日本のレストランがアジアで1位の快挙! スターシェフが語るトップになれた意外な理由とは?
アジアのベストレストラン50
2022年3月29日にアジアのベストレストラン50が発表されました。アジアのベストレストラン50とは、2013年に始まったレストランのランキングです。
2002年に開始された世界のベストレストラン50から派生し、アジアの6地域318人の審査員が10票ずつを投じ、1位から50位までが決まります。
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年に1回の美食アワードで、平常時であれば大々的にセレモニーが行われます。今年もコロナ禍のため、大規模なセレモニーは行われませんでしたが、パレスホテル東京で授賞式が開催されました。
日本のレストランが1位
授賞式では、未だかつてないほどに盛り上がりをみせていましたが、それには理由があります。
なぜならば、東京の「傳(デン)」が1位に輝き、初年度に「Narisawa」が1位になって以来、日本のレストランが久しぶりに頂点に輝いたからです。加えて、日本のレストランが50位以内に、国別で最多の11店ランクインしました。
ランクインした日本のレストランは次の通りです。
2022年アジアのベストレストラン50
1位 傳/東京
3位 Florilège(フロリレージュ)/東京
6位 La Cime(ラシーム)/大阪
11位 茶禅華(サゼンカ)/東京
13位 Ode(オード)/東京
14位 Villa Aida(ヴィラ アイーダ)/和歌山
15位 Narisawa(ナリサワ)/東京
17位 Sézanne(セザン)/東京
36位 La Maison de la Nature Goh(ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ)/福岡
42位 Été(エテ)/東京
43位 cenci(チェンチ)/京都
「傳」はアジアのベストレストラン50で、2016年に37位として初登場し、2017年に11位、2018年に2位、そして2019年から2021年は3位となりました。
ここ最近は毎年、美食家やジャーナリスト、メディアの多くが1位として挙げていただけに、それが現実のものになったという印象を受けます。
「傳」のオーナーシェフである長谷川在佑(ハセガワザイユウ)氏は、この快挙をどのように考えているのでしょうか。インタビュー全文を紹介します。
長谷川在佑氏のインタビュー
Q:アジアのベストレストラン50で1位となった感想はいかがですか?
長谷川氏:1位になれるとは全然思っていなかったので、正直びっくりしました。ここ最近は2位や3位になっていましたが、他はすごいレストランばかりなので、まさか1位になるとは考えていませんでしたね。1位になったのは嬉しいことですが、ナンバーワンよりもオンリーワンを目指していきたいです。
Q:なぜ1位になれたと考えていますか?
長谷川氏:コロナ禍の中で海外に行けないので、これまでよりも応援したいレストランに投票されたのではないでしょうか。
「傳」は完璧ではないからこそ、みなさんが応援してくださっているのだと思います。スポーツでも、あまり強いチームではないからこそ、一生懸命に応援して、勝つと嬉しくなりますよね。
Q:どういったところが完璧ではないのですか?
長谷川氏:独立してから15年経ちますが、毎日いつもドキドキしています。お客様も毎日違うので、本当に喜んでいただいているのかどうか、心配になるんですね。完璧にできたと思った日は、1日たりともありません。あとで振り返ると、もっとこうした方がよかったかなと反省することがあります。
Q:1位になったことについて、周りの反応はいかがですか?
長谷川氏:お客様はみんな喜んでくださっていますね。自分が「傳」を応援していたのは間違いではなかったといっていただいています。
他のシェフも一緒に喜んでくれていますね。初回以来、久しぶりに1位になったことだけではなく、日本料理が初めて1位になったことも、非常に意義があると思います。
Q:様々なレストランガイドがありますが、どのように感じていますか?
長谷川氏:いくつものレストランガイドがあるのは、よいことだと思います。様々な評価基準があることで、多くの方に興味をもっていただき、知っていただける機会になるからです。
ただ、料理人が星やランキングを目標にするのはよいですが、あまり気にしすぎないのが大切だと思います。なぜならば、料理をつくる目的は、お客様に喜んでいただくためだからです。お客様に喜んでいただいた延長線上に評価はあるので、いつもお客様をみていたいですね。
Q:コロナ禍で何か思うことはありますか?
長谷川氏:コロナによって、改めてレストランがどのような場所であるかを考える機会になったと感じます。出掛けられず、会いたい人に会えない時期が続きました。それによって、いつどのレストランに誰と行き、そこでどのように過ごそうかと、真剣に考えるようになったのではないでしょうか。
Q:現在のガストロノミーについてどのように考えていますか?
長谷川氏:色々なものが出し尽くされたのではないでしょうか。高級食材を贅沢に使えばよいという時代でもなく、自然との調和にも配慮していかなければなりません。今は過渡期にあるのだと思います。
新しい調理法や料理が出てくれば、古い調理法や料理のよさが見直されます。昔のものだけでは新しい発見はできないので、新しいものがどんどん出てくればよいですね。新しいものも古いものも全て必要だと思います。
Q:ファインダイニングについてはどう考えていますか?
長谷川氏:ファインダイニングでは素晴らしい体験ができます。ただ、4万円、5万円とかかってしまうので、みなさんが行けるわけではありません。
ファインダイニングがあって、カジュアルダイニングがあって、ローカルフードがあって、色々な食体験ができた方がいいですね。
Q:どうして「傳」は家庭料理を謳っているのですか?
