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【将棋】順位戦終幕。躍進の20代、苦戦の30代、実力をみせた40代

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
筆者撮影

 第77期順位戦はB級1組最終戦をもって全対局が終了した。

 全クラスで昇級(挑戦)をかけた棋士が勝利して、一度も波乱の起きない珍しい展開だった。

 世代別に分けて順位戦を総括していく。

躍進の20代

 昇級の枠は全クラス(名人挑戦含む)で計10枠だが、そのうち5枠を20代が占めた。

 A級では豊島将之二冠(28)が8勝1敗という抜群の成績で名人挑戦を決めた。リーグ終盤に同星で並ぶ羽生善治九段(48)をくだした一戦は、角換わり戦法の後手番でやや不利とされる形を採用し、新研究を披露して完勝した。昨年度の順位戦は終盤に失速したが、今年度は戦いを重ねる毎に強さを増したように感じた。

 B級2組では前期にC級1組から昇級した永瀬拓矢七段(26)と千田翔太七段(24)が2期連続でアベック昇級。二人は争ったメンバーに星の差をつけての昇級で、余力を残しているように見受けられる。永瀬七段はタイトルにも挑戦中で、今期勝率ランキングも現在4位につけている。千田七段も現在5位だ。猛者が揃うB級1組だが、余力を残しての昇級とこの勝率を合わせみると来期も活躍が期待される。

 C級1組では近藤誠也六段(22)が、藤井聡太七段(16)との昇級争いを制した。あの直接対決は藤井(聡)七段に足止めを食わせた一戦として後世に残るかもしれない。渡辺明二冠でもBクラス到達は21歳の時だった。22歳でのBクラス到達はかなりのスピード出世だ。

 C級2組では石井健太郎五段(26)が前期の次点にもめげずに昇級を決めた。他の若手とは作戦選択で一線を画し、読みの力で勝負する独自スタイルで高勝率を保っている。

 昇級した4名は20代ということもあって伸びしろが大きく、今期の勝率も高い。順位戦は勝率の高さを裏切らない側面があるので上のクラスでも昇級争いに絡む可能性は十分にある。

  なお20代のタイトルホルダー、斎藤慎太郎王座(25)と高見泰地叡王(25)は昇級にあと一歩届かなかった。またスタート時はタイトルを持っていた菅井竜也七段(26)はB級1組で成績が伸び悩んだが、終盤の連勝で残留を決めた。

苦戦の30代

 30代は苦戦が目立った。

 B級1組では渡辺明二冠(34)が12戦全勝という圧倒的な成績でA級復帰を果たした。B級1組での12戦全勝は第56期(1997年度)の丸山忠久七段(現九段)以来、史上二人目の快挙だ。今年度はここ数年でも一番といえる成績で、先日は王将戦七番勝負をストレートで制して奪取を果たし、棋王戦五番勝負では防衛まであと1勝としている。

 今期勝率ランキングで現在3位につけてブレーク中の及川拓馬六段(31)は、全勝でC級2組を駆け抜けた。この勝率ならば当然のようにも思えるが、プレッシャーもある中で全勝は素晴らしいの一言だ。

 一方、A級では阿久津主税八段(36)、B級1組では橋本崇載八段(36)が降級となった。二人とも他ではリーグ入り等の活躍をしており、順位戦に星が集まらなかった。前期はA級昇級を争った両者なだけに、特に橋本八段の降級はB級1組の厳しさを感じさせられる。

 C級2組でも1名がフリークラスへ降級している。こちらも30代での降級はC級2組の競争の厳しさを表している。

 スタート時はタイトルを持っていた中村太地七段(30)はB級2組で昇級を争ったが、タイトル失冠後に調子を崩して連敗を喫し、届かなかった。

実力を見せた40代

 筆者もギリギリ30代(39歳)なので同世代の苦戦はやや寂しく、また責任の一端もあるわけだが、30代は20代の勢いに押されている印象も拭えない。

 一方でC級2組での佐藤和俊六段(40)の15年目での初昇級は30代に希望を与える活躍だった。NHK杯将棋トーナメント準優勝など実績は十分もなかなか順位戦での昇級が叶わなかったが、1・2回戦で優勝経験もある20代の棋士に連勝したことで勢いに乗った。筆者と同じ一門の棋士であり、その活躍は嬉しくそして刺激も受けている。

 40代ではもう一人、木村一基九段(45)が9期ぶりにA級復帰を果たした。斎藤(慎)王座との昇級争いを制し、最終戦では結果的に勝ったほうが昇級だった行方尚史八段(45)との決戦に勝利して見事な昇級劇だった。年初に2019年に活躍が期待される棋士という記事で木村九段をあげていたが、やはり上位陣に対する勝率の高さがこの昇級に結びついたのだろう。名人戦の舞台で木村九段の戦う姿を観たいというファンも多いに違いない。

 この二人に共通するのは、実力もさることながら、年齢を重ねてもモチベーションが落ちないことだ。気持ちを強く持っていることで、巡ってきたチャンスを掴んだのだ。

 一方、40代ではC級2組以外の各クラスで降級者が出ている。

 A級の深浦康市九段(47)は、2回戦で羽生九段に逆転負けを喫し、波に乗れなかった印象だ。

 B級1組の野月浩貴八段(45)は、7回戦の松尾歩八段(38)戦での逆転負けが痛恨だった。

 今期は意外な降級者や降級点者(B級2組以下はいきなり降級はせず、降級点がたまると降級する)も多かったが、リーグ序盤~中盤で流れをつかめないと実力者であっても成績不振につながる。それだけ各クラスで実力が拮抗しているのだ。

 40代も特に後半に入ると体力的にも厳しいところがあり、降級者も増えてくる。それだけにC級1組での杉本昌隆八段(50)の昇級は見事だった。弟子の藤井(聡)七段の活躍が刺激になっているとのことだが、当然ながら実力がなければこの成績は取れない。先日、振り飛車は冬の時代へという記事を書いたが、その中で振り飛車を駆使しての昇級劇は、佐藤(和)六段の昇級とともに振り飛車党へ明るい話題を届けたと言えよう。

 50代後半、60代ともなれば厳しい成績をとることもあるが、若い人たちに混じって夜中まで戦う姿には感動も覚える。筆者もベテラン棋士の戦う姿に何かを感じずにいられなかったことは幾度もある。それもまた棋士の魅力であろうと思う。

名人戦は4月に開幕!

 順位戦が終われば名人戦の季節となる。七番勝負に名乗りを上げた豊島二冠は今年度最も活躍した棋士と言っても過言ではない。佐藤天彦名人は最強の挑戦者を迎えた。佐藤(天)名人の4連覇か、豊島二冠が3つ目の戴冠か?!名人戦は4月10日(水)に幕を開ける。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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