「物持ってこい!」3.11後に欠品許さない企業も 食品ロスを生む1/3ルール 熊本地震から4年の今も
熊本地震から4年が経つ。毎年のように自然災害が発生する日本だが、食品業界の商慣習である「3分の1ルール」の納品期限や販売期限は、一部緩和されつつも、食料不足の災害時も守られている。店員の手間も少なくはない。
全国で食品ロスを大量に生んでいるコンビニ・スーパー・百貨店の商慣習「3分の1ルール」
3分の1ルールは、法律ではなく、食品業界の商慣習である。賞味期間全体を均等に3分割し、最初の3分の1が納品期限。ここまでにメーカーは納品しなければならない。次の3分の1が販売期限。ここまでに小売は売り切る。売り切れなかったら商品棚から撤去し、メーカーに返品(小売が買い取った場合は返品しない)もしくは廃棄する。これにより、年間1,200億円以上のロスが発生していた(現在は1,000億円未満まで削減)。
2019年にも、東京都内のある百貨店の地下(デパ地下)で、店員さんが、次々、商品棚からカゴへ食料品を落としていく姿を見た。ちょうと母親と一緒にいたのだが、店員さんが母に向かって「(まだ賞味期限前なので)いいと思うんですけどね・・・もったいないですよね」と話していた。これも3分の1ルールの「販売期限」が切れたから、店員さんが商品棚から撤去している事例だ。
2012年10月に、このルールを緩和し、食品ロスを減らすための「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」が農林水産省・流通経済研究所と食品業界団体の代表企業によって立ち上がった。以降、社会実験の結果も踏まえて、飲料と菓子に関しては、3分の1の納品期限を2分の1まで緩和(延長)しようと動いてきた。大手企業を中心に、飲料と菓子に関しては、3分の1ルール緩和を実施してきた。
2020年1月1日付の日本食糧新聞の記事でも、各社、納品期限を2分の1にする動きが活発化、と書いてある。
3分の1どころかもっと厳しい5分の1、6分の1を課し、震災後にも「物を持ってこい!」という企業も
しかし筆者の2020年初めの取材によれば、ある食品メーカー幹部が「3分の1どころか、5分の1、6分の1を課してくる会社もありますよ」と語った。ワーキングチームが立ち上がってから、もう7年以上も経っている、にもかかわらず。
そのメーカー幹部の方は、2011年3月の東日本大震災直後のことを語った。
取材のやりとりについては記事に書いたが、物がない震災直後に「欠品するな」とは、血も涙もないと感じた。
西日本豪雨で交通が寸断された時もコンビニで大量の食品廃棄
自然災害時に、通常時に強いたルールが足かせになり、食品ロスになる事態は、何度も起きている。
2018年7月の西日本豪雨の時も、コンビニへ食料品を運ぶトラックが、高速道路の寸断などにより、時間通りに到着できなかった。コンビニでは、弁当やおにぎり、サンドウィッチは、消費期限ギリギリまで売ることはできない。3分の1ルール、販売期限がその手前にあるからだ。企業や商品によって異なるが、1時間前や2時間前などに撤去して廃棄する。
コンビニオーナーへの取材によれば、店頭に置けるのは1時間だけで、売るひまもなく廃棄したそうだ。せめてこんな時くらい、3分の1ルールを撤廃して、消費期限ギリギリまで販売できれば、食品が救われたのに。
新型コロナ対応で飲食店ではご法度だった持ち帰りが主流に
なぜコンビニでは消費期限ギリギリまで売れないのか?本部の方に聞くと「お客様がご購入されてから家に持ち帰って食べるまでの時間を考えて」とのこと。
今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防対策による外出自粛で、飲食店は大きな打撃を受けている。以前だったら、店内で食事をし、手をつけずに残ってしまった食品を持ち帰ろうと頼むと、「保健所がうるさいから」「衛生上の理由で一律禁止」と言われる。筆者は何度も聞いて、何度も断られてきた。
それが、ここへ来て、まさかの持ち帰り解禁になった。それだけ、飲食店にとっては「外出自粛」の事態は死活問題ということ。食中毒を起こすのはもちろんリスクだが、何より経営が立ち行かなくなることの方がもっと大きなリスクだ。
海外と比べて食品衛生に気を配る日本で、こんなに大々的に持ち帰りOKの日が来るとは驚いた。
でも、それなら、コンビニ・スーパー・百貨店の「3分の1ルール」も、緩和できるのではないだろうか。
京都市は平和堂・イズミヤで期限ギリギリまで販売して食品ロスを10%減らすことができた
実際に、京都市(役所)と、市内のスーパーの平和堂とイズミヤが、1ヶ月間、消費期限・賞味期限ギリギリまで販売する実証実験を行っている。その結果、食品ロスは10%削減され、逆に売上は5.7%増加した。
売上増の結果については、この実験によるものなのか、そうでないのかはわからない。でも食品ロスが10%削減できたという結果は、販売期限を撤廃したことに起因すると考えられる。
WHOは、食料輸出国が輸出規制をかけることなどによる食料不足を警告している。
小売各社も食品ロス削減対策
小売各社も、食品ロス削減の対策を、新聞社の取材に対し、打ち出している。2020年1月1日付の日本食糧新聞には各社の取り組みが紹介されている。
ただ、「これをやります!」という話は各社が取り上げ、よく報道されるのだが、「やってどうなったのか」という話は注意して目をこらさないと見逃してしまう。2月の恵方巻のロスについても、報じているメディアはわずかだった。
コンビニ・スーパー・デパ地下の現場は疲弊、せめて消費期限・賞味期限ギリギリまで販売を
コンビニ・スーパー・デパ地下で働く人たちは、外出自粛の要請がかかっても、「生活必需品の販売」ということで、今も働き続けている。その中で、毎日何度も表示を確認して商品棚から撤去しなければならない「販売期限」の管理は非常に労力がかかっている。あるスーパーでは「毎日1時間以上かかる」と話していた。
食料自給率37%の日本は、多くの国から多額のコストと多くのエネルギーを費やして食料を輸入している。その輸入食品も含め、食べられるのに捨てている食品ロスは年間643万トン、東京都民が一年間に食べる量くらいある(東京都環境局HPより)。この食品ロスの削減を、今までにも増して進める必要がある。2012年から7年かけて、一部の企業と商品群(飲料・菓子)で進んだ「3分の1ルールの緩和」とそのほかの対策を、よりいっそう、本気で進めなければならない。
参考情報
SDGs世界レポート(3)震災直後メーカーに欠品禁じた企業 1/3ルール緩和から7年1/6課す企業も
「廃棄1時間前に入ってきたパン、ほとんど捨てた」食料が運ばれても西日本豪雨被災地のコンビニが嘆く理由
「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増