「農水省恵方巻き削減要請が正しくない」?見切りより捨てた方が本部が儲かるコンビニ会計を理解していない
農林水産省が小売業に「需要に見合う数を販売するよう」通知を出したことが正しくない、とはどういうこと?
恵方巻き、ロス削減要請が正しくない理由~見えない別のムダが発生~という記事を目にした。
Yahoo!ニュースもこれを転載している。
これを書いた方は新聞社社員だそうだ。が、残念ながら、食品業界でロスが生じる社会構造や背景を理解されて書いておられないようである。
「過剰な生産と売れ残りは流通企業も損失になるから作り過ぎは自然に減る」と言うなら、もうとっくにロスは減っている
「過剰な生産と売れ残りは流通企業も損失になるから作り過ぎは自然に減る」と言うなら、もうとっくにロスは減っている。
なぜ年間646万トンも発生しているのだろう?うち、事業者由来が357万トンと過半数である(約55%)。しかも前年度の統計値よりも増えていますが。
反論その1「月60万円以上の廃棄はいい経営」と言うコンビニ本部はなぜ経営し続けられているのか
「過剰な売れ残りが流通企業の損失になるから作り過ぎは自然に減る」との主張に対して。では、なぜ「月に60万円分ぐらいを捨てるのがいい経営」と店舗に指示している大手コンビニエンスストアは、過剰な売れ残り(損失)を出し続けていながら赤字で破綻せずに何十年も経営し続けられているのか?
「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩で書いた通り、売れ残って損失を被るのはコンビニオーナーであり、コンビニ本部ではない。なぜなら「コンビニ会計」というコンビニ独自の会計システムにより、売れ残ったもののコストの8割以上はオーナーが持ち、いくら売れ残って捨てようが、本部の懐が痛まないからだ。見切り販売されると本部の取り分が少なくなるので、本部としては、売れ残りは見切り販売せず、捨ててもらった方が本音としてはいい。
「捨てた方がまし」という状態が日本全体に蔓延しているからこそ、2018年12月、国税庁はフードバンクへ寄付すれば全額損金算入できるとしたのだ。米国では、税制優遇や免責制度があり、廃棄するより寄付した方がインセンティブ(メリット)があり、リスクも少ないから、廃棄ではなく寄付をする機運がある。
反論その2 作り手は欠品を起こすと売り手に取引停止を喰らうので作り過ぎは自然に減らない
「損失になるから作り過ぎは自然に減る」という主張に対して。食品業界では、メーカーが欠品を起こすと、小売から取引停止処分を受ける可能性がある。売り上げが上がるはずだったのに、欠品でそれを失わせたとして、ペナルティ(補償金)が課せられる場合がある。
だから、いくらメーカーにとって損失であろうと、商売(取引)を続けていく以上、作り過ぎは避けられない社会構造になっているのだ。日本全国、製造業が何万社あるのか?自然になど、減るわけがない。
作り手より売り手が上位であるからこそ、公正取引委員会は「優越的地位の濫用を禁じている」。そうしていても、なお、ヒエラルキー(上下関係)は揺るがないからこそ、農林水産省が今回、通知を出すに至ったのだ。ヒエラルキーの下位にいる作り手から、強いバイイングパワーを持つ上位の売り手に対し、「作り過ぎをやめて適量まで減らしてください」とは言えないからだ。
反論その3 恵方巻きを買い損ねた消費者は、いつ出直して買いに行くのでしょう?翌日行っても恵方巻きは売っていませんが。
この記事を書いた人は、こうも書いている。
2月3日の販売日に恵方巻きが売り切れていて、別の日に出直すとは、どういう意味だろう?節分の翌日2月4日には、恵方巻きは商品棚から撤去され、廃棄の道をたどっているが・・・(その日しか売れないクリスマスケーキも同様だが、リサイクルされるのは全体のごく一部)。
反論その4 需要予測精度はIoTにより格段に向上している
この記事の筆者は、「事前に需要が知ることができれば苦労しない」、つまり正確に需要予測できないと書いている。
では、なぜ日本気象協会と相模屋食料は、気象データを使うことで、年間30%、コストにして数千万円ものロスを削減できたのだろうか。彼ら2社の取り組みは、経済産業省のプロジェクトの一環である。2社の取り組みの成功後に地元の小売業も巻き込んで3社の取り組みとなっており、供給と需要のズレ、つまり小売の発注数のズレは、すでに0.数%レベルにまで達している。
なぜ、農林水産省の通知で「お手本」とされた兵庫県のヤマダストアーは、過半数の店舗で恵方巻きを完売できたのだろう?
反論その5 食品ロスと飢餓問題とは関連している
記事の筆者は「食品ロスを減らしても飢餓をなくす役には立ちません」と書いている。もちろん、余った恵方巻きを飢餓地域に送ることは無理だ。ただ、このままいくと2050年に人口が90億人を超え、100億人近く達し、食料が足りなくなる。ただでさえ足りないのがさらに足りなくなる。だから、食べられるものを捨てずに(食品ロスにせずに)食料資源を大切にしていこう、というのが、農林水産省の通知でもある。
2015年9月の国連サミットで採択したSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)でも、飢餓の撲滅と食品ロス削減とが同時に目的に入っている。
反論その6 「食糧」は主食となる米や麦に使う
細かいことだが、記事で書かれている「食糧」は、米(コメ)や大豆など、主食となるものを指す。食料全般を指すなら「食料」という表記を使う。
以上、記事を目にして感じたことを挙げた。
筆者も、恵方巻きの廃棄がそう簡単に減るとは思っていない。予約販売しても当日販売を減らさないならロスは出ると思っている。だが、恵方巻きに関しては、「見えない別の無駄が発生する」とは考えていない。余る前提で大量に作り、販売する恵方巻きこそ無駄そのものだ。
記事を書いた人曰く「時間のロスなど目に見えない他のコストと兼ね合いで食品ロスを考えなければ」とのこと。そうであれば、世界の食料生産の3分の1(13億トン)を捨てている現状、廃棄された13億トンもの食料が出来上がるまでのフードバリューチェーン(生産地から製造、卸、小売、消費者に至るまでの)全てで費やされた時間のロスがどれほど甚大なのか、当然考えるべきだろう。