長谷川氏:家庭料理にも色々ありますが、共通しているのは一番リラックスして食べられることです。日本料理は作法が難しくてハードルが高いので、日本人でも緊張してしまいますよね。それはそれで素晴らしい食文化ですが、ファンをつくるのは難しいと感じています。
「傳」が1位になったことで、若い料理人たちに、必ずしも格式高い日本料理ではなくて家庭料理でもいいんだと、真似してもらえたら嬉しいですね。
Q:料理人に大切なことは何ですか?
長谷川氏:お客様に、今日一日が幸せだった、元気になれたと思っていただけることではないでしょうか。レストランはこれから、ますますそういった場所になっていくと思います。
これが正解だという方法はありません。ただ、お客様に喜んでもらうためにやっている料理人は全て正解に辿り着けると思います。
Q:若い料理人に対してアドバイスはありますか?
長谷川氏:自信をもってもらいたいですね。何が向いているか、向いていないか、1年くらいではわかりません。5年くらいは続けてもらいたいですね。
自分がつくっている料理を誰に食べてもらいたいかを考えるのも大切です。家庭料理がおいしい理由は、知っている人に料理をつくっているからです。誰かのことを想いながらつくる料理は、おいしくなるのだと思います。
Q:料理のアイデアはどのようにして思いつきますか?
長谷川氏:あまり難しくは考えていません。どのようにすれば、お客様が喜んでくださるのかだけを考えていますね。なので、「傳」ではお客様によって料理の内容やプレゼンテーションが違っています。
Q:スタッフにはどのように接していますか?
長谷川氏:みんな家族のようなものなので、いらっしゃるお客様のことなど、何でも包み隠さずに話しています。若いスタッフから教えてもらうこともたくさんありますね。
スタッフの成長が楽しみで、お客様に名前を覚えてもらえるようにと、いつもいっています。料理の技術は少しずつ学んでいけばよくて、失敗してしまったら、つくり直せばいいんです。
それよりも、お客様を幸せにして、ファンになってもらうことが大切だと思います。人に興味がもてなければ、よい料理をつくったり、よいサービスをしたりすることはできません。
Q:現在の飲食業界をどう考えていますか?
長谷川氏:つくり手も食べ手も、もっとコミュニケーションが必要ではないでしょうか。互いにもっと距離を縮めていって、色々と話し合える関係が大切です。お客様が「これがよかったね」「もっとこうした方がいいよ」と気軽にいえて、料理人が「このように考えてつくりました」「次はこういうものをご用意します」と率直にいい合えるといいですね。
私が店をオープンした頃は、まだ若かったこともあり、お客様に色々なことをいっていただきました。それを励みにして、次回はもっと喜んでいただけるようにと励みましたね。お互いに信頼関係があると、料理人はもっとおいしいものがつくれ、お客様はもっとおいしいものが食べられます。お客様もレストランも、みんなで一緒に成長できたら嬉しいですね。
Q:興味があることは何ですか?
長谷川氏:休日はいつも、子供の頃からやっている釣りをしていますね。ただ、食材に興味があるから釣りをしているわけではありません。生産者の方を信頼しているので、食材はお任せして送っていただいていますね。
昔から、食材や料理よりも、人に興味がありました。人に興味があるからこそ、来てくださったお客様に何かをつくろう、楽しく過ごしていただこう、幸せな気分で帰っていただこうと頑張ることができます。
Q:料理人の原点はどこですか?
長谷川氏:母が芸者で、料理の手土産をよくいただいていました。小学生の頃から名店の料理を食べていたこともあって、食べるのが好きになりましたね。
そこから料理に興味をもちましたが、料理をつくることよりも、つくった料理を食べてもらうのを見ている方が好きですね。料理そのものには自信がないので、おいしいといわれると安心します。
Q:これから先は何を考えていますか?
長谷川氏:特に考えていないので、難しい質問ですね。いつも今日一日を精一杯にやって、目の前にいらっしゃるお客様を幸せにすることだけを考えています。毎日それを繰り返すだけです。
18歳の時から料理をつくっていて、2008年に29歳で店をオープンしました。今年で15年目になりますが、15年目という意識はありません。15回目の1年目を体験している感じですね。毎年お客様も食材も違うので、この1年がチャレンジという意気込みでやっています。
人と人とのつながり
1803年にグリモ・ドゥ・ラ・レニエールとブリヤ=サヴァランが食味審査委員会を発足しました。その食味審査委員会が発刊した「食通年鑑」が、近代におけるレストランガイドの嚆矢。
以来、多くの料理人が、レストランのガイドやアワードで、いかに多くの星を得られるか、いかに高いランクに位置できるかと鎬を削ってきました。しかし、長谷川氏の根本にあるのは評価への固執ではなく、人への興味、そしてゲストの幸せです。
「傳」という漢字は「伝」の旧字であり、人と人とのつながりも意味していますが、長谷川氏のような考え方をもった料理人がアジアで最高峰のシェフになったこと、そしてそれが日本料理であったことに、我々は大きな誇りをもちたいです。