【将棋】振り飛車は冬の時代へ。復活のカギは「藤井システム」か?
第68期王将戦七番勝負は2月25日、挑戦者の渡辺明棋王(34)のストレート勝ちで幕を閉じた。敗れた久保利明王将(43)は無冠へ転落した。
将棋の戦法を大きく2つに分けると居飛車と振り飛車になる。振り飛車は居飛車より狙いや指し手がわかりやすく、将棋ファンに人気がある。王将戦で敗れるまで久保九段はタイトルホルダーで唯一の振り飛車党であり、振り飛車を好むファンから大きな声援を受けていた。今回、久保九段がストレート負けを喫したことで、振り飛車が冬の時代に入ったという印象を誰もが持ったことだろう。
振り飛車は冬の時代に
2018年度が始まる前には二人の振り飛車党がタイトルを持っていたが、7~9月に行われた第59期王位戦七番勝負で振り飛車党の菅井竜也王位(当時)が豊島将之棋聖(当時)に敗れ、今回は久保王将が渡辺棋王に敗れた。
今回の王将戦七番勝負の4局を振り返ると、振り飛車側が有利に進めた将棋は一つもなかった。なぜそんなに振り飛車が苦しいのか。その要因の一つに、後手番におけるゴキゲン中飛車の成績不振があげられる。
久保九段は王将戦における第1局と第3局(いずれも後手番)にゴキゲン中飛車を採用したが、2局とも序盤から形勢をリードされてしまいチャンスがめぐってこなかった。
2018年度のプロ公式戦において、後手番におけるゴキゲン中飛車の勝率は4割程度だ。ここ数年は年間で100局以上指される人気戦法だったが、今年度はまだ70局程度しか指されておらず、採用数の減少ぶりからも苦しさがうかがえる。
いっときは居飛車党も後手番での作戦としてゴキゲン中飛車を採用していたが、渡辺二冠や広瀬章人竜王もここ数年は採用していない。
復活のカギは?
振り飛車は終わってしまったのか、そんな声も聞こえてくる。しかし希望もある。一つのキーワードは「三間飛車」。角道を止めた、いわゆるオーソドックスな三間飛車だ。
2017年にNHK杯将棋トーナメントで準優勝して一躍脚光を浴び、昨年も銀河戦で決勝トーナメント準決勝まで進出した佐藤和俊六段(40)は、三間飛車を武器に結果を残した。
若手の西田拓也四段(27)は三間飛車で7割近い高勝率をあげている。
活躍している振り飛車党は三間飛車を得意としていることが多い。初手に『▲7八飛』といきなり三間飛車を宣言する指し方は、2018年度のプロ公式戦で6割近い勝率をあげて三間飛車のポテンシャルを示している。
最近プロ入りした山本博志四段(22)も三間飛車の使い手で、若手に追随者が現れていることも明るい傾向だ。
藤井システム
もう一つのキーワードは「藤井システム」。
元々「藤井システム」は振り飛車でも四間飛車における作戦だったが、先ほど名前をあげた佐藤(和)六段は、三間飛車に藤井システムをかけ合わせ、ときには雁木囲いを組み合わせるなど変幻自在だ。
久保九段も王将戦第4局で、三間飛車+藤井システムを採用している。結果は出せなかったが、途中まで主導権は握っていた。
そして「藤井システム」となればこの男も黙っていないはずだ。
「藤井システム」の生みの親である藤井猛九段(48)は、角道を止めたオーソドックスな四間飛車で5連勝中で、木村一基九段(45)ら強敵をくだしている。
元号が変わり新時代を迎える2019年に、20年以上前に誕生した「藤井システム」が振り飛車の希望の光となっていることは、その優秀性を示しているといえよう。
将棋AIと振り飛車
振り飛車は相居飛車ほど将棋AIによる研究が進んでいない。なぜなら将棋AIは振り飛車を苦手としているからだ。本題とずれるので深くは述べないが、振り飛車が苦手な原因は将棋AIの進化の過程と密接な関係がある。筆者は将棋AIを用いた研究をメインとしているが、振り飛車における評価値は相居飛車ほど信憑性はないとみている。
コンピュータ将棋選手権やネット将棋で将棋AIが指す振り飛車は、居飛車ほどではないものの少しずつ新しい構想や手筋も生み出しており、振り飛車の新たな可能性を示している。
相居飛車における矢倉や角換わりでは、将棋AIによる新しい構想によって可能性が広がった。将棋AIがさらに進化することで振り飛車にもそれが起こると筆者は予想している。
振り飛車の復活を願うファンの期待は大きい。