欧州王者の憂鬱。カゼミロのユナイテッド移籍で考える、ビジネスとフットボールの整合性。
2021−22シーズン、チャンピオンズリーグで優勝した。そのレアル・マドリーが、次なるチャレンジに向かう。
現地時間25日に今季のチャンピオンズリーグの抽選会が行われた。ライプツィヒ、シャフタール・ドネツク、セルティック。それが、マドリーがグループFで激突する相手だ。
「これはチャンピオンズリーグだ。1試合1試合が、非常に難易度の高いゲームになる」とはエミリオ・ブトラゲーニョの言葉である。マドリーのスポークスマン的な立場のブトラゲーニョとしては、敬意を込めたコメントをせざるを得なかった。だがマドリーのグループ突破は固いと見ていいだろう。
ただ、問題は「その後」である。「その後」とはつまり、ベスト16、ベスト8、ベスト4での試合だ。
■カゼミロの不在
ビッグマッチで、重要になるのが守備の職人の存在だ。
マドリーは今夏、カゼミロを放出している。マンチェスター・ユナイテッドから移籍金7000万ユーロ(約98億円)+1500万ユーロ(約21億円)のオファーが届き、移籍が成立した。
しかしながら、カゼミロの抜けた穴は大きい。
30歳のプレーヤーを、7000万ユーロという高値で売却した。それをポジティブに捉える向きはある。または「マドリーというのはそういうクラブだ」という、固定概念がある。
とはいえ、カゼミロの放出、その損失は計り知れない。
近年、マドリーはカゼミロ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロースが盤石の中盤を築いてきた。「CMK」と称された3選手は阿吽の呼吸でピッチ内を駆け回り、チームのバランスを整えていた。
カゼミロの売却は、その「フォルム」を失うということに他ならない。カゼミロ、モドリッチ、クロースの連結部分を、自ら解体するようなものだ。
そして、それは「どこにでもある中盤」ではなかった。唯一無二の中盤であり、チャンピオンズリーグで4度の優勝を誇る中盤だったのだ。
そのフォルムは、連携は、お金では買えない。黄金時代のバルセロナのセルヒオ・ブスケッツ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデスがそうであったように、その構築に必要だったのは時間だ。
CMKは2015−16シーズン途中からマドリーでトライアングルを形成してきた。長い歳月をかけて醸成されたCMKにおいて、カゼミロは異常な理解力と戦術眼でモドリッチとクロースをサポートした。
別の角度から問題を炙り出すのであれば、焦点を当てるべきはラ・リーガだ。スペイン王者の、欧州王者のレギュラーの選手が、プレミアリーグの1チーム(今季のユナイテッドはチャンピオンズリーグにさえ出場しない)に引き抜かれた。
無論、ユナイテッドは歴史と伝統のあるクラブだ。だが、競技レベルで言えば、現在のユナイテッドとマドリーでどちらが高いのかは明白だろう。
それでも、カゼミロはユナイテッドを選んだ。確かに、年俸が倍額(推定年俸500万ユーロ→1000万ユーロ)になる、という好条件の契約だった。「お金で移籍を決めたと言っている人は本当の僕を知らない。新しい挑戦を欲していた」とはカゼミロの弁である。だがラ・リーガとチャンピオンズリーグの連覇を目指すのと、プレミアリーグの上位進出とヨーロッパリーグの試合を天秤にかけた時、後者に傾くというのは、冷静に考えて切ない現実だ。
■補強とプロバガンダ
カゼミロの獲得は、ユナイテッド側からすれば「プロバガンダ」だ。要は、大物選手、欧州王者の主力級の選手を引っ張ってくることで、クラブの「本気度」を示すのである。我々は本気でタイトルを狙っている。ファンに対する、そういったメッセージだ。
スペインでは、バルセロナがこれと非常に似た手法を使っている。今夏、ロベルト・レヴァンドフスキ、ラフィーニャ、ジュール・クンデらを確保して、大型補強を敢行した。しかし、バルセロナの場合、資産を切り売りしてキャッシュに換えている。プレミアリーグで戦うユナイテッドとは、そもそも資金力が違うのだ。バルセロナを批判したいわけではない。ここでもまた、ラ・リーガとプレミアのオーガナイズ力と資金力の差を見せつけられている、という話だ。
カゼミロの移籍が示唆するものは大きい。ディア・ウノーーカゼミロ不在の一日目、ラ・リーガ第2節セルタ戦で、マドリーが4−1と快勝したからという理由で、この先も大丈夫だと考えるのは浅はかでしかない。その試合でのオウリエン・チュアメニのパフォーマンスを過剰に称えるのも、現実から目を背けたい人たちのサプリメントに過ぎない。
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