メンバーが麻薬で逮捕・服役を繰り返しても愛されたバンドとの出合い。出所の瞬間からカメラを回して
「THE FOOLS」というバンドをご存知だろうか?
「THE FOOLS」は、ギタリストの川田良とボーカリストの伊藤耕を中心に1980年に結成された日本のロックバンド。
コマーシャリズムを徹底的に排除し、独自のロック哲学を体現した彼らは、日本のインディーズアンダーグラウンド・シーンで絶大な人気を集めた。
ただ、バンドの歩みはもう言い尽くせないほど波乱続き。
フロントマンの伊藤は幾度となく麻薬取締法違反で逮捕・服役を繰り返し、その都度、バンドの活動は休止状態に。
その間にはメンバーの死が相次ぎ、バンド存続の危機という事態に幾度となく見舞われる。
おそらく通常のバンドであったならば、バンドが解散していておかしくない。
これだけの不祥事だらけとなると、世間はもとよりファンからもそっぽを向かれてもおかしくない。
時代の移り変わりが激しい音楽界ということを考えると、新たな時代と時の経過とともに消え去ってしまってもまったく不思議ではない。
でも、バンドは解散することなく、彼らは存在し続けた。そして、なによりファンに支持され、どんなことがあっても彼らの音楽を待っている人がいた。
音楽ドキュメンタリー映画「THE FOOLS 愚か者たちの歌」は、そのことを物語る。
「THE FOOLS」というバンドが、彼らの魂の音楽が多くのオーディエンスの心へと届いていた理由、薬物事件が起きてもファンの心が離れなかった理由など、そうしたひとつひとつの理由が映画をみればきっとわかる。
そして、おそらく彼らのようなバンドはいろいろな意味で今後出ることはない。
バンドの行く末を見届けることになった高橋慎一監督に訊く。(全六回)
「僕が作っていいのかダメなのか決めてほしい」と生意気にも迫りました
前回(第四回はこちら)、刑務所の中にいた伊藤耕に手紙を書いて、ドキュメンタリー映画の撮影の了承を取り付けたと語った高橋監督。
では、ほかのメンバーには、どのように話を切り出したのだろうか?
「川田良さんには、下北沢の喫茶店でお会いして、そのときに映画の話を切り出しました。
『ドキュメンタリー映画を作りたいと思っています。伊藤耕さんからは承諾いただいています。了承いただけますか?』と。
すると良さんはこう返してきました。
『自分は「THE FOOLS」のボーカリスト、伊藤耕の引き立て役ではない。あいつの引き立て役のような位置づけで考えてほしくない。そんなふうに考えているならば、自分は撮ってほしくないし、そんな企画にはまったく乗れないよ』と。
こちらに反論の余地をまったく与えないような厳しい態度と口調で言われました。
映画を見てもらえればわかるように、川田良さんは独特の近寄りがたい、ちょっと相手を黙らせてしまうような凄みがある。
はっきり言って、怖い(苦笑)。
だから、通常ならばそう言われてしまうと、受けた側としては取りつく島もない感じですごすごと引き下がってしまう。
ただ、このときの僕は引き下がらなかった。ものすごくテンションが上がっていたんでしょうね、真っ向から反論というか自分の意見をぶつけたんです。
『あなたが了承しないならば、僕は撮影なんかしない。そもそも川田良という人間が伊藤耕の引き立て役なんか思ったこともない。僕が興味があるのは「THE FOOLS」というバンドだ。バンドの誰が上で、誰が下とか、そんなこと考えているのだったら、逆に僕は迷惑だ』と強気に言い返したんです。怖い良さんに(苦笑)。
さらに『そんなくだらないことを描いた作品には絶対にしない。それは約束する。だから、ここで僕が作っていいのかダメなのか決めてほしい』と生意気にも迫った。
そうしたら、良さんが『わかった。好きに撮ったらいい』と言ってくれたんです。
後日、これはベースの福島誠二さんに聞いた話ですが、リハーサルのとき、良さんから伝えられたそうです。『今度からカメラが入る。映画を作るから』と。
誠二さんは言ったそうです。『なんだよ、今までそういうのチャラチャラしているって一番嫌っていたじゃん。そんな話を言い出したあかつきには、ぶん殴ってきそうだった良が、いきなりどういう心境の変化、方向転換だよ』と。
それに対して良さんは『撮りたいって言ってきたやつがいるんだよ。そいつに好きに撮らせるから。いいな』といってメンバーを納得させた。
僕の直訴を良さんが受けとめてくれて、撮影の了承を得ることができました。
