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<シリア>IS戦闘員のインドネシア人妻「宣伝映像にだまされた」(写真7枚)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
インドネシア出身のIS妻(23)。(2018年10月シリア北東部・撮影:玉本)

◆「以前は日本のアニメが好きな普通の学生でした」

シリアやイラクにまたがる地域を支配した過激派組織イスラム国(IS)。シリア民主軍(SDF)と米軍主導の有志連合の壊滅作戦で、今年3月末にはシリア国内の支配地域をほぼ失った。民主軍に捕まった戦闘員は厳重な拘置施設に送られ、妻や子供たちはキャンプに収容される。(玉本英子/アジアプレス)

シリア北東部のロジ・キャンプは、一面に数百もの白いテントが広がる。ここにはIS外国人戦闘員の妻と子供たちがいる。女性看守の案内で、テントのひとつに入った。5人が共同で使い、ベルギー人、ベトナム系フランス人と国籍も様々だ。

シリア北東部にあるキャンプ。IS妻子ら約500人が収容されている。出身国の一部の政府は送還を受け入れているが、元IS家族の帰国には消極的な国もある。(2018年10月シリア北東部・撮影:玉本英子)
シリア北東部にあるキャンプ。IS妻子ら約500人が収容されている。出身国の一部の政府は送還を受け入れているが、元IS家族の帰国には消極的な国もある。(2018年10月シリア北東部・撮影:玉本英子)

インドネシア人の女性(23歳)は、本名ではなくIS内部名だったウンム・ヤヒヤと名乗った。「昔はアニメに興味があって、日本に行ってみたいと思っていたの」と、流暢な英語で話す。ジャカルタの中流家庭に育ち、大学で経済を学んでいた。

ISが急速に台頭した時期、ネットでは宣伝映像が拡散した。戦闘シーンだけでなく、IS統治下で幸せに暮らす市民の姿がいくつも映し出された。

「本当のイスラムの国家ができたと知り、心が掻き立てられた」。

IS宣伝映像に映し出される「イスラム国の幸せな暮らし」。学校に通う子は一部いたが、実際には多くの地域では、親が過激思想の教育を恐れ、学校に行かせないケースがあいついだ。(IS宣伝映像)
IS宣伝映像に映し出される「イスラム国の幸せな暮らし」。学校に通う子は一部いたが、実際には多くの地域では、親が過激思想の教育を恐れ、学校に行かせないケースがあいついだ。(IS宣伝映像)

<イラク>「イスラム国(IS)」の装甲車両 その威力とは(写真10枚)

2015年12月、家族には卒業旅行へ行くと言い残し、トルコに向かう。ネットで知り合った関係者の指示で、シリア国境近くの町でISメンバーと接触した。トルコ側の警備が厳しくなったこともあって、町に数か月潜伏。待機グループにいた英語の話せるアルジェリア人の男との結婚をISにすすめられ、彼女は受け入れた。その後、密かに国境を越え、シリア入り。夫は戦闘訓練を受けたが、足が不自由だったため、事務部門に配置された。

◆「ずっと背負っていかなくてはならない」

筆者とインドネシア人IS妻、男児。彼女はアルジェリア人戦闘員と結婚、男児を出産。※写真の一部をぼかし処理しています。(2018年10月シリア北東部・撮影:坂本卓)
筆者とインドネシア人IS妻、男児。彼女はアルジェリア人戦闘員と結婚、男児を出産。※写真の一部をぼかし処理しています。(2018年10月シリア北東部・撮影:坂本卓)

二人はシリア・イラク国境の町に家をあてがわれ、暮らし始める。実際の生活は、想像とはかけ離れたものだった。病院には薬もろくになく、近所の子供たちは学校に行かずに路地で遊んでいるだけ。テレビやネットも禁じられ、携帯電話もISに取り上げられた。

「宣伝映像はフェイク(偽物)だった。騙されたとわかったときには遅かった」。

インドネシア人の戦闘員と妻を家に招いたこともあったが、不満を漏らすと密告されるかもしれず、心を開くことはなかった。

心の支えは夫との間に生まれた息子だった。一方、戦況は悪化の一途をたどり、昨年5月、彼女と子供が先に脱出するが、途中で民主軍に拘束された。夫とはそれきりで、生死は分からない。後悔の日々というが、夫への愛は変わらないと話す。

キャンプに収容されて数か月後、両親への電話を許された。2年半ぶりの会話。母は驚き、嘆いたが、無事で帰って来てという言葉をかけてくれた。その日はずっと涙が止まらなかった。

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インドネシア出身のIS戦闘員。妻子ともにIS支配地域に入った者も少なくない。(IS宣伝映像)
インドネシア出身のIS戦闘員。妻子ともにIS支配地域に入った者も少なくない。(IS宣伝映像)
IS映像に登場した戦闘員と子供たち。赤はマレーシア、緑はインドネシアのパスポート。このあと焼き捨て、国に帰らないと誓う。
IS映像に登場した戦闘員と子供たち。赤はマレーシア、緑はインドネシアのパスポート。このあと焼き捨て、国に帰らないと誓う。

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ISには40か国以上の外国人が参加した。拘束された元戦闘員や妻のなかに、いまもIS信奉者がいることから各国の政府は本国帰還に消極的で、シリアには一万人以上が収容されている。インドネシアからは500人以上がISに入ったとみられる。インドネシア政府は一部の妻らを帰国させており、彼女も親元に帰る日を願っている。

「ISはたくさんの人の運命を変えてしまい、私もその組織に加担してしまった。ずっと背負っていかなくてはならない」。

そう言って目を伏せた。

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シリアのIS地域で軍事訓練を受けさせられるインドネシア人の子供。現在これらの子供たちの本国帰還も問題となっている。(IS宣伝映像)
シリアのIS地域で軍事訓練を受けさせられるインドネシア人の子供。現在これらの子供たちの本国帰還も問題となっている。(IS宣伝映像)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2019年05月28日付記事に加筆修正したものです)

アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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