Yahoo!ニュース

あの狂騒から1年。クラブハウスブームは日本に何をもたらしたのか。

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
すっかりクラブハウスが話題になることも減りました。(写真:ロイター/アフロ)

2021年の1月末から2月にかけて、文字通り瞬間的なブームを巻き起こしたクラブハウスの狂騒から1年が経過しました。

筆者自身は今でもクラブハウスを使いつづけている人間ですが、多くの人にとっては「そういえば去年流行ってたよね」という印象のサービスだと思います。

はたして、あの異様なクラブハウスブームとは何だったのか、1年経ったいま、あえて振り返ってみたいと思います。

1月末の1週間で大きな話題に

昨年のクラブハウスブームを振り返ると、1月22日にクラブハウスの時価総額が1000億円と評価されたというニュースがトリガーとなり、日本でも起業家を中心に話題が拡散。

緊急事態宣言下で多くの人が会話に飢えていたという環境もあり、多くの芸能人もすぐに参入するなど話題が一気に過熱して、App Storeランキングでも総合1位に到達。

話題になり始めた翌週の1月29日にはNEWS23でクラブハウスが取り上げられる、という異様とも言えるスピード感で話題が拡がったのが非常に印象的でした。

参考:人気が過熱するClubhouseの「おしゃべり」は、日本のネットの景色を変えるかも

実は今日が、そのNEWS23放映日から丁度1周年ということになります。

話題がマスメディアで大きく拡がった一方で、招待制という仕組みだったために、招待されないと参加できないという飢餓感が、必要以上に話題を大きくしてしまった面は間違いなくあったように思います。

ある意味、緊急事態宣言や招待制、音声SNSの新しさという複数の要素が惑星直列のように奇跡的に連なったことによるブームだったと言えるでしょう。

ブームは1ヶ月で急速に収束

ただ、YouTube同様に、クラブハウスも先行者利益があるのではないかという思惑から、多くの芸能人やインフルエンサーも一斉にクラブハウスに参入したものの、収益をあげるのには向かないということが明確になると、異様な熱狂はあっという間に収束。

新型コロナウイルス感染の終息の影響もあり、クラブハウスブームは1ヶ月程度でほぼ終了する結果になりました。当時の異様さは、こちらのGoogleトレンドの検索数のグラフを見て頂ければ一目瞭然でしょう。

(出典:Googleトレンド 「クラブハウス」の検索数推移)
(出典:Googleトレンド 「クラブハウス」の検索数推移)

筆者は昨年3月のブームが収束した段階で、クラブハウスのその後のシナリオを4つに分け底打ちする可能性を予測していましたが、その予測は恥ずかしながら見事に外れました。

参考:ツイッターのスペース機能との競争から考える、クラブハウスの将来 4つのシナリオ

その後もクラブハウスは目立った盛り上がりを見せないまま、音声配信サービスの選択肢の一つとして埋もれてしまった印象が強くあります。

クラブハウスを使っていない方からすると、サービスが終了したのではないかと思っている方もいるぐらいの落ち込みぶりだと思います。

クラブハウスでの出会いから新しい活動も

一方でクラブハウスの興味深いのは、クラブハウスでなければ出会わなかったような人たちが、その後も交流を深めて今もクラブハウスを続けていたり、共同で新しい事業を始めたりという逸話をたくさん生んでいる点です。

例えば、昨年11月にはNHKの「あさイチ」で、クラブハウスでの出会いをきっかけに、子ども食堂を主催している方にいろんな支援が集まったり、ヘリを活用した緊急時の支援物資の試験飛行が実現したという事例が紹介されていました。

参考:「“音声SNS”の不思議な世界」 - あさイチ - NHK

また、タリーズコーヒーやエッグスンシングス・インターの創業者として知られる松田公太さんは、今でも起業・経営倶楽部という部屋を継続的に開催。

そこで出会った経営者の方々が、共同で事業を始めるような動きが複数あるそうです。

筆者自身も、なぜかクラブハウスで開催されていた欽ちゃんこと萩本欽一さんのお部屋の進行を担当させていただくことがありましたが、その部屋で欽ちゃんが「80歳の挑戦」を開始。

並行して地域を応援する企画がはじまり、クラブハウスで欽ちゃんと話した人がきっかけで茨城や山口などの商品が欽ちゃんコラボを行ったり、作品の応援をするのを目の当たりにしてきました。

参考:山口おいでまセット 欽ちゃん80歳の挑戦 ~とくやまなびやセレクション~

私は朝が弱いので参加できていませんが、現在でも朝の時間は数百人集まる部屋がいくつもあるようですし、私の昼のお部屋も含め、小規模ながらも継続している部屋は今も存在しています。

音声の可能性に気づくきっかけに

これだけ「日本ではブームが終わった」といわれるクラブハウスを今でも続けている人がいるのは、やはり音声ならではの出会いや気軽さがあるからではないかなと感じてもいます。

