メンバーが逮捕・服役を繰り返しても愛された破天荒バンドと出合って。「正直、公開は不安でした」
「THE FOOLS」というバンドをご存知だろうか?
「THE FOOLS」は、ギタリストの川田良とボーカリストの伊藤耕を中心に1980年に結成された日本のロックバンド。
コマーシャリズムを徹底的に排除し、独自のロック哲学を体現した彼らは、日本のインディーズアンダーグラウンド・シーンで絶大な人気を集めた。
ただ、バンドの歩みはもう言い尽くせないほど波乱続き。
フロントマンの伊藤は幾度となく麻薬取締法違反で逮捕・服役を繰り返し、その都度、バンドの活動は休止状態に。
その間にはメンバーの死が相次ぎ、バンド存続の危機という事態に幾度となく見舞われる。
おそらく通常のバンドであったならば、バンドが解散していてもおかしくない。
これだけの不祥事だらけとなると、世間はもとよりファンからもそっぽを向かれてもおかしくない。
時代の移り変わりが激しい音楽界ということを考えると、新たな時代と時の経過とともに消え去ってしまってもまったく不思議ではない。
でも、バンドは解散することなく、彼らは存在し続けた。そして、なによりファンに支持され、どんなことがあっても彼らの音楽を待っている人がいた。
音楽ドキュメンタリー映画「THE FOOLS 愚か者たちの歌」は、そのことを物語る。
「THE FOOLS」というバンドが、彼らの魂の音楽が多くのオーディエンスの心へと届いていた理由、薬物事件が起きてもファンの心が離れなかった理由など、そうしたひとつひとつの理由が映画をみればきっとわかる。
そして、おそらく彼らのようなバンドはいろいろな意味で今後出ることはない。
バンドの行く末を見届けることになった高橋慎一監督に訊く。
ここからは本編インタビューに続く番外編。主に作品の舞台裏について訊いていく。番外編全四回。
気づけば足掛け10年以上の月日が経っていました
前回(番外編第一回はこちら)、「THE FOOLS」のボーカリスト、伊藤耕の獄中死でほぼ編集してまとまりつつあったものをいったんすべて白紙にし、改めて関係者に取材をし直したことを明かしてくれた高橋監督。
一度、完成しかけた作品をすべて一度はなしにして、再び取材をして完成へと導いたわけだが、いわば2度目に「まとめよう」と思いたったのはいつだったのか?また、なにがきっかけだったのだろうか?
「関係者を取材し直していた真っただ中の2020年ぐらいに、大枠といったぐらいですけど、まとめはじめました。
きっかけは、これも『死』が深くかかわっていて。
映画にも登場していますが、伊藤耕さんと10代のころから友だちだったドラマーの高安正文さんの死です。
取材してお話をきいたんですけど、少ししてお亡くなりになった。
僕は高安さんのご自宅の遺品整理をさせていただいて、主を失った楽器を引き取ったりもさせていただきました。
そのときに、ちょっと終わりを感じたというか。
ひとつにまとめていい時期に入ってきたのではないかと感じました。
そこで編集作業を開始しました。
ただ、いろいろな意味で、僕は思い入れも強いし、よくも悪くも客観的にみられないところがある。
ひとつの作品としてみたとき、フラットな目は必要と思ったので、最後は遠山慎二さんという編集マンに託して、仕上げてもらいました。
そして映画が完成したわけですけど、気づけば足掛け10年以上の月日が経っていました」
正直なことを話すと、劇場公開するのには不安がありました
これまでのインタビューからもわかるように、本作は人の死であったり、ドラッグでの逮捕であったりと、センシティブな内容を含む。
ゆえに、ネットをはじめとしたSNSでの誹謗中傷やあらぬ批判を招く可能性がないとは言い切れない。
その中で、公開することに不安はなかったのだろうか?
「いや、正直なことを話すと、不安はありました。
作品にセンシティブな内容が含まれているので、たとえば、『人の死をビジネスにして』とか、『薬物で逮捕された人物を美化していないか』とか、批判やおしかりをうけたりするかもなと。
そういったことは考えていて、作った人間としては、そういった意見や発言にもしっかり向き合って、自分が矢面にたって、どうしてこの作品を作ったのか、どういう考えをもって取り組んだのかといったことを丁寧に説明していくしかないと考えていました」
意外なことにメンバーの生き様に共鳴したという感想が相次ぐ
ただ、これまで寄せられた声はある意味、意外なものがほとんどだという。
「うれしいことに、肯定的に受け止めてくださる方がほとんどなんです。
『THE FOOLS』というバンドのメンバーの生き様に共鳴したという感想を多くいただきました。
たとえば、『戦争ドキュメンタリー以外でこんなに人が死ぬ映画は初めて見たけど、見終わった後、なんでこんなに活力が湧いてくるんだろ』といった主旨の感想を寄せてくださった方がいました。
この感想に象徴されるように、『(自分が)前を向くことができた』とか、『今を精一杯生きようと思った』とか、ポジティブにとらえてくれる意見がほとんど。
正直、僕は作り手としては失格なのかもしれないんですけど、作品も『THE FOOLS』というバンド自体も、もう客観視できなくなっていて(苦笑)。
映画に関しても、『THE FOOLS』についても、どういうものか、ほんとうは作った者の責務として説明しないといけない。でも、なんて答えていいのか分からないでいたんです。
でも、みなさんから寄せられた声に触れて、『自分もそういうことを彼らから感じてパワーをもらっていたんだ』と気づかされました。
見てくださった方に『THE FOOLS』ってこういうバンドなんだよということを教えられたところがあります。
あと、まさに自分はこの『THE FOOLS』の放つ『生』のパワーを作品を通して、感じてもらいたかったんだ、と気づきました」
(※番外編第三回に続く)
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第一回はこちら】
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第二回はこちら】
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第三回はこちら】
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第四回はこちら】
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第五回はこちら】
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第六回はこちら】
【「THE FOOLS …」の高橋慎一監督インタビュー番外編第一回はこちら】
『THE FOOLS 愚か者たちの歌』
監督・撮影:高橋慎一(Cu-Bop)
出演:伊藤耕 川田良 福島誠二
村上雅保 關口博史 若林一也 大島一威
中嶋一徳 高安正文 栗原正明 庄内健
全国順次公開中
写真はすべて(C)2022 愚か者たちの歌
<ノベライズ>
「THE FOOLS MR.ロックンロール・フリーダム」
著者:志田 歩(編集:加藤 彰)
定価:本体2,800円(税別)
発行・発売:東京キララ社