暑かった名残り 台風1号がタイを通ってインド洋へ
一番早く発生した台風1号
平成31年(2019年)1月1日15時、南シナ海西部で台風1号が発生しました。
この、台風1号は気象庁が台風の統計をとり始めた昭和26年(1951年)以降で、最も早く発生した台風です(表)。
台風1号が発生したとき、「正月なのにもう台風1号が…」と感じた人が多いと思いますし、マスコミ等でもそう取り上げられました。
しかし、「正月なのにまだ台風が…」といったほうが適切な表現です。
というのは、台風は暖かいと多く発生するということから、その年の台風シーズンは、北半球の気温が1番低くなって、これから暖かくなる2月下旬から始まるといってよく、1月は前年のシーズンの続きだからです。
多くの年は、1月に1個発生したあとはしばらく発生することがなく、2個目は4月から5月に発生しています。
そんななか、平成31年(2019年)1月に台風が発生したのです。
世界各地で気温が高かった平成30年(2018年)の名残ではないかと思います。
南シナ海西部の台風
南シナ海南部は、インドシナ半島が南に延びているため、北緯10度以下という低緯度の海です。このため、地球の自転の影響を受けにくく、渦を巻きにくいために台風がほとんど発生・発達しない海域です。
南シナ海西部で台風が発生するのは、6~7年に1回くらいですが、その多くは、10月から11月の発生です。
海面水温が低くなってる冬は、ほとんど発生しません。
ただ、南シナ海西部の台風は、広い範囲から水蒸気を集めることができないせいか、あまり発達しません。
今回の台風1号も、最盛期が1月4日の992ヘクトパスル、最大風速25メートル、最大瞬間風速35メートルと、極端には発達しません(図1)。
台風が勢力を保ったまま太平洋(広義)からインド洋に行くことができるのは、台風が南シナ海西部で発生し、タイランド湾を通ってマレー半島北部を通過する場合です。
南シナ海西部以外の低緯度で発生した台風は、西へ進みながら若干北上しますので、インドシナ半島に上陸して弱まります。
昭和26年(1951年)以降で、マレー半島を越えてインド洋にいったのは6台風と、ほぼ10年に1回くらいの割合です。南シナ海西部で台風が発生すると、かなりの確率でインド洋に行きます。
昭和27年(1952年)台風18号(10月)
昭和37年(1962年)台風25号(11月)
昭和47年(1972年)台風29号(11月)
平成元年(1989年)台風29号(11月)
平成4年(1992年)台風29号(11月)
平成9年(1997年)台風26号(11月)
平成31年(2019年)の台風は、1月に初めてマレー半島を越えてインド洋にいった台風になるかもしれません。
なお、マレ一半島北部の上空はいつも東風が吹いている偏東風帯です。
このため、台風のような熱帯じょう乱は、東から西へしか進めないことから、インド洋のサイクロンが太平洋に入ってくることはありません。
タイランド湾で一番強い台風
南シナ海西部の台風は、ほとんど発達しませんが、まれには発達することもあります。
平成元年(1989年)の台風29号は、最低中心気圧960ヘクトパスカル、最大風速40メートルまで発達しています(図2、図3)。
台風がめったにこないタイランド湾沿岸では、台風の備えが十分ではありません。
米系の石油会社所有の天然ガス掘削船シークレスト号がタイランド湾の南西海上で転覆し乗組員97人全員が行方不明となるなど、タイやべトナムの貨物船や多数のタイの小型漁船が相次いで遭難しています。
シークレスト号は台風上陸の前日(11月4日)にタイ気象省の再三にわたっての警告を無視して出航し、漁船の場合も生活のために台風の接近を告げる気象情報を無視し出漁したことが大きな被害につながったとされています。
11月8 日のバンコク発の時事によれば、「8日までの公式集計で、約200名の死者が確認され、南部海上ではまだ400名以上の漁民が行方不明となっている……」。
太平洋台風センター
気象庁では、日本の国際社会における立場と責任から、太平洋台風センターを作り、東アジアの9力国・地域(中国、香港、韓国、フィリピン、タイ、マレーシア、カンボジア、ベトナム、ラオス) の気象機関に対して、台風に関する情報を提供しはじめたのが平成元年(1989年)7月です。
平成元年(1989年)の台風29号でも、台風第29号についての台風解析報と台風予報(48時間先まで)、コンピュータを用いた予報(数値予報)を、電報という形で、つまり文字情報で提供しています(図4)。
図4はタイ等に提供された、11月2日21時の観測値をもとに計算した60時間先までの数値予報の結果です。
図中の星印が24時間後の実際の台風の位置ですので、ほぼ予想通りでした。
太平洋台風センターは、その後も拡充が続けられ、本格的に台風に関する情報などの提供を行い、国際的な技術移転や研修などを行っています。
これにより、
・東アジア諸国の防災対策の向上に寄与
・東アジア諸国の防災対策等社会基盤の強化により日本の繁栄に寄与
・海上交通や航空路の安全性向上
・東アジアを中心とした広域的な観光の安全・利便の増進に寄与
・日本の平和外交の一助
といった効果が期待されています。
タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供。
図1 気象庁ホームページをもとに著者作成。
図2、図3、図4の出典:饒村曜(平成2年(1990年))、タイランド湾で発生した台風、雑誌「気象」、日本気象協会。
表の出典:気象庁資料をもとに著者作成。