実際に、クラブハウスに影響を受ける形で始まったツイッターの音声配信機能であるスペースは、最近日本でも利用者が増えてきており、数千人規模の部屋をみることも珍しくなくなってきました。

VoicyやStand.fmなどの日本の音声配信サービスもユーザーを増やしているようですし、ある意味、クラブハウスが開いた音声SNSの可能性を、競合企業が引き継ぐ形で拡げているという見方もできるでしょう。

実は、メタバースの先駆けとして2007年頃に日本で異様な話題になったセカンドライフも、日本では終わったサービスとして認識されていますが、今でもサービスを継続し進化を続けています。

参考:「Second Life」創設者が語る元祖メタバース再興の道

ある意味、クラブハウスはセカンドライフと同じような立場にあると言えるかもしれません。

少なくとも、クラブハウスが日本で、ネット上における音声サービスの可能性に気づかせる役割を果たしたことは間違いないでしょう。

クラブハウスが再び話題になることはあるのか

ここで気になるのは、クラブハウスが日本で再度話題になることはあるのか?という点です。

現状を踏まえると多くの方がその可能性を否定するかもしれませんが、その可能性があるとしたら、やはり重要になるのは、日本チームの設立とそのパートナーシップ戦略でしょう。

日本市場の可能性自体は、クラブハウス創業者のポール・デイビソンCEOも感じているようで、昨年11月頃には日本のメディア向けに説明会を実施。

昨年中の日本語対応や日本法人の設立の可能性にも言及していました。

参考:音声SNS「クラブハウス」、瞬間ブームから描く次章 | 日本語版も開始、CEOが語る音声市場の勝ち筋

ただ、現在のところはiPhone版の日本語対応も遅れており、日本法人や日本企業とのパートナーシップも発表されておらず、難航していることが予想されます。

いずれにしても、クラブハウスの日本市場において重要になるのは、今年そうした日本独自の展開がどれぐらいの規模で実施されるかになるはずです。

実際に、ツイッターやFacebookなど、過去の海外のSNSプラットフォームが日本に定着する上で重要だったのが、何といっても日本独自のアプローチだったのです。

ツイッターやFacebookの日本普及のきっかけ

例えば、現在日本ではインフラの一つになっているツイッターも、実は2007年にネット界隈で小さなブームになった後、一旦収束。

実際に腰の強いブームに展開したのは、2008年のデジタルガレージのツイッターへの出資を通じた日本語対応や日本展開支援からでした。

参考:デジタルガレージがTwitterと資本・業務提携--春までに日本語版を提供

さらに、その後、Facebookブームの過程でツイッターは一旦陰が薄くなりますが、2011年に設立されたツイッター日本法人の着実な日本展開により、現在世界でもトップクラスでツイッターが普及している国になるのです。

(出典:Googleトレンド 検索数推移 赤「twitter」青「ツイッター」)
(出典:Googleトレンド 検索数推移 赤「twitter」青「ツイッター」)

Googleトレンドの検索数の推移を見てみると、「twitter」の検索数(青色)が2007年に少し盛り上がり、その後2009〜2010年にピークをつけるものの、その後日本語の「ツイッター」での検索数(青色)が着実にあがっていくのが見て取れます。

また、Facebookも2007〜2008年頃に同じく1度日本で話題になりますが、国産SNSであるmixiの牙城に阻まれて1度話題は沈静化します。

その後、大きく日本で普及するきっかけをつくったのは、2010年1月に日本で最初の社員としてヤフーからFacebookに転職した児玉太郎さんをはじめとした日本チームでした。

児玉さん達が、リクルートや電通などの日本の大企業との提携を次々に決めて、日本におけるFacebookの存在感を大きくあげたことが、日本でFacebookがmixiに取って代わる存在になることに貢献しているのです。

参考:元Facebook Japanカントリーグロースマネージャー・児玉太郎が語る、日本企業がイノベーションを起こすために必要なこと

海外では人気でも日本では存在感がないというサービスは、実はたくさん存在します。

ツイッターやFacebookが日本で存在感を持っているのは、こうした日本独自の動きが非常に重要だったと言えるのです。

これまでのところ、クラブハウスはこうした日本市場向けの独自の動きはほぼ感じられませんから、日本のブームが一時的で終わってしまったのは、ある意味当然と言えるかもしれません。

もちろん、クラブハウスは本国でも苦戦が伝えられていますから、日本市場にどこまでエネルギーをかけることができるのかは未知数です。

ただ、ツイッターやFacebook同様に、日本市場に合わせた活動をできるかどうかが、このままクラブハウスがセカンドライフ同様に2021年2月の一時的なブームとして忘れられていくのか。

それとも、ツイッターのようにブームやオワコンの議論を繰り返しながら日本に受け入れられていくのかの分岐点になるように思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

徳力基彦の最近の記事