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ラーメン店が「完全キャッシュレス」を導入すべき3つの理由とは?

山路力也フードジャーナリスト
キャッシュレスは抗えない時代の流れになっている。(写真:アフロ)

2024年7月がターニングポイントに?

新紙幣への刷新により否が応でも対応を迫られることになる。
新紙幣への刷新により否が応でも対応を迫られることになる。写真:イメージマート

 個人経営の飲食店の苦境が続いている。コロナ禍のダメージから回復しつつある経済状況ながら、消費マインドの慎重化は未だ変わることなく、原材料費や人件費の高騰を売価に反映しづらくなっている。多くのインバウンド客の来訪が見込める店であればまだしも、薄利多売で商いを行っている個人経営の飲食店を取り巻く環境は厳しさを増している。

 そこに来て、いよいよ2024年7月には新紙幣が発行されるため、券売機を導入しているラーメン店などの飲食店は対応を迫られている。券売機を新紙幣対応に変更するにあたり、数十万円から100万円前後の費用が発生することとなる。自治体によっては補助金が出るところもあるが、いずれにせよ券売機対応の出費は必至となっている。

 もちろん立地や環境など店によって異なる背景はあるが、一般論として同じ出費がかかるのであれば、このタイミングで「完全キャッシュレス」に移行するのも一つの考えだ。諸外国に比べるとまだまだ現金信仰が強い日本だが、経済産業省が発表したキャッシュレス決済比率の推移データによれば、ここ10年でキャッシュレス決済比率は20ポイント上昇と堅調に推移している。もはやキャッシュレスは抗えない時代の流れになっているのだ。

完全キャッシュレス化のメリットとは

デメリットをはるかに上回るメリットがある。
デメリットをはるかに上回るメリットがある。写真:イメージマート

 現時点でも現金と併用して『Suica』などのIC決済や『PayPay』などのQRコード決済に対応している店もあるだろう。「完全キャッシュレス」とは現金での決済を不可にすることを意味するが、それによって多くのメリットが考えられる。

 まずは人件費の抑制と人手不足の解消だ。個人飲食店における人件費率は高く、利益が生み出しにくい構造になっている。ラーメン店などでは高額紙幣に対応していない券売機を使っているところも多いが、完全キャッシュレス化することで会計や両替などの手間からまず解放される。

 さらに釣り銭の用意も不要となる。銀行などで棒金(50枚ごとまとめられたコイン)への両替には一定の手数料がかかる。完全キャッシュレス化すれば、銀行に出かける手間も手数料も不要だ。さらに営業終了後のレジ締めの作業もほぼ不要となり、早く退店することが出来る。これによって仕事の効率が上がり、調理や接客など飲食店本来の業務に集中することが出来るのだ。

 また、言うまでもなく不特定多数の人の手をわたる現金は不衛生だ。飲食店で現金を扱う場合にはその都度手を洗うことが必須だが、完全キャッシュレスにすることでその手間からも解放され、衛生的な営業環境を維持することが出来る。

手間が減り安全性が高まり客単価もアップする

現金を数える手間からも解放される。
現金を数える手間からも解放される。写真:イメージマート

 飲食店ではレジや券売機狙いの空き巣被害が後を絶たない。現金の盗難のみならず、レジや券売機などを破壊されることも多く、さらにコストが嵩むこととなる。さらに従業員による現金の盗難も決して珍しいことではない。完全キャッシュレスになれば、現金が店舗に置かれていないためこれらの不安からも解放される。

 さらにキャッシュレス決済では現金を気にする必要がないため、客単価の向上が期待される。経済産業省の調べでもキャッシュレスを導入した店舗の多くが客単価の向上を認めている。さらに売上データも可視化されるため、客単価向上のための施策が打ちやすいメリットも生まれる。また決済にかかる時間も現金決済より圧倒的に短いため、回転率の向上や手間やストレスからの解放にも寄与する。

キャッシュレス決済比率は年々上昇している

 すでに消費者の多くがキャッシュレス決済に慣れている状況も無視出来ない。前述したように日本のキャッシュレス決済比率は年々上昇しており、2022年のデータでは36.0%(111兆円)となっている。構成比としてはクレジットカードが30.4%(93.8兆円)と圧倒的だが、ここ数年はQRコード決済が電子マネー決済を上回る伸びを見せている。

 飲食店に現金を置かない安心感があるように、消費者もまた現金を持ち歩かない安心感がある。現金を持ち歩かずにスマートフォン一つで決済する人が増えており、そういう顧客層がターゲットから外れてしまう危険性がある。現金しか使えない顧客を取るのか、現金を使わない顧客を取るのかの選択となるが、顧客層は常に変わっており、キャッシュレス決済比率が年々上昇している現状を考える必要があるだろう。

 一度キャッシュレス決済を体験してしまうと、現金を下ろしたり小銭を用意して支払う手間と時間のロスを感じるようになる。人は一度便利なものを知ってしまったら不便なものには戻れないものだ。実際、ラーメン店など飲食店を経営する人自身も、すでにキャッシュレス決済の利便性を肌で感じているのではないだろうか。今でも電車に乗る時に券売機に現金を投入して切符を買ったり、高速道路の料金所で現金を渡して通行しているのだろうか。

デメリットをはるかに上回るメリットが

現代の消費者は何かしらのキャッシュレス決済手段を持っている。
現代の消費者は何かしらのキャッシュレス決済手段を持っている。写真:アフロ

 現金を使えなくして完全キャッシュレスに移行することのデメリットは何か。まず考えられるのは既存顧客が離脱する可能性がある。特に年配客が多く来店する店の場合、その不安を覚える経営者も少なくないだろう。しかしながら、現代の消費者の多くは何かしらのキャッシュレス決済手段を持っているものだ。スマートフォンを使うQRコード決済を使っていない年配の消費者であっても、クレジットカードはもちろん、交通系のICを利用している人は少なくない。

 次にキャッシュレス決済の場合は一定の手数料がかかる。この手数料は消費者ではなく事業者が支払うべきもので、手数料を売価に上乗せして請求することは契約違反となる。しかしながら、その手数料をコストに含んだ上で売価設定をすれば問題はない。現金決済とキャッシュレス決済が併用されている場合は、売価を揃える必要がある。現金決済の客にとっては手数料分が割高となるが、完全キャッシュレスであれば不公平はない。

 そしてキャッシュレス決済のうち、クレジットカードや電子マネーなどは決済用の端末が必要となり、その導入コストがかかる。しかし、キャッシュレス導入には補助金や助成金が用意されているのと、そもそも新紙幣への対応にコストがかかるという前提があるので、今回に関しては導入コストはデメリットにはなり得ない。

 他にも災害時や停電時などイレギュラーな状況になった時に決済が出来なくなる可能性もあるが、万が一の状況を危惧してメリットを無視するのは合理的な考えとは言い難い。最悪その場合は現金対応すれば良いだけのことだ。

 新紙幣への対応が迫られる中、いずれにせよある一定のコストをかけなければならない。同じコストをかけるのであれば、完全キャッシュレスに移行することで、人手不足が解消され、人件費も抑制出来て、現金管理の煩雑さから解放され、衛生面も向上し、盗難リスクもなくなり、客単価も向上し、回転率も上がり、新たな顧客層にリーチ出来る。今こそラーメン店は完全キャッシュレスに踏み切るべきなのだ。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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