。ちょうと母親と一緒にいたのだが、店員さんが母に向かって「(まだ賞味期限前なので)いいと思うんですけどね・・・もったいないですよね」と話していた。これも3分の1ルールの「販売期限」が切れたから、店員さんが商品棚から撤去している事例だ。

2012年10月に、このルールを緩和し、食品ロスを減らすための「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」が農林水産省・流通経済研究所と食品業界団体の代表企業によって立ち上がった。以降、社会実験の結果も踏まえて、飲料と菓子に関しては、3分の1の納品期限を2分の1まで緩和(延長)しようと動いてきた。大手企業を中心に、飲料と菓子に関しては、3分の1ルール緩和を実施してきた。

2020年1月1日付の日本食糧新聞の記事でも、各社、納品期限を2分の1にする動きが活発化、と書いてある。

食品界には製造業、卸売業、小売業の各業種間で取り決められている3分の1ルールと呼ばれる商慣習がある。食品の賞味期限までを3分割し、製造日から賞味期限の3分の1までを納品期限とし、残り3分の2までを販売期限とするものだ。その商慣習を2分の1に緩和する動きが小売各社で活発化した。総合小売では19年にセブン&アイ・ホールディングスのほか、食品スーパー(SM)もライフコーポレーションやヤオコーが緩和を決めている。

出典:日本食糧新聞 2020年1月1日付

3分の1どころかもっと厳しい5分の1、6分の1を課し、震災後にも「物を持ってこい!」という企業も

しかし筆者の2020年初めの取材によれば、ある食品メーカー幹部が「3分の1どころか、5分の1、6分の1を課してくる会社もありますよ」と語った。ワーキングチームが立ち上がってから、もう7年以上も経っている、にもかかわらず。

そのメーカー幹部の方は、2011年3月の東日本大震災直後のことを語った。

東日本大震災が起こって、世の中がめちゃくちゃの中でも「物を持ってこい!」と言われましたからね。もう何も手に入らないのに。それでも「欠品は許さない」と言われました。

出典:SDGs世界レポート(3)震災直後メーカーに欠品禁じた企業 1/3ルール緩和から7年1/6課す企業も

取材のやりとりについては記事に書いたが、物がない震災直後に「欠品するな」とは、血も涙もないと感じた。

2016年4月、熊本地震の後の炊き出しの様子(越智新氏撮影)
2016年4月、熊本地震の後の炊き出しの様子(越智新氏撮影)

西日本豪雨で交通が寸断された時もコンビニで大量の食品廃棄

自然災害時に、通常時に強いたルールが足かせになり、食品ロスになる事態は、何度も起きている。

2018年7月の西日本豪雨の時も、コンビニへ食料品を運ぶトラックが、高速道路の寸断などにより、時間通りに到着できなかった。コンビニでは、弁当やおにぎり、サンドウィッチは、消費期限ギリギリまで売ることはできない。3分の1ルール、販売期限がその手前にあるからだ。企業や商品によって異なるが、1時間前や2時間前などに撤去して廃棄する。

コンビニオーナーへの取材によれば、店頭に置けるのは1時間だけで、売るひまもなく廃棄したそうだ。せめてこんな時くらい、3分の1ルールを撤廃して、消費期限ギリギリまで販売できれば、食品が救われたのに。

西日本豪雨でトラックの到着が遅れ、売るひまもなく捨てられた食品(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)
西日本豪雨でトラックの到着が遅れ、売るひまもなく捨てられた食品(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)

新型コロナ対応で飲食店ではご法度だった持ち帰りが主流に

なぜコンビニでは消費期限ギリギリまで売れないのか?本部の方に聞くと「お客様がご購入されてから家に持ち帰って食べるまでの時間を考えて」とのこと。

今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防対策による外出自粛で、飲食店は大きな打撃を受けている。以前だったら、店内で食事をし、手をつけずに残ってしまった食品を持ち帰ろうと頼むと、「保健所がうるさいから」「衛生上の理由で一律禁止」と言われる。筆者は何度も聞いて、何度も断られてきた。

それが、ここへ来て、まさかの持ち帰り解禁になった。それだけ、飲食店にとっては「外出自粛」の事態は死活問題ということ。食中毒を起こすのはもちろんリスクだが、何より経営が立ち行かなくなることの方がもっと大きなリスクだ。

海外と比べて食品衛生に気を配る日本で、こんなに大々的に持ち帰りOKの日が来るとは驚いた。

でも、それなら、コンビニ・スーパー・百貨店の「3分の1ルール」も、緩和できるのではないだろうか。

3分の1ルールの販売期限で棚から撤去され、廃棄されるコンビニの食品(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)
3分の1ルールの販売期限で棚から撤去され、廃棄されるコンビニの食品(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)

