シッチェス、最優秀映画賞『LAMB/ラム』。過去の受賞作と比べると……
昨年のシッチェス映画祭で最優秀映画賞を受賞した『LAMB/ラム』。
ネタバレ抜きでこの作品を語るのは難しい。たった一言でネタバレしてしまうからだ。あらすじ紹介のような評論、熱くなり過ぎた宣伝文句、あるいは不用意なたった一枚の写真によって、台無しになってしまうかもしれない。
公開日に近づくにつれて評論や宣伝が増えるはずだが、どういう風にネタバレを回避するのかお手並み拝見である。
昨年10月、映画祭で見た時には予備知識ゼロ、ポスターも見ず、あらすじも読まなかった。で、そうしたことで、物語への興味を保つことができた。
今回、日本向けの公式予告編↓を確認すると、あることを周到に隠していることがわかった。公開する側が隠すなら、それを尊重して私も隠すことにしよう。
■ネタバレ後も成立するか、どうか
さて、この隠すことへのデリケートさが、この作品の弱さを物語っている、と私は思う。一言でわかるネタバレ以外に見どころがないのか?という問題だ。
私の言うネタバレは結末にあるのではない。割と中ぐらいにわかることで、予備知識をシャットアウトしていたにもかかわらず、サプライズはなかった。
で、その後は淡々と雄大な風景と過酷な自然、寡黙な北国の人たちの視線や表情を追うしかなかった。それで十分楽しめるのか、そうでないのかはみなさんの判断を仰ぎたい。
私がこの作品を星の数で評価するとしたら、申し訳ないが★★である(満点5つ星)。好きな作品ではなかったからこそ私のネタバレでお客さんを減らしたくない。
だって、映画なんて好きなものも嫌いなものもあるのだ。
ある者が絶賛する作品がまったく面白くないとか、その逆とかは普通にある。よって、あなたにとっては傑作かもしれないことをお断りしておく。評価するには映画館へ行くしかないのだ。
■ギャスパー・ノエ、クローネンバーグも
さて、シッチェスで最優秀映画賞を受賞したことは日本ではあまり言及されていない。シッチェスなんてまあそう重要ではないのかもしれない。
良い機会なので、ここで最近の受賞作と私の評価を紹介しておこう。
2016年『スイス・アーミー・マン』(★)
人間版七徳ナイフという発想について行けなかった。笑えなかった。
17年『ジュピターズ・ムーン』(★★★)
評はこちら。
シッチェス映画祭最優秀作『ジュピターズ・ムーン』(1月27日公開)が告白する、“罪深きヨーロッパ”
18年『クライマックス』(★★★★★)
見終わった後の眩暈(げんうん)感が凄かった。迷路と密閉空間での吐き気と酔い。最初のダンスシーンから釘付け。
19年『プラットフォーム』(★★★★)
評はこちら。
映画『プラットフォーム』(1月29日公開)の、見て欲しいからこそ、書けない面白さ
20年『ポゼッサー/ノーカット版』(★★★★)
評はこちら。
他人を乗っ取った者の末路。クローネンバーグ息子作の『ポゼッサー/ノーカット版』(ネタバレ)
21年『LAMB/ラム』(★★)
■シッチェス映画祭に期待するもの
シッチェス映画祭には大いに期待している。
ポリティカリー・コレクトやコンプライアンスの圧力に屈しない、自由な創作の展示会であってほしいからだ。
その中で、最優秀映画賞の受賞作には、新しい何かへのチャレンジ、当たり前への反発、既成への怒りや反抗といったものを勝手に望んでいる。『LAMB/ラム』には残念ながらそれがなかった。
昨年のシッチェスでは数を見ているので、私が思う自由で野心的な作品を中心に、これからも紹介していきたい。
※『LAMB/ラム』の写真はシッチェス映画祭提供。共通のクレジットは(C)Go to Sheep 2021