大人の日帰りウォーキング 夫婦で同じ趣味始めるけれど、楽しみ方の違いに気付きストレスを感じる話
歩いて旅をする。
どのように歩く旅を楽しむかはその人次第と聞いたことを思い出す。
距離を歩くのが得意な人もいれば、史跡をじっくり楽しみながら歩く人もいる。江戸時代に造られてからの長い間、街道沿いの宿場には人々が住み、多くの史跡が残されている。それらを楽しみながら歩いて旅をするのであれば、下調べの準備をしておかないと見逃してしまうし、そもそも、何があるのか知らないで通り過ぎてしまう。
それでも、ただ、目的とするゴールに到着するだけを目的にするのであれば、そういう楽しみ方もある。楽しみ方は人それぞれだと思っている。
定年退職を目前に控えている夫の良人と、妻の由美子は街道歩きの旅を始めて今日が初日である。朝の9時30分に江戸東京日本橋を出発して皇居の半蔵門まで歩いてきた。時刻は11時、歩いた距離は約4.5kmである。
以前、甲州街道の東京都と神奈川県の境をこえる街道歩きの日帰り旅に、夫婦二人はハイキング気分で出かけた。それから2カ月以上たっても、よし君は何も言わない。楽しくなかったと思った私は、1人で歩く旅を始めようと思っていた。しかし、ある日突然、街道歩きの旅を始めようとよし君は言い出した。
1人で歩く旅の準備をしていたので少しは戸惑ったけれど、断る理由もないし、断ることもできないので夫婦で歩く旅に変更になった。
ひとり旅も良いかもと、心の中でたっぷりと期待していたドキドキ感はあっさりと消えてしまったのは、残念だった。口に出して言えないけれど。
結婚して25年か。子どもが生まれてからは専業主婦になり子育てに専念してきたけれど、子育はそろそろ卒業する。これからの生活を考ええれば夫婦で同じ趣味を楽しむのは良い、とは思っている。
夫の良人が街道歩きをしようと言い出したにも関わらず、出発の時間を決めていただけで、歩く街道の道順や史跡などの下調べをしていなかったことに妻の由美子は不満を感じている。
日本橋を出発して早々、国道20号を歩き進んで行く良人に対し、あらかじめガイドブックのような本を確認していた妻の由美子は道順を変えて史跡を通るように歩いた。
これじゃ、どこを歩くのかもわからなくなるし、見たい史跡を見逃してしまう。
一方、夫の良人はそこまで考えていなかったようで、甲州街道と言えば国道20号であり、道路標識があるので何とかなるだろうと考えていた。
街道沿いの史跡などは、見えやすく分かりやすく作られていると思っているので、下調べをする考えはなかった。歩いていれば見つかると言う考えだ。
実際、前回にハイキングで歩いた時には、街道沿いの史跡である石碑や説明版は大きめに整備されて目立っていたので、それらを楽しむことが出来た。しかし、街道は長いので、全部の史跡が目に付くように整備されている訳ではない。だから、それらを見つけて楽しみたいのであれば下調べはしておいた方が良い。自宅から遠くなればなるほど、もう一度その場所に行くことはなかなかできなくなる。
良人は由美子が今日の歩くコースの下調べをしてきている事には気付いていた。
皇居の半蔵門の正面を直角に曲がると、まっすぐ西に向かっていく甲州街道を歩き進む。江戸時代には大名屋敷が立ち並んでいた当時の面影はなく、多くのビルが立ち並ぶ東京らしさでもあるオフィス街を抜けていく。
この辺りは大名屋敷が多かった場所だね。麹(こうじ)町って、なんで麹町なのか知ってる?
突然の問いかけに由美子は少しだけ驚いていると、良人は続けて話した。
甲州街道は江戸城が攻められた時に、将軍が甲府城まで逃げるように造られた。だから、将軍が敵から逃げられるように戦う武士たちが、この辺りに住むように江戸城は造られたらしいよ。半蔵門が江戸城の内堀なら、この先にある四谷が外堀だからね。まだ、江戸城内にいるよ。
そうなのね。江戸城の中か。それと、麹町の名前とどういう関係があるの?
この辺りは味噌や麹を作っていた手作りの地下室がある屋敷が多かったらしい。大名や旗本はお客さんだからね。
なるほどね。そういえば、東京に出てきた頃に地下鉄に乗っていたら、麹町と言う駅の名前が気になったことを思い出したわ。お江戸らしいわよね。
ふと見ると、歩道の脇に説明版があることに気付いた。何だか答え合わせのようになってしまい苦笑いするけれど、何だか楽しいと思った。1人じゃない楽しさなのだろうな。そう思った。
休日のオフィス街は人通りも少ない。落ち着いていると言うよりも、どこか閑散としている雰囲気を感じた。
西に向かって歩いていた2人の左手には私立大学が見えてきた。
私、この大学を受けたけど、落ちたのよ。
由美子は笑って言った。
もし、この大学に受かっていれば人生が変わっていたのか?そんなことを頭の中で考えるけれど、さすがに、よし君の前では言えないよねぇ。
そろそろ四谷に着くよ。江戸城外堀が残っているから見ていこう。
今までに何度かは来たことがある四谷だけれど、江戸時代の外堀なんて気に留めたこともなかった。しかし、400年も前に造られたものが残っており、それを、今、見ることが出来る。
江戸は東京に残っている。
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