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人の暮らしを守るのが医療なのに、医療を守るために人の暮らしが犠牲になるニッポン

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(601)

葉月某日

 東京五輪開会式の日の東京の新型コロナウイルス感染者数は1359人だった。ところが五輪が始まると感染者数は急増して5000人を超え、それと同時に全国の感染者数も過去最高を更新するなど「デルタ株の猛威」が連日報道されている。

 フーテンは昨年3月にWHO(世界保健機構)が新型コロナウイルスのパンデミック(世界大流行)を宣言した時から、日本のメディアが感染者数だけをピックアップして報道する姿勢を批判してきた。それが病気の実態を表しているとは思えないからだ。

 検査を増やせば感染者数は増え、検査を減らせば感染者数は減る。それだけの話である。そして感染者の多くは無症状なので病気と言えるかどうか分からない。ただ他人にうつす可能性があるため他人との接触を制約する必要はある。

 しかしメディアは感染者数をグラフにして連日これでもかと言わんばかりに恐怖を煽った。政治権力の動向を取材してきたフーテンには、世界中の権力者が新型コロナウイルスの到来をチャンスと捉えていることが手に取るように分かる。人民が恐怖に震える状況ほど権力者にとって都合の良いものはないからだ。

 民主主義政治とは厄介なもので、権力者が理想を実現するには想像するよりはるかに膨大な時間と手間がかかる。しかし人民が恐怖に震える状況になれば、平時にはできなかったことが可能となり、コロナとの戦いに便乗して権力者の望みを実現することができる。

 そこで人民を恐怖に陥れる道具となるのがメディアだ。メディアにとっても人民を恐怖に陥れるメリットは大きい。恐怖を煽れば煽るほどテレビ視聴率は上がり、新聞の発行部数も増える。戦前の新聞が国民に戦争を煽ったのも、その方が商売になったからだ。

 フーテンはメディアが感染者数だけを表示して騒ぎ立てるのではなく、感染者数と死者数を人口比で捉え、またインフルエンザとの比較を同時に公表し、冷静にこの病気の実態を示すべきだと主張したが、メディアの報道姿勢はまったくその逆だった。

 さらに言えば、メディアが報ずる数字は果たして裏取りしたものか。政府の発表を垂れ流しているだけではないか。厚労省が統計数字をごまかした例もあり、フーテンは政府の発表を素直に信ずる気になれない。そこでフーテンは実態に近いと思われる死者数だけを信ずることにし、感染者数で状況判断することをやめた。

 新型コロナウイルスによる死者数はこの1年半で1万5千人余りである。人口比で言えばおよそ0.0001%に当たる。インフルエンザ関連の死者数とそれほど変わらない。因みにこれまでのコロナ感染者数は人口比で0.7%と言われ、99%の国民は感染を経験していない。

 にもかかわらず人々は昨年3月以来恐怖におびえ、学校の一斉休校が要請されると文句も言わずにそれに従い、「自粛警察」となった市民が他人の暮らしを脅かすことまで起きた。それはとりもなおさず権力とメディアが恐怖を煽ったからだ。

 米国の惨状を見せて「今日のニューヨークは明日の東京」と医者に言わせ、「42万人が死ぬ」という報道もあった。しかし東京はニューヨークにならなかったし、42万人が死ぬこともなかった。そのため人民を恐怖に陥れる効果は次第に薄れていく。

 人民の恐怖が薄れて困るのは権力者とその片棒を担ぐメディアと医療業界である。するといつごろからかコロナ禍による「医療崩壊」が言われだした。病床がひっ迫し、このままでは患者が入院できず、自宅で死ぬしかないとの報道がしきりに流れるようになる。

 日本の病床数は世界一と言われる。そして感染者数も死者数も日本とは段違いに多い欧米で「医療崩壊」が起きた話を聞かない。それなのになぜ日本は「医療崩壊」するのか。コロナとは関係ない別の事情があるからではないかとフーテンは素朴な疑問を持った。

 そう思っていると、現役の精神科医である和田秀樹氏のブログがその事情を教えてくれた。和田氏によれば、コロナは感染症法でエボラ出血熱並みの1類と2類の間に分類されている。患者を引き受ける病院には厳しい規制がかかるが、その見返りに多額の補助金も支払われる。

 一方で感染者の中での致死率は0.1%から0.2%とインフルエンザ並みである。それならインフルエンザと同じ5類に分類すれば、一般の病院も患者を引き受けることができる。それで病床のひっ迫は解消されるという。医療従事者のワクチン接種は終わっているので、コロナを普通の病気として受け入れれば、感染者が増えても対応できるというのだ。

 何がそれを阻んでいるか。和田氏は利権だという。1類から2類の間に分類されると厳しい規制があって、人員も設備も相当のものを用意しなければならない。しかし一方で患者が入院していてもしていなくても、1ベッド月額900万円が支給されるという。

 患者が入院していなくとも大金が支払われる仕組みは、病院にとっておいしい話である。コロナを引き受けている病院はコロナをインフルエンザ並みの5類に分類することに抵抗する。

 そのため感染症学者だけでなく、しかるべき設備を持った大学の医者全体がコロナは恐ろしい病気だと言い続ける構造になってしまったと和田氏は言う。

 そしてワクチン接種を勧めていた医者が、変異株が出てくるとワクチンの効果が薄れるとか、ワクチンを2回打っても安心とは言えないと言い始め、コロナ禍を終わらせなくする方向に動いているというのだ。

 和田氏の指摘が本当なら恐ろしい話である。大学の医学部教授がテレビで引っ張りだこになる日本では、彼らの利権のためにコロナ禍がいつまでも収まらないかもしれないのだ。「人の命は大事だ」と言われると誰も反論できない。それをいいことにその構造が続いていく可能性がある。

 今月初めに日本記者クラブで会見した人類学者の磯野真穂氏は、「人々の暮らしを守るのが医療だが、今や医療を守るために人々の暮らしが犠牲になる」と言った。コロナ禍が始まってから日本の自殺者は増え、3万人を超えたという。コロナのせいかどうか因果関係は分からない。しかし自殺者はコロナの死者数の倍以上だ。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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