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<シリア>中国・新疆出身のウイグル人IS戦闘員「私の心は死んでしまった」(写真7枚)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
ISに参加したウイグル人の部隊。(2017年・IS映像)

◆中国の弾圧逃れトルコへ、その後シリア入り

過激派組織「イスラム国」(IS)には多くの国から外国人戦闘員が加わった。欧米人だけでなく、アジア系も少なくない。シリア北東部にある拘置所には、シリア民主軍(SDF)が拘束した元戦闘員ら900人が収容されている。(玉本英子/アジアプレス)

昨年10月、拘置所を訪ねた。自動小銃を携えた看守が面会室に連れてきたのは中国・ウルムチ出身のウイグル人(35)だった。

彼は私を見るなり、顔をこわばらせた。中国当局の捜査官と思ったらしい。パスポートや記者証を見せて日本の記者であることを説明すると、取材には応じるが顔だけは撮らないで、と英語で話した。IS内部での呼び名、アブ・バクルとだけ名乗った。

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拘置所で面会したウイグル人の元IS戦闘員「アブ・バクル」。中国に戻されると厳罰に処せられる可能性があり、送還を恐れていた。(2018年・撮影:坂本卓)※写真の一部をぼかしています。
拘置所で面会したウイグル人の元IS戦闘員「アブ・バクル」。中国に戻されると厳罰に処せられる可能性があり、送還を恐れていた。(2018年・撮影:坂本卓)※写真の一部をぼかしています。

彼の故郷、中国西端の新疆ウイグル自治区は人口約2200万人。その半数近くがウイグル人で大半はイスラム教徒。独立運動や反政府的な動きを警戒する中国政府は宗教抑圧や迫害を続けてきた。

「弟の家は理由もなく何度も家宅捜索された。このままでは自分も逮捕されると感じた」

ISには多くのウイグル人が加わったが、ウイグルの人権問題とISの過激主義を混同すると、中国での弾圧の口実を作ることにもつながる。(2015年・IS映像)
ISには多くのウイグル人が加わったが、ウイグルの人権問題とISの過激主義を混同すると、中国での弾圧の口実を作ることにもつながる。(2015年・IS映像)

2014年8月、彼は妻と幼い子どもたちを連れて、ベトナム経由でトルコに入った。だが生活は苦しかった。皿洗いや掃除の仕事で一日2000円程度を稼ぐのがやっとだった。

そんなとき同郷の知り合いが連絡してきた。

「月給1000ドル(約10万円)の仕事がある。家や食費はタダ」。

場所はシリアのIS支配地域。シリア国境そばの町で外国人30人と合流し、案内人の手引きでフェンスを越えた。軍事キャンプで数か月の戦闘訓練を受け、シリア・イラク国境の町カイムに家を与えられた。しかし家族手当も含めてもらえたのは月に2万円ほど。妻はなぜこんなところに連れてきたのかと嘆いた。

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家族とともにIS地域に入ったウイグル人の子供は、学校でISの方針による思想・宗教教育を受けさせられた。(2015年・IS映像)
家族とともにIS地域に入ったウイグル人の子供は、学校でISの方針による思想・宗教教育を受けさせられた。(2015年・IS映像)

不満を漏らすと密告されるかもしれず、同胞のウイグル人にも何も話せない。さらに地元シリア人の住民も戦闘員の彼と距離を置き、ずっと孤独だったという。

空爆が激しくなるなか、トルコへの脱出をアレンジする地下業者を探す。それをIS治安機関が察知、2か月間、拘置された。「中国かトルコのスパイだろ」と、殴る蹴るの拷問を受けた。

釈放後、有志連合の空爆で手を負傷、バイク修理でなんとか生活をつないだ。住んでいた街に戦火が迫り2015年末、家族とともにSDFに投降。妻と子供は別のキャンプに収容されている。

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中国政府に迫害されたウイグル人たちの苦悩を、ISは過激主義に転化しようとした。(2015年・IS映像)
中国政府に迫害されたウイグル人たちの苦悩を、ISは過激主義に転化しようとした。(2015年・IS映像)

インタビューを終えると、私の取材ノートを見せてほしいと言ってきた。字を見て「あぁ、日本語だ」とホッとした表情で言った。そして再度「顔だけは出さないで。もし公表されたら、故郷の母親や家族が殺される」と求めた。

ISの元戦闘員として中国に送還されたら、彼も家族も厳しい処罰を受ける。ゆえにすべてを正直に語ったとは思わない。ISに加わった外国人の背景は様々で、思想に共鳴した戦闘員もいれば、家族を養うためにシリア入りした者もいる。悲しいのは、中国の弾圧を逃れてきたウイグル人が、今度はシリアで地元住民や異教徒を抑圧する側になり、ときにISからもスパイと疑われたことだ。

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戦闘訓練を受けるウイグル人の子供。IS映像では、スパイを銃殺する様子も映る。連れられてシリア入りした子供もISの犠牲者といえる。(2017年・IS映像)
戦闘訓練を受けるウイグル人の子供。IS映像では、スパイを銃殺する様子も映る。連れられてシリア入りした子供もISの犠牲者といえる。(2017年・IS映像)

「中国でもシリアでも、ずっと怯えてきた。私の心はもう死んでしまった」

アブ・バクルは、力なく言葉を吐いた。この拘置所から出ることができるなら、どこか安全な地で家族だけでひっそり暮らすのが唯一の願いという。

「IS兵士」として自爆突撃したウイグル人も少なくない。これは2015年6月にイラク軍拠点に爆弾車両で突入し、自爆死した戦闘員。(2015年・IS写真)
「IS兵士」として自爆突撃したウイグル人も少なくない。これは2015年6月にイラク軍拠点に爆弾車両で突入し、自爆死した戦闘員。(2015年・IS写真)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2019年06月25日付記事に加筆したものです)

アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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