後日談になりますけど、誠二さんは、どこにいっても僕がカメラを回しているのに、ずっとうんざりしていたそうです。
良さんが亡くなった後も終わらずにカメラが回っていて『うぜえし、本当に参ったけど、良の遺言だから、守らないといけない』と思って、俺は我慢したって言ってました(苦笑)。
『いや、ほとほと参ったけど、良が「高橋に映画を撮らしてやれ」って言ったから我慢した』とおっしゃてました(笑)」
音楽ドキュメンタリーでいきなり出所シーンっていうのは、まずない(笑)
こうしてメンバーから承諾を得て、撮影が始まることになる。
撮影は当初の予定通り、ボーカリストの伊藤耕が横浜刑務所から出所したところから始まる。
このときの様子はそのまま映画の冒頭のシーンになっている。
「音楽ドキュメンタリーでいきなり出所シーンっていうのは、まずないですよね。
ふつうの映画でもあまりないかもしれない(笑)。
でも、あの通りで、撮影は2013年1月の伊藤耕さんの出所から始まりました」
とにかくいろいろなことが起こったんですけど(笑)、僕としては
もう徹底的に最後まで『THE FOOLS』と向き合おうと腹をくくっていました
この後は、もう見てもらうしかない。
5度目の服役から出所した伊藤を、1970年代から活動を共にする川田良と、1989年に加入したベーシストの福島誠二らが迎え、早速、ライブに向けてのリハーサルが始まる。
しかし、出所後の初ライブからわずか半年で伊藤が再逮捕。伊藤の拘留・裁判中に川田がこの世を去る。
もはや筋書きのないドラマでも考えられないような現実が次々と起こることになる。
「耕さんが出所してから、ちょうど1年後ぐらいに川田良さんが亡くなられた。
ここでバンドは存続の危機に立つことになる。
たとえば、これがテレビ企画でバンドの再結成、復活!みたいなものを狙っているものだったら、たぶん暗礁に乗り上げて、いつ撮影が再開できるかもわからないから、企画自体が流れてしまうことになる。
でも、この撮影は違う。
僕自身がハンドリングして好き勝手やれるので、いい意味でノープランでいける。
だから、もうとにかくいろいろなことが起こったんですけど(笑)、僕としてはもう徹底的に最後まで『THE FOOLS』と向き合おうと腹をくくっていました。
目の前で起こっていることをただただ記録していく。
そのことだけしか考えていなかった。そのことだけに集中していました。
前にも話しましたけど、川田さんから『もうすぐ死ぬからちゃんと撮っといてくれ』とも言われていたので、それをとにかくまっとうしようと思いました。
あと、同時進行で『THE FOOLS』の本の企画が進行していたんです。
すでに発売されている『THE FOOLS MR.ロックンロール・フリーダム』という本で、音楽ライターの志田歩が取材して書いています。
この本には、映画に収められなかったエピソードなども入っているので興味があったら手にとってほしいんですけど、取材の最中に志田に言われたんです。
『これは10年かかる。高橋、10年かかるぞこれは』と。
そういわれていたので、簡単には終わらないと肝に銘じていたところがありました。
だから、何があっても受けとめようという気持ちがあったので、ほんとうにいろいろなことが起こったんですけど、不思議と焦ることはなかったです。
どんなエンディングを迎えるかわからないですけど、とにかくこの目で見届けようと思ってカメラを回していました」
(※第六回に続く)
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第一回はこちら】
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第二回はこちら】
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第三回はこちら】
【「THE FOOLS 愚か者たちの歌」の高橋慎一監督インタビュー第四回はこちら】
『THE FOOLS 愚か者たちの歌』
監督・撮影:高橋慎一(Cu-Bop)
出演:伊藤耕 川田良 福島誠二
村上雅保 關口博史 若林一也 大島一威
中嶋一徳 高安正文 栗原正明 庄内健
全国順次公開中
写真はすべて(C)2022 愚か者たちの歌
<ノベライズ発売中!>
「THE FOOLS MR.ロックンロール・フリーダム」
著者:志田 歩(編集:加藤 彰)
定価:本体2,800円(税別)
発行・発売:東京キララ社