京都市は平和堂・イズミヤで期限ギリギリまで販売して食品ロスを10%減らすことができた

実際に、京都市(役所)と、市内のスーパーの平和堂とイズミヤが、1ヶ月間、消費期限・賞味期限ギリギリまで販売する実証実験を行っている。その結果、食品ロスは10%削減され、逆に売上は5.7%増加した。

売上増の結果については、この実験によるものなのか、そうでないのかはわからない。でも食品ロスが10%削減できたという結果は、販売期限を撤廃したことに起因すると考えられる。

WHOは、食料輸出国が輸出規制をかけることなどによる食料不足を警告している。

小売各社も食品ロス削減対策

小売各社も、食品ロス削減の対策を、新聞社の取材に対し、打ち出している。2020年1月1日付の日本食糧新聞には各社の取り組みが紹介されている。

サプライチェーン全体で削減を目指す動きも出た。イオンは19年12月11日に世界の大手小売企業などが参画する食品ロス削減構想「10×20×30食品廃棄物削減イニシアティブ」を日本で始動すると発表した。国内の食品メーカーなど取引先21社と取り組み、30年までに主要サプライヤーの食品廃棄物の半減を目標にする。

CVSでは加盟店にとって負担となる食品廃棄ロスを低減するため、各チェーンとも商品開発や販売で工夫をこらす。セブンイレブンは味と品質を担保した上で、デイリー商品の販売鮮度の長期化を進めている。24時間以上の販売鮮度のあるデイリー商品のアイテム数は87年にはほぼなかったが、19年には約70%に達するという。すでに惣菜、サラダ、一部のチルド弁当で従来よりも1日、サンドイッチや寿司でも8時間伸ばした。売り方でも販売期限の迫ったおにぎりや弁当など中食商品の購入客に電子マネー「ナナコ」でボーナスポイント5%分を付与する実験を19年10月30日から12月31日まで四国と北海道の店舗で検証し、20年春から全国に拡大する。

ファミリーマートは土用の丑、クリスマスケーキ、おせち、恵方巻などの季節商品を完全予約制度に切り替えた。土用の丑の日は19年度実績で、廃棄金額は前年比で8割も減らし、加盟店利益は7割も増加した。商品のロングライフ化では19年5月からの消費期限の延長で対象商品の廃棄額は3割減、9月からの販売期限の見直しで対象品の廃棄額を1割削減した。さらに加盟店と本部の廃棄ロス負担割合も本部比率を高め、廃棄率改善に向けた加盟店支援制度も開始する。

ローソンは子育て支援など社会貢献と食品ロス削減を結び付けた独自のプログラム「Another Choice」を沖縄県と愛媛県で19年6~8月に実験。ほかにも5月からフライドフーズの一部商品で販売許容時間を2時間延ばした。

出典:2020年1月1日付 日本食糧新聞

ただ、「これをやります!」という話は各社が取り上げ、よく報道されるのだが、「やってどうなったのか」という話は注意して目をこらさないと見逃してしまう。2月の恵方巻のロスについても、報じているメディアはわずかだった。

コンビニ・スーパー・デパ地下の現場は疲弊、せめて消費期限・賞味期限ギリギリまで販売を

コンビニ・スーパー・デパ地下で働く人たちは、外出自粛の要請がかかっても、「生活必需品の販売」ということで、今も働き続けている。その中で、毎日何度も表示を確認して商品棚から撤去しなければならない「販売期限」の管理は非常に労力がかかっている。あるスーパーでは「毎日1時間以上かかる」と話していた

食料自給率37%の日本は、多くの国から多額のコストと多くのエネルギーを費やして食料を輸入している。その輸入食品も含め、食べられるのに捨てている食品ロスは年間643万トン、東京都民が一年間に食べる量くらいある(東京都環境局HPより)。この食品ロスの削減を、今までにも増して進める必要がある。2012年から7年かけて、一部の企業と商品群(飲料・菓子)で進んだ「3分の1ルールの緩和」とそのほかの対策を、よりいっそう、本気で進めなければならない。

参考情報

SDGs世界レポート(3)震災直後メーカーに欠品禁じた企業 1/3ルール緩和から7年1/6課す企業も

「廃棄1時間前に入ってきたパン、ほとんど捨てた」食料が運ばれても西日本豪雨被災地のコンビニが嘆く理由

「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増

テイクアウトの横で同じ食べ物の持ち帰りを禁ずる飲食店の不思議

「海老の天ぷらとおはぎはOKで蕎麦はダメ」という不思議

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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